記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

閑話

閑話 ゾグラフ男爵令嬢

　この侯爵家の子息の名前はジュリアン様と言って、私の一つ上の学年になるみたい。
　仲良くなりたくて、邸の中で会った時に一生懸命話しかけるんだけど、全く私に興味を持ってくれない。目も合わせてくれないの。
　でも、まだ始まったばかりだからね。


　学園初日。

「ジュリアン様ぁ。貴族学園が広過ぎて迷ってしまうのですぅ。一緒に行ってもらってもいいですか？」

　昨日の入学式の時に学園が広過ぎて、迷いそうになったから、ジュリアン様と一緒に行くって決めてたのよ。

「リアン！　今日は初日だから、今日だけは面倒を見てあげなさい！」

「今日だけだぞ！」

　相変わらず冷たい。でも、冷たいジュリアン様もカッコいいの！

「ふふっ！　ありがとーございまーす！」

　二人きりの馬車なのに、ジュリアン様は私を見てくれないだけでなく、話しかけたら殺されそうなオーラを出していた。
　馬車が学園に着いた後も、先に行こうとする。
　もう！　せっかく可愛い私が一緒に行くんだから、カッコよくエスコートして欲しいのに。

　その時だった……

「リアン様！　ご機嫌よう。」

　この子だれ？　可愛い私とは違うタイプの美少女。まあ、私の方が胸があって可愛いけどね。
　でも、何か気に食わない。

　……えっ？　ジュリアン様が嬉しそうに笑ってる！しかも、これから毎日会えるのが嬉しいなんて、優しい言葉まで！
　この子、ジュリアン様の何なのよ！　我慢出来ずに誰なのか聞いてみる。

「私の婚約者のレティシア・ロバーツ侯爵令嬢だ。」

　えっ、婚約者なの？　しかも侯爵令嬢？

「レティシア・ロバーツですわ。どうぞよろしくお願い致します」

「……婚約者？　あ……、ミリア・ゾグラフです。ジュリアン様と一緒に住んでるの。よろしくね」

　婚約者なら親が決めただけでしょ？　私負けない！
　ジュリアン様の腕にしがみついて、私が貰うアピールをしちゃうからね。

　ふふっ！　ジュリアン様は私が腕を絡めても嫌がらないし、婚約者の女は負けたような顔をしているわ。


　決めた！　ジュリアン様は私が奪うわ。

　しかーし。

　奪うとは決めたのだけど、ジュリアン様は、私と二人の時は全く話もしてくれないし、目も合わせてくれない。無理に話しかけようとしたら、恐ろしい目で睨まれた。
　もしかして、恥ずかしがってる？

　あの婚約者の前でだけ私に優しくしてくれるし、私を婚約者よりも優先してくれている。

　ん？　これって、あの婚約者のこと、本当は嫌だってことかな？
　普通、好きな人の前で他の女の子を優先したり、ベタベタしたりしないよね。ジュリアン様を見てると、あの女の目の前でワザとやっているようにも見えるの。
　きっとジュリアン様は、あの女との婚約を解消したいんだ！
　ふふっ。私が大好きなジュリアン様を助ける為に、協力しちゃおうかな。
　そして、私がジュリアン様の新しい婚約者になるの！