記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

閑話

閑話 ラッセン伯爵令嬢

「いい加減、クリストファー様にベタベタしないで欲しいのよ。彼は私と婚約するの。義妹の貴女がベタベタしていたら、彼の評判は下がるわ。
　分かった？　自分の立場を考えてちょうだい。未来の義姉である私への態度も改めてね」

　クリストファー様の義妹の教室まで行き、ハッキリと言ってやった。
　ふふっ！　驚いて何も言い返せないようね。これからは未来の義姉として、しっかり躾けてあげるから覚悟しなさい。

　勝ち誇ってその場を去る私だが、その様子を義妹の友人やクラスメイト達に見られていたことが良くなかったようだ。


　後日。

「アイリーン様！　ロバーツ様がいらっしゃってますわ！」

　昼休みに突然、クリストファー様が私に会いに来てくれた。
　まあ！　婚約者になる私の為に会いに来てくれたのね。クラスの令嬢達が私を羨ましそうに見ているわ！

「クリストファー様！　ご機嫌よう」

「お前か？」

　クリストファー様は私を見るなり、憎しみのこもった目で見つめてくる。

「クリストファー様と婚約するアイリーン・ラッセンですわ。私のことはアイリーンと……」

「ふざけるな！！」

「……どうされました？」

　私と婚約出来るのに、どうしてそんな目で見るの？

「お前みたいな女と婚約なんてするはずがないだろう。頭がおかしいのか？
　しかも、私の可愛い義妹に有る事無い事を言って絡んだらしいな。義妹に近づくな！　分かったか！」

　私との婚約なのにどうして……？

「クリス！　成金とは言え、一応は伯爵令嬢だ。その態度はいけないぞ」

　クリストファー様の友人の宰相閣下の子息が私を見て笑っていた。どうして？

「伯爵令嬢なら、侯爵令嬢の義妹に対する態度くらい知っていて欲しかったがな。私の最愛の義妹に酷い態度を取るようなお前と、婚約なんてするはずがないだろう。
　うちに図々しく縁談の話なんて持ってくるなよ！」

　義妹を最愛って言ってる……

　クリストファーは、私を一瞬睨みつけて去って行ってしまった。
　そんな私に鋭い視線を向ける宰相子息。

「ラッセン伯爵令嬢。君は何も知らないようだけど、君の2学年は高位貴族がたまたま少なくて、君に寄り付く貴族は、格下の爵位の者だったり、金銭的援助を目的として近付いて来る者ばかりだったのだろう？」

　えっ？　何を言って？

「君の家の伯爵家はまだ位は高くないから、高位貴族だけが招待される夜会や茶会にも来たことはないだろうしね。そんな環境で育ったから、たかだか伯爵令嬢の君でも、傲慢に振る舞うことが許されてきたのだろうけど、他の学年は君なんかより、爵位が高い者が沢山いるからね。行動には注意することだ。じゃあ、失礼するよ」


　クスクス……
　誰かが私を嘲笑ってる？

　クラスメイトや取り巻き令嬢の前で、はっきりとクリストファーから拒否され、宰相子息からは成金と呼ばれ、私は今までの立場を一瞬にして失った。

　悔しい！
　どうせあのクリストファー様の義妹が、私達の婚約に嫉妬してクリストファー様に何かを吹き込んだに違いないわ。
　じゃなければ、この私との婚約を拒否するはずがないもの。

　誤解を解きたくてクリストファー様に話をしようとするが、全く相手にされなかった。
　話も聞いてくれないの？　この私がここまでしているのに、無視しなくても……

　納得がいかなかった私は、またクリストファー様の義妹の所に向かっていた。

　しかし……

「あの、ハッキリ言わせてもらいますけど、先輩である前に貴女は伯爵令嬢で、私は一応は侯爵令嬢ですわ。口の利き方に注意された方がよろしいかと。
うちの母はマナー講師をしてましたので、そういうことには厳しいですわ。貴女のことを母が気に入ればいいのですが。ふふっ！　頑張ってくださいな」

　何なのよ！　貴女まで宰相子息と同じようなことを言って。

　あの義妹は腹が立つが、クリストファー様のお母様には認められたい。

　私はどうすればいいの……？