結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

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記憶が戻った後の話

53 久しぶりの夜会

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「アリー、王妃殿下とのお茶会は楽しかったか? 久しぶりに会えて良かったな」

「公爵様、ただいま帰りました。今日はとても素敵な(?)時間を過ごせました。行かせてくださったことに感謝しております」

 疲れて帰った私を夫の公爵は優しく出迎えてくれる。
 あんなに憎くんで離縁を考えていたはずの公爵は、私の推し活を認めてくれる理想の夫となり、可愛がっていたはずの弟は癖が強めの理屈っぽい大人になっていた。

 人生って難しい。王妃殿下は私がアリスだったことを侯爵に話すのが面倒だと言っていたけど、今ならその理由が分かる。愚痴っぽい侯爵の話を聞いていて疲れてしまったもの。

 侯爵はお茶会の最後までアンダーソン公爵の文句を話し続け、『離縁後は私が姉上の面倒を見ますから何の心配もいりませんよ。離縁に強い弁護士は私が手配しますから』と笑顔で言う始末……
 正直なところ、面倒なシスコンに成長した侯爵より、前世では大嫌いだったが今は性格が穏やかになり、推し活を温かく見守ってくれる公爵と夫婦でいた方がまだマシだと思ってしまった。

 公爵は疲れて帰ってきた私に疲労回復のハーブティーを淹れてくれる。

「久しぶりに外出したから疲れただろう? メイド長から淹れ方を教えてもらったんだ。アリーに夫らしいことをしてあげたくて……
 不味かったら無理に飲まないで残してくれ」

「まあ、ありがとうございます」

 完璧な公爵家の当主として、近寄りがたい雰囲気を漂わせる年上の男が、恥ずかしそうにハーブティーを淹れる姿は妙に可愛く見えた。

 前世で溺愛していた弟に疲れた時に、憎んでいたはずの婚約者だった夫に癒されるなんて本当に複雑だ。
 少し前までは自分を監視しようとする公爵が親みたいで嫌だった。しかし、最近は私に合わせて色々配慮してくれているのが分かるから、嫌な気持ちはどこかに行ってしまった。

「とても美味しいです。公爵様も座って一緒に飲みませんか?」

 公爵は私がハーブティーを飲む姿を不安そうに見つめていて、美味しかったと言うと嬉しそうに微笑む。

 この人は変わろうとしている……
 この先もずっと前世の私の苦しみが消えることはないが、公爵が努力していることは認めなくてはならない。

「それは良かった! ……うん、アリーが淹れたお茶ほど美味しくはないが何とか飲めるな。これから沢山練習して、もっと美味しいお茶を君に淹れてあげたい」

「今のままで十分美味しいですわ。公爵様にここまでしていただいて、とても嬉しいです」

 公爵は観劇に沢山連れて行ってくれるだけでなく、時間がある時にお茶を淹れてくれるマメな夫になっていた。

 そんなある日、国王陛下主催の夜会が開かれることになり、私は公爵と二人で王宮にやってきた。
 王宮の夜会に出席するのは姉に殺されそうになったあの日以来で、アリスとしての記憶が戻ってから初めての夜会でもある。

 チクチクと沢山の視線を感じる。年の差だけでなく身分差もあった私達夫婦はとにかく目立つ。そして、公爵に憧れていたと思われる夫人や令嬢、姉の友人達からは敵意丸出しの態度を取られたりするのがこの夜会だ。以前のアリシアなら何をされてもひたすら耐えていたが、今の私は遠慮なくやり返すつもりでいる。社交の場では強気でいかないとダメなのだから。

 以前の公爵は、弱っちいアリシアを守ろうとして夜会では常に側にいてくれた。しかし国王陛下や他国の大使などに呼ばれ、仕方なく離れなければならないことがあり、その時を狙って絡んでくる夫人や令嬢にアリシアは虐められていたのだ。今日の夜会では、久しぶりにあの女達の顔をみることになるだろう。

 ふふっ……。今から楽しみだわ。

「以前のアリーは夜会が苦手で緊張していたが、今日は楽しめているようだな。社交の場で君のそんな表情が見れる日がくるとは思わなかったから嬉しい」

「久しぶりに夜会に参加できることが嬉しいのです。
 私は一人でも平気ですので、公爵様はご友人の方々とお話をされてきては?」

 公爵がいるとあの女達は絡んでくれない。絡んでくれないと仕返しが出来ないから、公爵には少しだけ離れていて欲しかった。

「アリーを一人にはしないと決めたんだ。誰に呼ばれようとも君の隣を離れない」

 前の夜会で一人になった時に姉から殺されそうになったから、そのことを気にしているのだろう。
 不安そうな公爵を見て申し訳ない気持ちになったので、無理に離れてもらうのはやめた。

 仕方がない。仕返しはいつでもできるわよ。

 二人でダンスを踊り、冷たい飲み物で喉を潤していると私達に話しかけてくる人物がいた。
 公爵はたとえ社交の場であっても、二人の時間を邪魔されるのをとても嫌がり、第三者が話しかけにくい雰囲気を出している。
 そんな公爵に怖気付かず、笑顔で声を掛けてきたのは前世の弟であるキャンベル侯爵だった。

 
 
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