記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

閑話

閑話 ゾグラフ男爵令嬢

　実家から届いたドレスは最悪だった…。

　いつの時代のドレスよ？田舎くさいし、誰がこんな趣味の悪いドレスを着ていたの？可愛い私には似合わない、ケバケバしいデザインのドレス。
　お兄さん達と遊んだ時にもらったお小遣いで新しいのを買おうかと思ったけど、ドレスがあんなに高いなんて知らなかった。
　こんなドレス着たくないけど、他に着る物がないからしょうがない。


　そして、デビュタントの日を迎える。

　お父さんは前日に近くの宿屋に泊まっていたらしく、私の寮に迎えに来てくれた。

「いいか！今日、上手くいけば、お前の結婚相手が見つかるかもしれない。分かったな？粗相をするなよ。」

「分かりました！」

　お父さんじゃなくて、リアン様のエスコートでステキなドレスを着て参加することを夢見ていたのに。
　お父さんと踊るダンスも最悪だった。

　私達がダンスをした後は、高位貴族のデビュタントのダンスだった。
　高位貴族だけあって、みんな高そうなドレスを着て、アクセサリーも凄いのを着けているわ。ダンスもみんな上手なのね。
　その中でも一際目を引く人達がいた。

「ロバーツ侯爵家の兄妹は美しいわね。」

「お似合いのカップルのようだわ。」

「ダンスも素敵。さすがロバーツ侯爵家ね。」

「ドレスもセンスがいいわね。令嬢によくお似合いだわ。」

　あの女、本当にムカつく！あのお兄さんも怒ると恐いけど、ただ見ているだけならカッコいいんだよね。
　なんでレティシアばっかり。

　イライラしている私に更に追い討ちをかけたのは、お父さんだった。
　急に呼ばれたと思ったら、お父さんの知り合いらしきおじさんを紹介された。

「ミリア！こちらは、パーカー子爵様だ。」

　ド派手な衣装を着たデブ親父だった。

「ミリアです。よろしくお願いします。」

　デブ親父は、私の体を舐め回すような目でみると、

「いいだろう。後妻として迎えてやる。」

　えっ？後妻って…。

「ありがとうございます。パーカー子爵家のような家に迎えて頂けるなんて、ミリアは幸せです。」

　はあ？私、こんなデブ親父と結婚するの？
　デブ親父が別の所に行った後、

「あのデブは嫌！」

　つい本音が出てしまった。すると、お父さんからすごい目で睨まれる。

「ミリア、娼館に行きたいのか？」

「行きたくない。」

「…だよな。じゃあ、パーカー子爵家に嫁げ。いい生活させてもらえるから大丈夫だ。お前では、若くて爵位の高い令息からの縁談は無理だろうから。愛人じゃないだけマシだと思うんだな。」

　最悪よ！私はリアン様がいいのに。
　
　その後、最悪な気分でいる時に、同じ学園の令嬢達に笑われる。

「あのドレス見まして？」

「ふふっ！なかなかの趣味をお持ちのようね。」

「あんな阿婆擦れに、ドレスを買ってくれるような令息は現れなかったみたいね。」

　気付いたら、飲み慣れないワインを沢山飲んでいたようだ。

　そして、酔った私はとんでもないことをしてしまった。

　バシャ！

「私との約束を破ったな！どうなるか分かっているよな？」

　憎いレティシアにワインをかけようとして、リアン様にかけてしまったのだ。

「ひっ！リアン様！」

「私はお前を許さない。さっさとこの場から出て行け！」

　憎悪に満ちた目で私を睨みつけるリアン様に恐怖を感じた私は、その場から逃げ出すことしか出来なかった。