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記憶が戻った後の話
55 前世の両親
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「アリー、気を付けて行って来るんだよ。
ただ、心配になってしまうからあまり遅くはならないでくれ」
「レストランでランチをするだけですから、午後には帰ってきますわ。行ってまいります」
「ああ。君の帰りを待っているよ」
公爵は令嬢との食事会に行く私を見送ってくれる。
使用人の目も気にせずに額にキスを落とし、ギュッと抱きしめてくる公爵は、若妻を溺愛する夫として社交界で有名だ。
そして、そんな公爵を受け入れてしまっている私……
以前は、この公爵の行動に鳥肌が立っていたのに今は全然平気になっている。自分でも信じられないくらいだ。
そして、今日は王妃殿下から紹介された同年代の令嬢との食事会になっているが、実は公爵に内緒で前世の両親と弟に会う予定だ。
公爵は口には出さないが、アリスだった頃の関係者に会うことを嫌がっているようなところがある。今の公爵なら話せば分かってくれるかもしれないが、何と言っていいのかわからないし、心配してついて来ることになったら面倒だと思い、私は何も言わずに行くことに決めた。
レストランに到着すると、入り口付近にエイリー伯爵令嬢がいて私に話しかけてくれる。
このエイリー伯爵令嬢が私達の協力者だ。
「公爵夫人、ご機嫌麗しゅうございます。夫人にお会いできることが嬉しくてここでお待ちしておりました。部屋まで私が案内致します」
「エイリー伯爵令嬢、今日はありがとう。
貴方達は待合室で待っていてちょうだいね」
貴族御用達のレストランには、付き添いの使用人用の待合室がある。公爵家のメイドと護衛騎士にはそこで待つように伝え、私はエイリー伯爵令嬢と二階にある個室に向かった。
「侯爵様達は中でお待ちになっております。私は隣の部屋で待機してますので、お帰りになる時に声を掛けて下さいませ」
「何から何までありがとう」
お礼を伝えるとエイリー伯爵令嬢はニコッと微笑む。
伯爵令嬢の可愛い笑顔に癒された直後、気分を切り替えて部屋のドアをノックする。すると、女性が返事する声が聞こえた。
緊張しながら部屋に入ると、そこには前世の両親と弟がいた。
「失礼致します……」
前世の母は礼儀やマナーに厳しい人だったことを思い出し、椅子に腰掛ける三人に向かって丁寧にカーテシーをする。
「姉上、待っていましたよ。あの男が外出を許さなかったらどうしようかと不安でしたが、来てくれて良かった!」
私の顔を見て嬉しそうにするキャンベル侯爵。こんな時に見せる表情は、幼かった頃のディーと変わらないと思った。
「父上と母上も姉上に声をかけてあげて下さい!」
キャンベル侯爵は、私を見て絶句している両親に声を掛ける。
「……本当にアリスなのか?」
あの頃よりもシワの増えた父が声を上げる。その横にいる母は昔より少し小さくなったように見えた。
「そのカーテシーは私が教えたもので間違いないわ。ディックや王妃殿下に聞いた時は信じられなかったけど、貴女はアリスなのね……」
「お父様、お母様……、ずっと会いたかった。
あんな死に方をして申し訳ありませんでした」
「……もういいのよ。それより、もっと近くに来て顔を見せてちょうだい」
「……お母様!」
その後、私は父と母と抱き合って再会を喜んだ。
「姉上、私と再会した時はよそよそしい態度だったのに、父上や母上は嬉しそうに抱きしめるなんて……
昔のように私のことも抱きしめて下さい!」
あの頃の可愛らしさがなくなってしまった弟を抱きしめるですって? 絶対に無理よ!
「ディーはもう大人でしょう? 幼かった頃とは違うのよ」
「大人に成長しても、姉上の弟には変わりないのですよ!」
ああ、厄介なシスコンだわ……
無意識に深いため息が出てきてしまう。そんな時、
「ディック、いい加減にしなさい!
いい歳して姉にベッタリして……。そんな性格だからいつまでも結婚できないのよ!」
ビシッと弟を叱る母は、あの頃と一緒だった。
ただ、心配になってしまうからあまり遅くはならないでくれ」
「レストランでランチをするだけですから、午後には帰ってきますわ。行ってまいります」
「ああ。君の帰りを待っているよ」
公爵は令嬢との食事会に行く私を見送ってくれる。
使用人の目も気にせずに額にキスを落とし、ギュッと抱きしめてくる公爵は、若妻を溺愛する夫として社交界で有名だ。
そして、そんな公爵を受け入れてしまっている私……
以前は、この公爵の行動に鳥肌が立っていたのに今は全然平気になっている。自分でも信じられないくらいだ。
そして、今日は王妃殿下から紹介された同年代の令嬢との食事会になっているが、実は公爵に内緒で前世の両親と弟に会う予定だ。
公爵は口には出さないが、アリスだった頃の関係者に会うことを嫌がっているようなところがある。今の公爵なら話せば分かってくれるかもしれないが、何と言っていいのかわからないし、心配してついて来ることになったら面倒だと思い、私は何も言わずに行くことに決めた。
レストランに到着すると、入り口付近にエイリー伯爵令嬢がいて私に話しかけてくれる。
このエイリー伯爵令嬢が私達の協力者だ。
「公爵夫人、ご機嫌麗しゅうございます。夫人にお会いできることが嬉しくてここでお待ちしておりました。部屋まで私が案内致します」
「エイリー伯爵令嬢、今日はありがとう。
貴方達は待合室で待っていてちょうだいね」
貴族御用達のレストランには、付き添いの使用人用の待合室がある。公爵家のメイドと護衛騎士にはそこで待つように伝え、私はエイリー伯爵令嬢と二階にある個室に向かった。
「侯爵様達は中でお待ちになっております。私は隣の部屋で待機してますので、お帰りになる時に声を掛けて下さいませ」
「何から何までありがとう」
お礼を伝えるとエイリー伯爵令嬢はニコッと微笑む。
伯爵令嬢の可愛い笑顔に癒された直後、気分を切り替えて部屋のドアをノックする。すると、女性が返事する声が聞こえた。
緊張しながら部屋に入ると、そこには前世の両親と弟がいた。
「失礼致します……」
前世の母は礼儀やマナーに厳しい人だったことを思い出し、椅子に腰掛ける三人に向かって丁寧にカーテシーをする。
「姉上、待っていましたよ。あの男が外出を許さなかったらどうしようかと不安でしたが、来てくれて良かった!」
私の顔を見て嬉しそうにするキャンベル侯爵。こんな時に見せる表情は、幼かった頃のディーと変わらないと思った。
「父上と母上も姉上に声をかけてあげて下さい!」
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「……本当にアリスなのか?」
あの頃よりもシワの増えた父が声を上げる。その横にいる母は昔より少し小さくなったように見えた。
「そのカーテシーは私が教えたもので間違いないわ。ディックや王妃殿下に聞いた時は信じられなかったけど、貴女はアリスなのね……」
「お父様、お母様……、ずっと会いたかった。
あんな死に方をして申し訳ありませんでした」
「……もういいのよ。それより、もっと近くに来て顔を見せてちょうだい」
「……お母様!」
その後、私は父と母と抱き合って再会を喜んだ。
「姉上、私と再会した時はよそよそしい態度だったのに、父上や母上は嬉しそうに抱きしめるなんて……
昔のように私のことも抱きしめて下さい!」
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ああ、厄介なシスコンだわ……
無意識に深いため息が出てきてしまう。そんな時、
「ディック、いい加減にしなさい!
いい歳して姉にベッタリして……。そんな性格だからいつまでも結婚できないのよ!」
ビシッと弟を叱る母は、あの頃と一緒だった。
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