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記憶が戻った後の話
54 ダンス
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前世の弟であるキャンベル侯爵が私達に話しかけてきた瞬間、周りが騒つく。キャンベル侯爵とアンダーソン公爵が話をすることがよほど珍しく見えるようだ。
「アンダーソン公爵閣下、夫人、ご機嫌麗しゅうございます。
公爵夫人をダンスにお誘いしたく思います。よろしいでしょうか?」
社交用の完璧な笑顔で話しかけてくる侯爵が何を考えているのか分からず、前世の弟なのに恐ろしく感じてしまう。
「キャンベル侯爵、妻はまだ体調が万全ではない。悪いがその誘いを受けることは出来ない」
公爵はキッパリと断っている。しかし、私は侯爵が何のためにダンスに誘ってきたのかが気になった。
「公爵様、私なら大丈夫ですわ。キャンベル侯爵様とダンスを踊る機会はなかなかありませんから、お誘いを受けようと思います」
「アリー、大丈夫か? 君が大丈夫だというなら私は反対しないが……」
「はい、大丈夫ですわ。一曲踊ってきます」
「分かった。私はここで待ってる」
不安そうにする公爵をおいて、私は侯爵とダンスを踊ることになった。
その様子を周りの貴族達は興味深そうに見ている。以前の気の弱いアリシアは、夫の公爵以外とダンスを踊ることはなかったから意外だと思われているに違いない。
「侯爵様、何を考えていらっしゃるの?」
「私はただ姉上とダンスが踊りたかっただけですよ。
昔、約束したではありませんか。私が社交界にデビューしたら、姉上をエスコートして一緒にダンスを踊ろうと……」
そういえば、幼かったディーは私がダンスレッスンをしているところをよく見ていた。
『大きくなったら姉上と一緒にパーティーに行きたいな。あの男の代わりに僕が姉上をエスコートするね』
『嬉しいわ。早く大きくなって、私をエスコートしてね』
『うん! そしたら、僕とダンスを踊ってくれる?』
『勿論よ。ディーとダンスを踊るのを楽しみにしているわ』
ううっ……、あの頃の約束を覚えていたのね。
可愛い弟と過ごす時間は、あの頃の私にとって一番の癒しだった。ディーも忙しい両親よりも私を慕ってくれて、気がつくと立派なシスコンに育っていた。
侯爵は昔のことを思い出してダンスに誘ってくれただけなのに、また公爵の文句をグチグチ言われるのではないかと疑ってしまい、申し訳ない気持ちから胸がズキズキと痛んでいる。
「そんな約束をしたわね……
約束を果たせなくてごめんなさい」
「いえ。こうやって今、姉上とダンスが躍れて私は幸せです。
あの頃、幼かった私は姉上に守られてばかりでしたが、今は大きくなりましたし、侯爵家の当主としての責務を果たせるくらいになりました。
今の私なら姉上を守ることができます。姉上が望めばあの男から解放して差し上げることも出来ますよ」
「……私達の結婚は国王陛下と王妃殿下が保証人になってくださっているの。簡単に離縁なんて出来ないわ」
「それは王妃殿下からも聞いています。しかし、姉上が強く望めば国王陛下と王妃殿下は反対しないでしょうね。
特に国王陛下……。陛下の命令による任務で公爵はあの女に操られ、姉上は命を奪われたのです。陛下は公爵と姉上が不幸になったことを気に病み、ご自分の婚礼を延期させたのですよ」
そんなことは知らなかった。陛下は感情を表に出さない方だし、王妃殿下からも何も聞いていなかったから。
「あの事件はもう終わったのよ……」
「終わっていませんよ。最愛の姉上の命を奪われた苦しみは今も続いているのですから。
ところで、来月に再従兄弟の結婚式がありまして、両親が王都に戻ってくる予定です。会いたくないですか?」
「本当なの……? 会いたいわ」
「分かりました。ただ、あの男はどうしますか?
あの男は姉上とキャンベル侯爵家を関わらせたくないでしょう。
悲しいことに今の私達は他人ですから、私と姉上が堂々と連絡を取り合うことは難しいでしょう。あの男からの横槍が入るかと思います。
それで、うちの分家に口の堅い令嬢がいます。彼女に間に入ってもらい連絡を取り合いましょう」
「分かったわ」
ダンスが終わり公爵の所まで戻ろうとした時、公爵はすでに近くで待っていてくれた。
「アリー、疲れてないか? そろそろ帰ろうか?」
「はい。久しぶりの夜会は思った以上に疲れましたわね。少し早いですが帰りましょうか」
公爵は私の腰を抱いて歩き出す。侯爵と私がダンス中に何を話していたのかが気になるはずなのに、何も聞いてこなかった。
「アンダーソン公爵閣下、夫人、ご機嫌麗しゅうございます。
公爵夫人をダンスにお誘いしたく思います。よろしいでしょうか?」
社交用の完璧な笑顔で話しかけてくる侯爵が何を考えているのか分からず、前世の弟なのに恐ろしく感じてしまう。
「キャンベル侯爵、妻はまだ体調が万全ではない。悪いがその誘いを受けることは出来ない」
公爵はキッパリと断っている。しかし、私は侯爵が何のためにダンスに誘ってきたのかが気になった。
「公爵様、私なら大丈夫ですわ。キャンベル侯爵様とダンスを踊る機会はなかなかありませんから、お誘いを受けようと思います」
「アリー、大丈夫か? 君が大丈夫だというなら私は反対しないが……」
「はい、大丈夫ですわ。一曲踊ってきます」
「分かった。私はここで待ってる」
不安そうにする公爵をおいて、私は侯爵とダンスを踊ることになった。
その様子を周りの貴族達は興味深そうに見ている。以前の気の弱いアリシアは、夫の公爵以外とダンスを踊ることはなかったから意外だと思われているに違いない。
「侯爵様、何を考えていらっしゃるの?」
「私はただ姉上とダンスが踊りたかっただけですよ。
昔、約束したではありませんか。私が社交界にデビューしたら、姉上をエスコートして一緒にダンスを踊ろうと……」
そういえば、幼かったディーは私がダンスレッスンをしているところをよく見ていた。
『大きくなったら姉上と一緒にパーティーに行きたいな。あの男の代わりに僕が姉上をエスコートするね』
『嬉しいわ。早く大きくなって、私をエスコートしてね』
『うん! そしたら、僕とダンスを踊ってくれる?』
『勿論よ。ディーとダンスを踊るのを楽しみにしているわ』
ううっ……、あの頃の約束を覚えていたのね。
可愛い弟と過ごす時間は、あの頃の私にとって一番の癒しだった。ディーも忙しい両親よりも私を慕ってくれて、気がつくと立派なシスコンに育っていた。
侯爵は昔のことを思い出してダンスに誘ってくれただけなのに、また公爵の文句をグチグチ言われるのではないかと疑ってしまい、申し訳ない気持ちから胸がズキズキと痛んでいる。
「そんな約束をしたわね……
約束を果たせなくてごめんなさい」
「いえ。こうやって今、姉上とダンスが躍れて私は幸せです。
あの頃、幼かった私は姉上に守られてばかりでしたが、今は大きくなりましたし、侯爵家の当主としての責務を果たせるくらいになりました。
今の私なら姉上を守ることができます。姉上が望めばあの男から解放して差し上げることも出来ますよ」
「……私達の結婚は国王陛下と王妃殿下が保証人になってくださっているの。簡単に離縁なんて出来ないわ」
「それは王妃殿下からも聞いています。しかし、姉上が強く望めば国王陛下と王妃殿下は反対しないでしょうね。
特に国王陛下……。陛下の命令による任務で公爵はあの女に操られ、姉上は命を奪われたのです。陛下は公爵と姉上が不幸になったことを気に病み、ご自分の婚礼を延期させたのですよ」
そんなことは知らなかった。陛下は感情を表に出さない方だし、王妃殿下からも何も聞いていなかったから。
「あの事件はもう終わったのよ……」
「終わっていませんよ。最愛の姉上の命を奪われた苦しみは今も続いているのですから。
ところで、来月に再従兄弟の結婚式がありまして、両親が王都に戻ってくる予定です。会いたくないですか?」
「本当なの……? 会いたいわ」
「分かりました。ただ、あの男はどうしますか?
あの男は姉上とキャンベル侯爵家を関わらせたくないでしょう。
悲しいことに今の私達は他人ですから、私と姉上が堂々と連絡を取り合うことは難しいでしょう。あの男からの横槍が入るかと思います。
それで、うちの分家に口の堅い令嬢がいます。彼女に間に入ってもらい連絡を取り合いましょう」
「分かったわ」
ダンスが終わり公爵の所まで戻ろうとした時、公爵はすでに近くで待っていてくれた。
「アリー、疲れてないか? そろそろ帰ろうか?」
「はい。久しぶりの夜会は思った以上に疲れましたわね。少し早いですが帰りましょうか」
公爵は私の腰を抱いて歩き出す。侯爵と私がダンス中に何を話していたのかが気になるはずなのに、何も聞いてこなかった。
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