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アンネマリー編〜転生に気付いたのでやり直します

閑話 ある公爵令息の話 5

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 アンネマリーに今までのことを謝りたくて、何度も彼女のクラスに訪ねて行くが、全く会えない。避けられているのは分かっていたが、とにかく会えないのだ。
 アンネマリーのクラスメイト達が、何となく冷ややかな反応なのが伝わる。今まで彼女を蔑ろにしてきた酷い婚約者のイメージなのだろう。婚約が白紙になったはずなのになぜと、ヒソヒソと言う声も聞こえる。

 エリックからは、今まで私に纏わりついていた令嬢達に、嫌がらせを受けていたアンネマリーに対して、同情的に見ていた者たちが多いことや、アンネマリーは上位の貴族だけでなく、下位の貴族令嬢・令息にも身分に拘らず仲良くしていたそうなので、クラスメイト達との関係が良好と思われるから、私に対しては良い感情は持っていないだろうなと言われる。
 
 自分がすべて悪いのは知っているのだ。それでも諦められない。

 そんな時に噂に聞くのは、アンネマリーがマディソンと親しくしていることや、よく二人で勉強をしているというもの。しかも、マディソンに思いを寄せる令嬢達以外は、好意的に捉えているようだ。

 どうしようもないくらい黒い感情が込み上げてくる。マディソンはアンネマリーが好きなのか?

 ある時、クラスでマディソンを慕っているであろう令嬢が、マディソンに詰め寄って話をしている現場を目撃する。

「私はずっと近くでマディソン様をお慕いしてきましたわ。それなのに、なぜスペンサー侯爵令嬢と?あの方は、最近まで別に婚約者がいた身であるにも関わらず、簡単に他の男性に乗り換えるような女ではありませんか。マディソン様はスペンサー侯爵令嬢に騙されているのですわ。目を覚ましてくださいませ。」

「一方的に気持ちを押し付けられた上に、なぜ私が友人と認めてもいない君に、人間関係のことに口を出されなくてはならないのか疑問なのだが。」
「しかも彼女の事を何も知らないくせに、知ったような口を利くのだな。…不愉快だ。二度と話しかけないでくれ。」
「それと、私がこのような態度だからとスペンサー侯爵令嬢に対して、要らぬ噂話を立てたり、危害を加えようとするなら、どうなるか分かっているよな?スペンサー侯爵令嬢を、本当の妹のように可愛がっている王太子殿下が黙っていないだろうし、彼女は私の大切な友人でもあるのだから、何かあれば、全力で対応させて頂く。あのケール男爵令嬢みたいになりたいなら別だが…。分かったなら、早急に去ってくれ。」

 そこまで言われた令嬢は、泣きそうになりながら黙って去って行くのであった。

 マディソンはこれ以上にない程、冷たい口調でその令嬢を突き離した。しかし、これはアンネマリーを守るために言っているのだと今なら分かる。私が出来なかったことを、マディソンはしているのだ。

 そして、長期休暇まであと少しと言うときに、また嫌な噂を耳にする。マディソンがアンネマリーに跪いていたというのだ。なぜ跪く?告白でもしたのか?私は、謝る機会も持てないのに。
 
 嫉妬で狂いそうだ…。

 そんな私を見て、エリックや騎士志望の友人達が、アンネマリーの友人のホワイト侯爵令嬢に頼んで、何とか会わせてもらえないか、頼んでみては?と提案してくる。彼女の友人達は私を良く思っていない事は知っているが、他にいい考えが思い浮かぶ訳でも無かったので、その案に乗ってみることにしたのだが…。

 婚約者である魔術師団長子息を通じて、ホワイト侯爵令嬢を呼び出してもらい、何とかアンネマリーと会って話が出来ないか頼んでみる。しかし、予想通りの反応であった。

「アンに今更何をお話になるのでしょう?今まで婚約者らしい事もせず、蔑ろにして。取り巻きの御令嬢達が酷いことをしても見て見ぬフリをしていた貴方が。今後、このような接触はしないでくださいませ。」
「…生意気な事を申しているのは分かっております。大変申し訳ありませんでした。失礼致します。」

 情け無いが何も言えなかった。今までずっと話す機会は沢山あったのに、彼女と向き合うことをやめたのは私なのだから。

 悲痛な毎日を過ごしていると、長期休暇前日の学園主催のダンスパーティーの日を迎える。
 アンネマリーをエスコートしたかったが、今の自分にはその資格がないのだ。結局、彼女に謝ることも、自分の気持ちを伝えることも出来ずに、今日まで来てしまった。

 学園のパーティー会場でエリックや騎士志望の友人達といると、一瞬ザワっと騒がしくなる。誰か来たのか、入り口付近に目をやると…。そこには、空色のドレスに身を包んだ、妖精姫がいたのであった。

 マディソンが大切そうに、アンネマリーをエスコートしている。それだけでも嫉妬に狂いそうなのに…、他の令息までアンネマリーに見惚れているのが許せない。
 友人達が、「綺麗だな」とか「マディソンは上手くやったな」など口にしている。

 しかし、本当に落ち込むのことになるのはこの後であった。
 休暇前のパーティーに、何故か王太子殿下が来られ、不思議に思っていると、学園長がアンネマリーが飛び級制度を利用し、卒業認定試験に合格したので、本日をもって卒業するという事を発表したのだ。
 彼女の友人以外は、みんな知らなかったようで、会場が騒つく。しかし、私はそれどころではなかった。

 私を置いて先にいなくなるのか。私には何も知らせることなく、黙っていなくなるのか。マディソンには頼っているのに、私には何も頼らず、求める事もせずに。
 
 君の思い描く未来には、私はいないのだな。

 悲しいとか、苦しいとかそれ以上の言葉があるならば、その時の私はまさにその状態であったと思う。

 ギリギリのところで理性を保っていられたのは、公爵令息としての今までの教育の賜物とプライドがあったからだ。そして、こんなどうしようもない私を、見捨てる事なく、支えてくれるエリック達がいてくれたから。

 

 




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