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アンネマリー編〜転生に気付いたのでやり直します
閑話 ある公爵令息の話 2
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仮とは言え、婚約者になれたことが嬉しくて、彼女に会える日は自然に笑みが溢れてしまう。
アンネマリーは公爵家に遊びにくる時は、いつも彼女の手作りのクッキーを持って来てくれる。貴族令嬢がお菓子を手作りするなんて、かなり珍しいが、彼女の作ったクッキーは、甘さが控えめで優しい味がするので、いくらでも食べられるのだ。
彼女はとても手先が器用なのか、お菓子だけでなく、刺繍も子供とは思えないレベルのものを作ることが出来る。
剣の鍛練をしている私を、ニコニコしながら見ているアンネマリーが可愛くて堪らない。彼女の為に早く強くなりたくて、必死だった。
我が国には、騎士を目指す者にとっては特別な、王家主催の剣術大会がある。特に大会最終日に行われる青年の部は騎士団の幹部候補生や、名の知れた冒険者など、手練れが出場することで有名なのだ。青年の部で優勝すると、国王陛下より王家と剣の紋章が入ったブローチを賜ることができ、それは、国王が認めた騎士と言う印であり、騎士なら誰でも憧れるものである。
更に、その賜ったブローチを自分の大切な人に捧げるのが、恒例になっており、大会終了後に妻や恋人、婚約者に跪いてブローチを捧げる騎士が多い。それは、この名誉は全て愛する貴女に捧げますと言う意味らしいが…、その様子を偶然目にしたアンネマリーは、目をキラキラさせて、「素敵だわ。」と喜んでいたのだ。
そうか。じゃあ、いつかアンネマリーの為に優勝しなくてはと、更に鍛練に取り組むようになる。
成長するにつれて、更に美しくなるアンネマリーは、お茶会に出席する度に、他の貴族令息から熱い瞳で見つめられる事が多くなってきた。
仲が良かったアンネマリーとギクシャクし始めたのは、そんな時だったと思う。
他国の王族の歓迎会を兼ねたお茶会でのこと。美しいアンネマリーに興味を持つ子息は珍しくないが、他国の王子に声を掛けられて、あの笑顔で会話するアンネマリーに、怒りをぶつけてしまった。むやみに笑顔をつくるな、媚びるなと。
頬を赤く染め、恋に落ちたような表情の王子。それを見て不安になってしまったのだ。他国の王子から正式に縁談が来たら、いくら公爵家の嫡男が婚約者であっても、難しい立場になると。
後で冷静になると気付くことだが、別に媚びているのではなく、ゲストに対して礼儀として接しただけなのだ。
分かってはいるが、上手く伝える事が出来ない自分は、怒りからキツい口調になってしまっていた。
彼女はとても傷付いた表情をしていたと思う。
アンネマリーは自分の魅力を分かっていない。あの花が綻ぶような笑顔を、むやみに見せてはならない。ただでも美しいのだから、派手に着飾る必要もない。お願いだから、あまり目立たないでくれと思っていた。
デビュタントでのこと。白い純白のドレスを着たアンネマリーはまさに妖精姫であった。やはり、周りの令息達は熱の籠った目で、彼女を見つめている。
面白くない。彼女を見るな!自分が不機嫌になるのが抑えられなかった。
私がこんな気持ちでいることに、アンネマリーは気付いていないだろうと思うと、気持ちが沈んでいく。
この婚約は私が望んだだけの、仮の婚約。アンネマリーの気持ちは何もない。
気付くと、私はアンネマリーに対して以前のように自然に接することが出来なくなり、またそれが辛くて、彼女を避けるようになってしまっていた。
その自分の態度が、周りの令嬢達の愚かな行動に繋がっていると気付いたのは、少し経ってからであった。
8つの騎士団をまとめる名門公爵家の嫡男で、人より見目が良い自覚はある。無愛想で相手にしていないつもりでも、令嬢達は媚びて付き纏ってくるのだ。
たとえ、美しく家柄も血筋もよい婚約者がいたとしても。それが不仲に見えれば、そこに付け込んでくる。
アンネマリーがそんな令嬢達に、嫌がらせに近い扱いを受けているところを偶然目にした時、令嬢達には正直、殺意を覚えた。しかし、なぜアンネマリーは言い返さない?あんなレベルの令嬢達なんて、いくらでも言い負かせることが出来るはずなのに。
アンネマリーは、何も読み取れない表情でいる。むしろ、アンネマリーの親友である高位の貴族令嬢達から殺気が漂っているように見えた。
…相手にする価値もないってことなのか。こんなただの仮の婚約者になんて、助けを求める必要もないし、こんなレベルの低い令嬢達なんて、相手にすらならないと。
この黒いモヤのかかった気持ちを、自分でもどうしていいのか分からなくなっていた。
しばらくして、学園でアンネマリーを見ない日が続いていた。どうやら、休んでいるらしい。今までこんなに休み続けたことなんて無かったのに。何があったのか。
幼馴染で親友の王都騎士団長子息のエリックには、私がアンネマリーを心配しているのがバレバレであったようで、そんなに心配なら、侯爵家に訪ねて行けばいいのにと言われるが、ここ数年全くお互いの家を行き来してなかった私には、とても難しい事であった。
見かねたエリックが、アンネマリーの親友の1人である、ホワイト侯爵家令嬢の婚約者に頼んで探りを入れてもらっていた。病気で休んでいるようだが、詳しくは分からないみたいだと知らされる。
今まで病気なんて聞いた事がなかったのだが、大丈夫なのだろうか…やはり無理にでも侯爵邸を訪ねた方がいいのか…彼女に何かあったらどうすれば…と不安に駆られる日々を送っていたある日、彼女が久しぶりに登校してきたのだった。
病み上がりで、少し痩せたようである。
しかし、もっと気になったことがある。綺麗なプラチナブロンドの髪を下ろし、清楚な化粧を施して、今までとは違う雰囲気を漂わせ、更に美しくなった彼女に、何があったのかと。
病気で休んでいた時とは違った、新たな不安が襲ってくるのであった。
アンネマリーは公爵家に遊びにくる時は、いつも彼女の手作りのクッキーを持って来てくれる。貴族令嬢がお菓子を手作りするなんて、かなり珍しいが、彼女の作ったクッキーは、甘さが控えめで優しい味がするので、いくらでも食べられるのだ。
彼女はとても手先が器用なのか、お菓子だけでなく、刺繍も子供とは思えないレベルのものを作ることが出来る。
剣の鍛練をしている私を、ニコニコしながら見ているアンネマリーが可愛くて堪らない。彼女の為に早く強くなりたくて、必死だった。
我が国には、騎士を目指す者にとっては特別な、王家主催の剣術大会がある。特に大会最終日に行われる青年の部は騎士団の幹部候補生や、名の知れた冒険者など、手練れが出場することで有名なのだ。青年の部で優勝すると、国王陛下より王家と剣の紋章が入ったブローチを賜ることができ、それは、国王が認めた騎士と言う印であり、騎士なら誰でも憧れるものである。
更に、その賜ったブローチを自分の大切な人に捧げるのが、恒例になっており、大会終了後に妻や恋人、婚約者に跪いてブローチを捧げる騎士が多い。それは、この名誉は全て愛する貴女に捧げますと言う意味らしいが…、その様子を偶然目にしたアンネマリーは、目をキラキラさせて、「素敵だわ。」と喜んでいたのだ。
そうか。じゃあ、いつかアンネマリーの為に優勝しなくてはと、更に鍛練に取り組むようになる。
成長するにつれて、更に美しくなるアンネマリーは、お茶会に出席する度に、他の貴族令息から熱い瞳で見つめられる事が多くなってきた。
仲が良かったアンネマリーとギクシャクし始めたのは、そんな時だったと思う。
他国の王族の歓迎会を兼ねたお茶会でのこと。美しいアンネマリーに興味を持つ子息は珍しくないが、他国の王子に声を掛けられて、あの笑顔で会話するアンネマリーに、怒りをぶつけてしまった。むやみに笑顔をつくるな、媚びるなと。
頬を赤く染め、恋に落ちたような表情の王子。それを見て不安になってしまったのだ。他国の王子から正式に縁談が来たら、いくら公爵家の嫡男が婚約者であっても、難しい立場になると。
後で冷静になると気付くことだが、別に媚びているのではなく、ゲストに対して礼儀として接しただけなのだ。
分かってはいるが、上手く伝える事が出来ない自分は、怒りからキツい口調になってしまっていた。
彼女はとても傷付いた表情をしていたと思う。
アンネマリーは自分の魅力を分かっていない。あの花が綻ぶような笑顔を、むやみに見せてはならない。ただでも美しいのだから、派手に着飾る必要もない。お願いだから、あまり目立たないでくれと思っていた。
デビュタントでのこと。白い純白のドレスを着たアンネマリーはまさに妖精姫であった。やはり、周りの令息達は熱の籠った目で、彼女を見つめている。
面白くない。彼女を見るな!自分が不機嫌になるのが抑えられなかった。
私がこんな気持ちでいることに、アンネマリーは気付いていないだろうと思うと、気持ちが沈んでいく。
この婚約は私が望んだだけの、仮の婚約。アンネマリーの気持ちは何もない。
気付くと、私はアンネマリーに対して以前のように自然に接することが出来なくなり、またそれが辛くて、彼女を避けるようになってしまっていた。
その自分の態度が、周りの令嬢達の愚かな行動に繋がっていると気付いたのは、少し経ってからであった。
8つの騎士団をまとめる名門公爵家の嫡男で、人より見目が良い自覚はある。無愛想で相手にしていないつもりでも、令嬢達は媚びて付き纏ってくるのだ。
たとえ、美しく家柄も血筋もよい婚約者がいたとしても。それが不仲に見えれば、そこに付け込んでくる。
アンネマリーがそんな令嬢達に、嫌がらせに近い扱いを受けているところを偶然目にした時、令嬢達には正直、殺意を覚えた。しかし、なぜアンネマリーは言い返さない?あんなレベルの令嬢達なんて、いくらでも言い負かせることが出来るはずなのに。
アンネマリーは、何も読み取れない表情でいる。むしろ、アンネマリーの親友である高位の貴族令嬢達から殺気が漂っているように見えた。
…相手にする価値もないってことなのか。こんなただの仮の婚約者になんて、助けを求める必要もないし、こんなレベルの低い令嬢達なんて、相手にすらならないと。
この黒いモヤのかかった気持ちを、自分でもどうしていいのか分からなくなっていた。
しばらくして、学園でアンネマリーを見ない日が続いていた。どうやら、休んでいるらしい。今までこんなに休み続けたことなんて無かったのに。何があったのか。
幼馴染で親友の王都騎士団長子息のエリックには、私がアンネマリーを心配しているのがバレバレであったようで、そんなに心配なら、侯爵家に訪ねて行けばいいのにと言われるが、ここ数年全くお互いの家を行き来してなかった私には、とても難しい事であった。
見かねたエリックが、アンネマリーの親友の1人である、ホワイト侯爵家令嬢の婚約者に頼んで探りを入れてもらっていた。病気で休んでいるようだが、詳しくは分からないみたいだと知らされる。
今まで病気なんて聞いた事がなかったのだが、大丈夫なのだろうか…やはり無理にでも侯爵邸を訪ねた方がいいのか…彼女に何かあったらどうすれば…と不安に駆られる日々を送っていたある日、彼女が久しぶりに登校してきたのだった。
病み上がりで、少し痩せたようである。
しかし、もっと気になったことがある。綺麗なプラチナブロンドの髪を下ろし、清楚な化粧を施して、今までとは違う雰囲気を漂わせ、更に美しくなった彼女に、何があったのかと。
病気で休んでいた時とは違った、新たな不安が襲ってくるのであった。
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