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1巻
1-2
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「シア、ケーキのクリームが口に付いているぞ。しょうがないな……」
お兄様はフッと笑うと、私の口に付いていたクリームを指でとって……、ペロって……、舐めちゃうの?
その瞬間、私の顔がカァーっと熱くなる。なぜなら、クリームを舐めるお兄様が危険なほどに色っぽく見えたからだ。
お兄様のその仕草にすっかりやられた私は、無意識に自分の鼻の下に触れて鼻血が出ていないかをチェックしていた。
ケーキのクリームを口に付けちゃった私はダメ令嬢だけど、貴族令息が指でそのクリームを取って舐めるのもダメだよね?
チラッとエレン達の方を見ると、みんな顔を赤くしていた。
イケメンって、何をしてもすごいのね……
「お兄様……、お恥ずかしいですわ。クリームが付いていることを教えてくださったら、自分で拭きましたのに」
「シアは恥ずかしがり屋なんだな。別にこれくらいのことは何ともないだろう?」
何ともなくないですから!
そんなことされたら、普通の令嬢ならあっさりお兄様に落ちてしまうよ。
イケメンがペロってしたら、すごい破壊力あるからね!
「シア。黙っているが、怒っているのか? 可愛いシアを見ていると、つい面倒を見たくなって、あれこれ手を出したくなってしまうんだからしょうがないだろう? シアは、私のたった一人の大切な妹なのだから、それくらいは許してほしい」
私の心臓がありえないくらいドクドクしている。
このお兄様は、私の心臓を酷使させたいのかしら?
「……シア?」
「はっ、はい! わ、私もお兄様が大切ですわ。お兄様がいつも優しくしてくれて……、とても嬉しい……です」
今の私は、お兄様にその言葉を伝えるだけでも命懸けだよ。
「シアは私の一番の宝物だから、優しくするのは当然だ」
「……ぶっ、ゲホッ、ゲホッ……」
「お、お嬢様! 大丈夫ですか?」
紅茶を噴き出してしまいそうなことをサラッと言えるお兄様。相当危険なイケメンだわ。
お兄様が私の部屋を去った後、こっそりエレンに聞いてみた。
「エレン。教えてほしいのだけど、この国の兄妹はうちのお兄様みたいに、妹をあそこまで大切にするような関係が普通なのかしら?」
前世だったら、あんな関係はありえない。
仲の良い兄妹はたくさんいるだろうけど、あんな風に妹に接していたら『〇〇の兄ちゃん、シスコンだってよ』ってみんなに言われるだろう。お兄ちゃんに彼女ができなくなってしまうパターンだと思うの。
「お嬢様。正直に言わせていただきますが、この国で兄妹といっても、いろいろなタイプがあると思います。お嬢様とクリストファー様のように仲の良い兄妹もいれば、口喧嘩ばかりしている兄妹やお互い無関心で会話すら成り立たない兄妹もいると思います。クリストファー様はお嬢様が可愛くて仕方がないのだと思いますわ。もし私が、おそれおおくもクリストファー様のお立場であったなら、私も常にお嬢様の近くにいてこれ以上にないくらいに可愛がっていたと思います。溺愛します!」
「……そうなのね」
自惚れるわけではないのだけど、エレンは私が大好きなのよね。私もエレンが大好きだから、何の問題もないんだけど。
私大好きのエレンに聞いてもあまり参考にならなかったかな。
でも、兄妹仲良しなのはいいことだよね。
その翌日、お兄様はまたたくさんのスイーツを買って、帰って来てくれた。
「シア! 今日はシアが好きな、クリーム系のケーキが人気の店のスイーツにした。一緒にお茶にしよう」
「お兄様、おかえりなさいませ。私の好みは、お兄様にバレていたのですね。ふふっ……。さすがお兄様ですわ」
スイーツは何でも好きだけど、私は特にクリームが大好きなのだ。
お兄様は、私が好んで食べているものをよく見ているようだった。
「大切なシアのことは、何でも知っていたいと思うだろう? シアは、スイーツを食べる時の紅茶は砂糖なしのストレートティーで、飲み物だけの時は、涼しい日はココアかミルクティーで、暖かい日はレモンティーだってことくらい知っているさ。クリームは好きだけど、チョコクリームはそこまで好きではないこともな」
えー! そこまで私のことを知ってくれているの?
お兄様だから嬉しいけど……
そこまで私を大切に思ってくれているんだね。私もお兄様のことをもっと知りたいかも!
この時すでに、私はすっかりブラコンになってしまっていた。
◇ ◇ ◇
あの日、生徒会の仕事が休みでいつもより早く下校できることになった私は、久しぶりに義妹のレティシアと一緒の馬車で帰ることになった。
馬車で義妹を待っていると、浮かない顔をして彼女はやって来た。彼女には珍しく音を立てて慌てて馬車に乗り込む。
そして、人前で泣かないように育ってきたはずの義妹が涙を流していたのだ。
何があったのかを聞いたのだが、何も話してはくれなかった。
ここ数年、まともに会話をしてこなかった義兄に突然問われても、話をしたいとは思えないのだろう。
そして義妹は婚約を解消したい、家を追い出されてしまうなど、驚くべきことを話している。義妹がこんなに取り乱すことといえば、恐らく婚約者絡みだろう。
邸に帰ったら、義妹の婚約者に纏わりつく目障りな女の監視をさせている影から、話を聞いてみることにしよう。
しかし邸に着いた後、義妹を部屋に一人にしたことを私は後悔することになる。
邸に着いて少しすると、騒がしい音が聞こえてくる。
部屋を出て見ると、義妹の婚約者のハリス侯爵令息が義妹の部屋に行こうとしているところであった。
普通なら応接室あたりで待つべきなのに、何をしているのだ? この男は最近、うちの邸に来ることはなかったのに珍しいこともある。
私は気がつくと非常識な男に声を掛けていた。
「ハリス侯爵令息! うちに何の用だ? 今日はあの女は一緒ではないのか?」
声を掛けて気が付くが、ハリス侯爵令息の顔色が悪い。しかも、私がいるとは思っていなかったようで、声を掛けられたことに驚いているようであった。
「……申し訳ありません。急ぎでレティーに会いたくて」
弱々しい言葉だった。
その時、義妹の部屋の方からドスンという音がする。そして……
「お、お嬢様ー!」
義妹の専属メイドの叫ぶ声が聞こえる。
ただならぬ雰囲気に義妹の部屋に駆けつけるが、レティシアの姿が見えない。
「お、お嬢様が……、お嬢様が落ちて……。いやぁぁー。お嬢様ぁー!」
メイドが取り乱してバルコニーの方を見ている。
すぐにバルコニーに向かうと、義妹がバルコニーの下で血を流して倒れているのが見えた。
義父も義母も不在の中、急ぎで侍医を呼び出し、義妹を診てもらう。
命は助かったが、いつ目覚めるのかはわからないと言われる。
「お願いです! レティーの側に付いていたいのです」
ふん! 最近は義妹に対して冷たかったくせに、この男は何なんだ?
「悪いが、今日は帰ってくれるか? それに、あの女が待っているのではないのか?」
「ミアとは、そんな関係ではない! 私にとって大切なのはレティーだけです」
「……そうか。そんな風には全く見えなかったがな。まあいい。とにかく今日は帰ってくれ! 誰か、ハリス侯爵令息が帰るから、見送りを頼む!」
強引にハリス侯爵令息には帰ってもらうことにした。
その後、呼び出した影の話と影が記録として撮ってきた映像石の動画を観て、私は怒りで震えた。
影にどうしてもっと早くに報告をしなかったのかと怒りをぶつける。しかし影からは、何度も報告に伺ったが、忙しいから後にしろと言われてしまったので、なかなかできなかったと言われてしまった。
そうだった……。最近は生徒会の仕事や、王太子殿下の執務の手伝いなどもあって、とにかく忙しかった。その結果、こんなことになってしまったのだ。
しばらくは、レティシアのことを最優先にしよう。
あの男と尻軽女は絶対に許さない。
私がレティシアと出会ったのは、十二歳の時だった。
名門のロバーツ侯爵家の跡継ぎとして、分家の伯爵家の三男だった私が、養子として迎えられたのだ。
この国では爵位は男子のみが引き継ぐ。一人娘のレティシアは家格が同じ侯爵家の嫡男と婚約を結んだので、私が跡継ぎとして養子になったのだ。
当時まだ十歳だったレティシアは、とても可愛かった。整った綺麗な顔立ちに、ストロベリーブロンドのサラサラの髪とぱっちりの青い綺麗な目。こんな瞳で見つめられたら……
「一人っ子だったから、兄ができることをとても喜んでいたのよ」と、義母上が話しているのを聞いて恥ずかしがっている姿もまた可愛い。目をキラキラさせて、『お義兄様』と呼ぶ姿も、なんて愛らしいのだろう。
恐らく私は、この時にはすでにレティシアに恋をしていたのだと思う。
しかしもうレティシアには婚約者がいた。だから私は、この気持ちには気づかないフリをした。
レティシアと婚約者は普通に仲が良かったと思う。
婚約者のハリス侯爵令息はレティシアを大切にしているようだし、時間があるとよく会いに来ていた。レティシアも嬉しそうに受け入れていた。
しかしある日、私は二人の会話を聞いてしまった。
「レティー。君は義兄上と僕と、どっちの方が好きなの?」
「えっ? 私はリアン様も、お義兄様も大好きですわ」
お義兄様も大好きって……。レティシアは可愛いな。
「義兄上も大好き? そんなこと言わないで。僕だけを好きでいてよ。僕は、レティーと義兄上の仲が良すぎて嫌なんだ」
仲が良いから不安なのか。しかし、私達は義理とはいえ兄妹なのに……
「リアン様は大切だし、大好きですわ」
「……じゃあ、あまり義兄上と仲良くしないでね」
コイツ、何を言ってるんだ? 義兄に嫉妬なんて見苦しい。
「お義兄様と仲良くしてはダメなのですか? 私のたった一人の兄なのに」
「僕の頼みが聞けないの?」
ハリス侯爵令息の声が低くなる。
この男はレティシアを脅しているようだ。
「……わかりました」
その会話を聞いた後からだと思う。仲が良かった私達の関係に亀裂が入ったのは。
両親は仕事が忙しくて家にいることが少なく、まだ幼いレティシアは、一人で寂しい思いをしていた。それにもかかわらず、義兄と仲良くするなと言うなんて今考えると酷いことだと思う。
レティシアは貴族令嬢としては完璧に育つが、家族に上手く甘えることができなくなってしまったように思う。義両親も、そんなレティシアにどう関わっていいのか、何となく悩んでいるように見えた。
だから婚約を解消したら、家を追い出されるという考えになったのだろう。
そんなことはありえない。レティシアは気付いていないが、義両親はレティシアを愛しているし、大切に思っているのだから。
あの日、レティシアがバルコニーから転落して意識を失っていると聞いた義両親は、慌てて帰ってきて寝ないで看病していた。
義母はマナー講師の仕事は辞めてレティシアの看病に専念したいと言い出すし、義父もしばらく仕事を休むようにするらしい。
レティシアがバルコニーから転落した次の日、あの男が訪ねて来た。
何も知らない義両親は、娘の婚約者がお見舞いに来たことを歓迎していた。
「ジュリアン、せっかくレティシアの見舞いに来てくれたようだが、まだレティシアは意識が戻らないのだ。いつ目覚めるのかもわからない厳しい状態だ」
「それでも毎日会いに来ます。レティーが目覚めるまで待ちたいのです」
絶望した表情で涙を流しているが……、コイツは信用できない。
義両親はハリス侯爵令息をレティシアの寝ている部屋に案内していた。こんな男でも、まだ一応はレティシアの婚約者なのだ。
ハリス侯爵令息は、泣きながらレティシアの手を握り、何度も謝っていた。
それを見た私は、後でレティシアの手を拭いてやろうと決めた。あの汚れた手で、レティシアを触らないでほしい。
あの男をうちの邸に出入り禁止にするために、私は義両親に例の映像石の動画を見せることにした。
動画を見て怒り狂った義両親は、すぐにハリス侯爵家に遣いをやった。不貞のことは伝えず、しばらくは療養に専念させたいということにしてあの男を立ち入らせないようにしたのだ。
さらに私は婚約解消を急ぐ義両親に、まだ待ってもらうことにした。
あんな男でもレティシアは慕っていた時期があったのだ。レティシアの意思を聞いてから決めてあげたかった。
レティシアが目覚めない間、あの男は何度か見舞いに来たらしい。
側に付いていたい、顔が見たいと言って引かなかったらしいが、義両親がすぐに追い返し、ハリス侯爵家に苦情を入れたと言っていた。
あのバカは一体何を考えているのだ?
そんなにレティシアが好きなら、なぜあんなことをしたのだ? 絶対に許さない。
レティシアが転落して十日ほど経つ頃だった。私が学園から帰ると、義両親が泣いている。
レティシアに何かあったのか……?
「クリス……。うっ、うっ。レティシアが……」
「義母上、レティシアがどうしたのですか?」
最悪の事態を予想して、また血の気が引いていく。
「……目覚めたのよ。でも……、うっ」
目覚めたって? ああ、良かった。
「今から顔を見て来ます!」
「クリス、待ちなさい!」
「義父上、どうしました?」
義父が深刻な顔で私を呼び止める。
「レティシアが、私達のことを覚えていないのだ。侍医は記憶喪失だと言っていた……」
「……覚えていないのですか? 私のことも?」
なんてことだ……
「クリスのことはわからないが、私達やメイド、自分の名前すら覚えていなかった。侍医は、何か辛いことがあって、ショックを受けた後遺症なのか、それとも、転落して頭を打ったことによる後遺症なのか、原因はわからないと言っていた」
どうしてレティシアばかりが、こんなに辛い目に遭うのだろうか……?
レティシアはあの日泣いていた。家を出ることになっても婚約を解消したい、と。
そして、その後にバルコニーから転落した。部屋には家出の準備をしたと見られるバッグがあった。
そのことを知った義両親は、己自身を責めた。
幼い頃に婚約者なんて決めなければよかったと……。仕事ばかりで、寂しい思いをさせ、親としての愛情を上手く伝えてあげることができなかった。もっと一緒に過ごす時間をとってあげれば良かったと……。レティシアが目覚めるまで毎日泣いていたのだ。
確かに、義両親は忙しくてレティシアといる時間が少なく、心の距離はあったように思う。
しかし、諸悪の根源はあの男。
レティシアの気持ちを再度確認し、婚約破棄してもいいとなったら、あの男と尻軽女にきっちりと報復してやる!
目覚めたレティシアを訪ねると、私を見て言葉を失くしている。声を掛けても、驚いたような表情をするだけ。
やはり私のことも忘れてしまったようだ。
見兼ねたメイドが、私がレティシアの義兄だと教えたことで、はっとした表情をする。
「レティシア、私のことも忘れてしまったのか?」
「あの、私のお兄様なのですね? 記憶が失くなってしまい、ご迷惑をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いします」
口調も雰囲気も前とは違っていた。本当に記憶喪失らしい。
「……よろしくお願いします? 初対面みたいだな」
義両親から話を聞いて覚悟はしていたが、ショックだった……
その場にいるのが辛く、長居はせずに自分の部屋に戻る。
自室で私は今までを振り返ってみることにした。
今までは、レティシアと過ごす時間はほとんどなかった。
許されるならば、これからはずっと彼女の側にいて、支えたいと思う。
レティシアが長らく失っていた笑顔を、私が取り戻してあげたいし、仲の良かったあの頃のように戻りたい。
レティシアに心から尽くしていきたいと思う。
王太子殿下には事情を話して、しばらくは生徒会の仕事も、執務の手伝いも休む許可を頂いた。
殿下や友人達からは、隠れシスコンをやめたのかと言われたが、そんなことは気にしていられない。
私は何をするにも、レティシアを最優先すると決めた。
次の日から学園から早く帰るようにして、レティシアと過ごす時間を大切にした。
私が部屋に行くと、レティシアはまだ慣れないのか、恥ずかしそうな表情をする。
この表情は、まだ私がこの家に養子に入ったばかりの頃によく見せてくれた表情と一緒だ。
可愛すぎる!
しかも、私が関わることを喜んでくれているのか、嬉しそうに微笑んでくれさえするのだ。
もう、この気持ちは止められないかもしれない。
記憶を失ったレティシアは、とにかく可愛すぎる。
昔のように仲良くなりつつ、状況を見てあのバカ男のことを話し、今後、婚約をどうしたいのか聞いてみよう。
うちは筆頭侯爵家で、金銭面でも問題ないから、この婚約話がなくなっても何も困らないし、相手が有責だ。
しかも、こんな可愛いレティシアならいくらでも相手は見つかるだろう。
……いや、レティシアは誰にも渡さない。
◇ ◇ ◇
僕、ジュリアン・ハリスはハリス侯爵家の跡取りとして、両親に大切に育てられた。
十歳の時に参加した王妃殿下主催の茶会で、父の親友のロバーツ侯爵と令嬢のレティシア嬢を紹介される。
私より一つ年下のレティシア嬢は、ストロベリーブロンドの輝くような髪とくりくりの大きな青い瞳、整った顔立ちの美少女だった。
父親から私達に挨拶するように促され、恥ずかしそうに挨拶する姿が初々しくて可愛らしい。
一目惚れだった……
邸に帰った後、私は両親にレティシア嬢と婚約したいと頼んでいた。
「レティシア嬢に一目惚れしました。ぜひ婚約させてください!」
「まあ。リアンが一目惚れですって!」
「そうか。一目惚れか……。しかし、一人娘で婿取りをすると言っていたから、ロバーツ侯爵家はレティシア嬢を嫁に出すかわからない。しかも、望めば王子妃になれるくらいの名門の令嬢だ。侯爵に婚約の打診はしてみるが、難しいことだというのはわかってくれよ」
両親はその後、私のために粘り強く婚約を申し込んでくれた。
その甲斐あって、一年後にはやっと婚約者になることができた。
正式に婚約者になってからは、とても幸せだった。
レティシアは可愛くて素直で優しい子だ。私に会うと嬉しそうにしてくれるし、手を繋ぐと顔を赤くして恥ずかしがるのだ。レティーという愛称で呼ぶことも許してくれた。
友人達から羨ましがられるくらいに可愛いレティー。
大好きで、これからもずっとこんな仲でいられるのだと思っていた。
お兄様はフッと笑うと、私の口に付いていたクリームを指でとって……、ペロって……、舐めちゃうの?
その瞬間、私の顔がカァーっと熱くなる。なぜなら、クリームを舐めるお兄様が危険なほどに色っぽく見えたからだ。
お兄様のその仕草にすっかりやられた私は、無意識に自分の鼻の下に触れて鼻血が出ていないかをチェックしていた。
ケーキのクリームを口に付けちゃった私はダメ令嬢だけど、貴族令息が指でそのクリームを取って舐めるのもダメだよね?
チラッとエレン達の方を見ると、みんな顔を赤くしていた。
イケメンって、何をしてもすごいのね……
「お兄様……、お恥ずかしいですわ。クリームが付いていることを教えてくださったら、自分で拭きましたのに」
「シアは恥ずかしがり屋なんだな。別にこれくらいのことは何ともないだろう?」
何ともなくないですから!
そんなことされたら、普通の令嬢ならあっさりお兄様に落ちてしまうよ。
イケメンがペロってしたら、すごい破壊力あるからね!
「シア。黙っているが、怒っているのか? 可愛いシアを見ていると、つい面倒を見たくなって、あれこれ手を出したくなってしまうんだからしょうがないだろう? シアは、私のたった一人の大切な妹なのだから、それくらいは許してほしい」
私の心臓がありえないくらいドクドクしている。
このお兄様は、私の心臓を酷使させたいのかしら?
「……シア?」
「はっ、はい! わ、私もお兄様が大切ですわ。お兄様がいつも優しくしてくれて……、とても嬉しい……です」
今の私は、お兄様にその言葉を伝えるだけでも命懸けだよ。
「シアは私の一番の宝物だから、優しくするのは当然だ」
「……ぶっ、ゲホッ、ゲホッ……」
「お、お嬢様! 大丈夫ですか?」
紅茶を噴き出してしまいそうなことをサラッと言えるお兄様。相当危険なイケメンだわ。
お兄様が私の部屋を去った後、こっそりエレンに聞いてみた。
「エレン。教えてほしいのだけど、この国の兄妹はうちのお兄様みたいに、妹をあそこまで大切にするような関係が普通なのかしら?」
前世だったら、あんな関係はありえない。
仲の良い兄妹はたくさんいるだろうけど、あんな風に妹に接していたら『〇〇の兄ちゃん、シスコンだってよ』ってみんなに言われるだろう。お兄ちゃんに彼女ができなくなってしまうパターンだと思うの。
「お嬢様。正直に言わせていただきますが、この国で兄妹といっても、いろいろなタイプがあると思います。お嬢様とクリストファー様のように仲の良い兄妹もいれば、口喧嘩ばかりしている兄妹やお互い無関心で会話すら成り立たない兄妹もいると思います。クリストファー様はお嬢様が可愛くて仕方がないのだと思いますわ。もし私が、おそれおおくもクリストファー様のお立場であったなら、私も常にお嬢様の近くにいてこれ以上にないくらいに可愛がっていたと思います。溺愛します!」
「……そうなのね」
自惚れるわけではないのだけど、エレンは私が大好きなのよね。私もエレンが大好きだから、何の問題もないんだけど。
私大好きのエレンに聞いてもあまり参考にならなかったかな。
でも、兄妹仲良しなのはいいことだよね。
その翌日、お兄様はまたたくさんのスイーツを買って、帰って来てくれた。
「シア! 今日はシアが好きな、クリーム系のケーキが人気の店のスイーツにした。一緒にお茶にしよう」
「お兄様、おかえりなさいませ。私の好みは、お兄様にバレていたのですね。ふふっ……。さすがお兄様ですわ」
スイーツは何でも好きだけど、私は特にクリームが大好きなのだ。
お兄様は、私が好んで食べているものをよく見ているようだった。
「大切なシアのことは、何でも知っていたいと思うだろう? シアは、スイーツを食べる時の紅茶は砂糖なしのストレートティーで、飲み物だけの時は、涼しい日はココアかミルクティーで、暖かい日はレモンティーだってことくらい知っているさ。クリームは好きだけど、チョコクリームはそこまで好きではないこともな」
えー! そこまで私のことを知ってくれているの?
お兄様だから嬉しいけど……
そこまで私を大切に思ってくれているんだね。私もお兄様のことをもっと知りたいかも!
この時すでに、私はすっかりブラコンになってしまっていた。
◇ ◇ ◇
あの日、生徒会の仕事が休みでいつもより早く下校できることになった私は、久しぶりに義妹のレティシアと一緒の馬車で帰ることになった。
馬車で義妹を待っていると、浮かない顔をして彼女はやって来た。彼女には珍しく音を立てて慌てて馬車に乗り込む。
そして、人前で泣かないように育ってきたはずの義妹が涙を流していたのだ。
何があったのかを聞いたのだが、何も話してはくれなかった。
ここ数年、まともに会話をしてこなかった義兄に突然問われても、話をしたいとは思えないのだろう。
そして義妹は婚約を解消したい、家を追い出されてしまうなど、驚くべきことを話している。義妹がこんなに取り乱すことといえば、恐らく婚約者絡みだろう。
邸に帰ったら、義妹の婚約者に纏わりつく目障りな女の監視をさせている影から、話を聞いてみることにしよう。
しかし邸に着いた後、義妹を部屋に一人にしたことを私は後悔することになる。
邸に着いて少しすると、騒がしい音が聞こえてくる。
部屋を出て見ると、義妹の婚約者のハリス侯爵令息が義妹の部屋に行こうとしているところであった。
普通なら応接室あたりで待つべきなのに、何をしているのだ? この男は最近、うちの邸に来ることはなかったのに珍しいこともある。
私は気がつくと非常識な男に声を掛けていた。
「ハリス侯爵令息! うちに何の用だ? 今日はあの女は一緒ではないのか?」
声を掛けて気が付くが、ハリス侯爵令息の顔色が悪い。しかも、私がいるとは思っていなかったようで、声を掛けられたことに驚いているようであった。
「……申し訳ありません。急ぎでレティーに会いたくて」
弱々しい言葉だった。
その時、義妹の部屋の方からドスンという音がする。そして……
「お、お嬢様ー!」
義妹の専属メイドの叫ぶ声が聞こえる。
ただならぬ雰囲気に義妹の部屋に駆けつけるが、レティシアの姿が見えない。
「お、お嬢様が……、お嬢様が落ちて……。いやぁぁー。お嬢様ぁー!」
メイドが取り乱してバルコニーの方を見ている。
すぐにバルコニーに向かうと、義妹がバルコニーの下で血を流して倒れているのが見えた。
義父も義母も不在の中、急ぎで侍医を呼び出し、義妹を診てもらう。
命は助かったが、いつ目覚めるのかはわからないと言われる。
「お願いです! レティーの側に付いていたいのです」
ふん! 最近は義妹に対して冷たかったくせに、この男は何なんだ?
「悪いが、今日は帰ってくれるか? それに、あの女が待っているのではないのか?」
「ミアとは、そんな関係ではない! 私にとって大切なのはレティーだけです」
「……そうか。そんな風には全く見えなかったがな。まあいい。とにかく今日は帰ってくれ! 誰か、ハリス侯爵令息が帰るから、見送りを頼む!」
強引にハリス侯爵令息には帰ってもらうことにした。
その後、呼び出した影の話と影が記録として撮ってきた映像石の動画を観て、私は怒りで震えた。
影にどうしてもっと早くに報告をしなかったのかと怒りをぶつける。しかし影からは、何度も報告に伺ったが、忙しいから後にしろと言われてしまったので、なかなかできなかったと言われてしまった。
そうだった……。最近は生徒会の仕事や、王太子殿下の執務の手伝いなどもあって、とにかく忙しかった。その結果、こんなことになってしまったのだ。
しばらくは、レティシアのことを最優先にしよう。
あの男と尻軽女は絶対に許さない。
私がレティシアと出会ったのは、十二歳の時だった。
名門のロバーツ侯爵家の跡継ぎとして、分家の伯爵家の三男だった私が、養子として迎えられたのだ。
この国では爵位は男子のみが引き継ぐ。一人娘のレティシアは家格が同じ侯爵家の嫡男と婚約を結んだので、私が跡継ぎとして養子になったのだ。
当時まだ十歳だったレティシアは、とても可愛かった。整った綺麗な顔立ちに、ストロベリーブロンドのサラサラの髪とぱっちりの青い綺麗な目。こんな瞳で見つめられたら……
「一人っ子だったから、兄ができることをとても喜んでいたのよ」と、義母上が話しているのを聞いて恥ずかしがっている姿もまた可愛い。目をキラキラさせて、『お義兄様』と呼ぶ姿も、なんて愛らしいのだろう。
恐らく私は、この時にはすでにレティシアに恋をしていたのだと思う。
しかしもうレティシアには婚約者がいた。だから私は、この気持ちには気づかないフリをした。
レティシアと婚約者は普通に仲が良かったと思う。
婚約者のハリス侯爵令息はレティシアを大切にしているようだし、時間があるとよく会いに来ていた。レティシアも嬉しそうに受け入れていた。
しかしある日、私は二人の会話を聞いてしまった。
「レティー。君は義兄上と僕と、どっちの方が好きなの?」
「えっ? 私はリアン様も、お義兄様も大好きですわ」
お義兄様も大好きって……。レティシアは可愛いな。
「義兄上も大好き? そんなこと言わないで。僕だけを好きでいてよ。僕は、レティーと義兄上の仲が良すぎて嫌なんだ」
仲が良いから不安なのか。しかし、私達は義理とはいえ兄妹なのに……
「リアン様は大切だし、大好きですわ」
「……じゃあ、あまり義兄上と仲良くしないでね」
コイツ、何を言ってるんだ? 義兄に嫉妬なんて見苦しい。
「お義兄様と仲良くしてはダメなのですか? 私のたった一人の兄なのに」
「僕の頼みが聞けないの?」
ハリス侯爵令息の声が低くなる。
この男はレティシアを脅しているようだ。
「……わかりました」
その会話を聞いた後からだと思う。仲が良かった私達の関係に亀裂が入ったのは。
両親は仕事が忙しくて家にいることが少なく、まだ幼いレティシアは、一人で寂しい思いをしていた。それにもかかわらず、義兄と仲良くするなと言うなんて今考えると酷いことだと思う。
レティシアは貴族令嬢としては完璧に育つが、家族に上手く甘えることができなくなってしまったように思う。義両親も、そんなレティシアにどう関わっていいのか、何となく悩んでいるように見えた。
だから婚約を解消したら、家を追い出されるという考えになったのだろう。
そんなことはありえない。レティシアは気付いていないが、義両親はレティシアを愛しているし、大切に思っているのだから。
あの日、レティシアがバルコニーから転落して意識を失っていると聞いた義両親は、慌てて帰ってきて寝ないで看病していた。
義母はマナー講師の仕事は辞めてレティシアの看病に専念したいと言い出すし、義父もしばらく仕事を休むようにするらしい。
レティシアがバルコニーから転落した次の日、あの男が訪ねて来た。
何も知らない義両親は、娘の婚約者がお見舞いに来たことを歓迎していた。
「ジュリアン、せっかくレティシアの見舞いに来てくれたようだが、まだレティシアは意識が戻らないのだ。いつ目覚めるのかもわからない厳しい状態だ」
「それでも毎日会いに来ます。レティーが目覚めるまで待ちたいのです」
絶望した表情で涙を流しているが……、コイツは信用できない。
義両親はハリス侯爵令息をレティシアの寝ている部屋に案内していた。こんな男でも、まだ一応はレティシアの婚約者なのだ。
ハリス侯爵令息は、泣きながらレティシアの手を握り、何度も謝っていた。
それを見た私は、後でレティシアの手を拭いてやろうと決めた。あの汚れた手で、レティシアを触らないでほしい。
あの男をうちの邸に出入り禁止にするために、私は義両親に例の映像石の動画を見せることにした。
動画を見て怒り狂った義両親は、すぐにハリス侯爵家に遣いをやった。不貞のことは伝えず、しばらくは療養に専念させたいということにしてあの男を立ち入らせないようにしたのだ。
さらに私は婚約解消を急ぐ義両親に、まだ待ってもらうことにした。
あんな男でもレティシアは慕っていた時期があったのだ。レティシアの意思を聞いてから決めてあげたかった。
レティシアが目覚めない間、あの男は何度か見舞いに来たらしい。
側に付いていたい、顔が見たいと言って引かなかったらしいが、義両親がすぐに追い返し、ハリス侯爵家に苦情を入れたと言っていた。
あのバカは一体何を考えているのだ?
そんなにレティシアが好きなら、なぜあんなことをしたのだ? 絶対に許さない。
レティシアが転落して十日ほど経つ頃だった。私が学園から帰ると、義両親が泣いている。
レティシアに何かあったのか……?
「クリス……。うっ、うっ。レティシアが……」
「義母上、レティシアがどうしたのですか?」
最悪の事態を予想して、また血の気が引いていく。
「……目覚めたのよ。でも……、うっ」
目覚めたって? ああ、良かった。
「今から顔を見て来ます!」
「クリス、待ちなさい!」
「義父上、どうしました?」
義父が深刻な顔で私を呼び止める。
「レティシアが、私達のことを覚えていないのだ。侍医は記憶喪失だと言っていた……」
「……覚えていないのですか? 私のことも?」
なんてことだ……
「クリスのことはわからないが、私達やメイド、自分の名前すら覚えていなかった。侍医は、何か辛いことがあって、ショックを受けた後遺症なのか、それとも、転落して頭を打ったことによる後遺症なのか、原因はわからないと言っていた」
どうしてレティシアばかりが、こんなに辛い目に遭うのだろうか……?
レティシアはあの日泣いていた。家を出ることになっても婚約を解消したい、と。
そして、その後にバルコニーから転落した。部屋には家出の準備をしたと見られるバッグがあった。
そのことを知った義両親は、己自身を責めた。
幼い頃に婚約者なんて決めなければよかったと……。仕事ばかりで、寂しい思いをさせ、親としての愛情を上手く伝えてあげることができなかった。もっと一緒に過ごす時間をとってあげれば良かったと……。レティシアが目覚めるまで毎日泣いていたのだ。
確かに、義両親は忙しくてレティシアといる時間が少なく、心の距離はあったように思う。
しかし、諸悪の根源はあの男。
レティシアの気持ちを再度確認し、婚約破棄してもいいとなったら、あの男と尻軽女にきっちりと報復してやる!
目覚めたレティシアを訪ねると、私を見て言葉を失くしている。声を掛けても、驚いたような表情をするだけ。
やはり私のことも忘れてしまったようだ。
見兼ねたメイドが、私がレティシアの義兄だと教えたことで、はっとした表情をする。
「レティシア、私のことも忘れてしまったのか?」
「あの、私のお兄様なのですね? 記憶が失くなってしまい、ご迷惑をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いします」
口調も雰囲気も前とは違っていた。本当に記憶喪失らしい。
「……よろしくお願いします? 初対面みたいだな」
義両親から話を聞いて覚悟はしていたが、ショックだった……
その場にいるのが辛く、長居はせずに自分の部屋に戻る。
自室で私は今までを振り返ってみることにした。
今までは、レティシアと過ごす時間はほとんどなかった。
許されるならば、これからはずっと彼女の側にいて、支えたいと思う。
レティシアが長らく失っていた笑顔を、私が取り戻してあげたいし、仲の良かったあの頃のように戻りたい。
レティシアに心から尽くしていきたいと思う。
王太子殿下には事情を話して、しばらくは生徒会の仕事も、執務の手伝いも休む許可を頂いた。
殿下や友人達からは、隠れシスコンをやめたのかと言われたが、そんなことは気にしていられない。
私は何をするにも、レティシアを最優先すると決めた。
次の日から学園から早く帰るようにして、レティシアと過ごす時間を大切にした。
私が部屋に行くと、レティシアはまだ慣れないのか、恥ずかしそうな表情をする。
この表情は、まだ私がこの家に養子に入ったばかりの頃によく見せてくれた表情と一緒だ。
可愛すぎる!
しかも、私が関わることを喜んでくれているのか、嬉しそうに微笑んでくれさえするのだ。
もう、この気持ちは止められないかもしれない。
記憶を失ったレティシアは、とにかく可愛すぎる。
昔のように仲良くなりつつ、状況を見てあのバカ男のことを話し、今後、婚約をどうしたいのか聞いてみよう。
うちは筆頭侯爵家で、金銭面でも問題ないから、この婚約話がなくなっても何も困らないし、相手が有責だ。
しかも、こんな可愛いレティシアならいくらでも相手は見つかるだろう。
……いや、レティシアは誰にも渡さない。
◇ ◇ ◇
僕、ジュリアン・ハリスはハリス侯爵家の跡取りとして、両親に大切に育てられた。
十歳の時に参加した王妃殿下主催の茶会で、父の親友のロバーツ侯爵と令嬢のレティシア嬢を紹介される。
私より一つ年下のレティシア嬢は、ストロベリーブロンドの輝くような髪とくりくりの大きな青い瞳、整った顔立ちの美少女だった。
父親から私達に挨拶するように促され、恥ずかしそうに挨拶する姿が初々しくて可愛らしい。
一目惚れだった……
邸に帰った後、私は両親にレティシア嬢と婚約したいと頼んでいた。
「レティシア嬢に一目惚れしました。ぜひ婚約させてください!」
「まあ。リアンが一目惚れですって!」
「そうか。一目惚れか……。しかし、一人娘で婿取りをすると言っていたから、ロバーツ侯爵家はレティシア嬢を嫁に出すかわからない。しかも、望めば王子妃になれるくらいの名門の令嬢だ。侯爵に婚約の打診はしてみるが、難しいことだというのはわかってくれよ」
両親はその後、私のために粘り強く婚約を申し込んでくれた。
その甲斐あって、一年後にはやっと婚約者になることができた。
正式に婚約者になってからは、とても幸せだった。
レティシアは可愛くて素直で優しい子だ。私に会うと嬉しそうにしてくれるし、手を繋ぐと顔を赤くして恥ずかしがるのだ。レティーという愛称で呼ぶことも許してくれた。
友人達から羨ましがられるくらいに可愛いレティー。
大好きで、これからもずっとこんな仲でいられるのだと思っていた。
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