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記憶が戻った後の話
45 食事会にて
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私がアリスだと認めた後、公爵は迷いや遠慮といったものがなくなり、グイグイ来るようになってしまった。
「アリー、そろそろ寝室は一緒にしよう。一日おきにベッドに仕切りを置いて寝るのはやめて、夫婦らしく毎日一緒に寝たいんだ」
「アンダーソン様、私がアリスだと分かったならば、そのようなことを期待するのはおやめ下さい。
私達はベタベタするような関係ではなかったはずですし、貴方がマーズレイ男爵令嬢に操られる前から私を嫌っていたことは気付いておりました。夫婦だからと無理をしなくていいのです」
本当はもっと言ってやりたいくらいだけど、穏便な離縁のために公爵を怒らせてはいけないから、控えめに本音を話すようにした。
「君は私が言ったことを信じていないようだが、私はずっとアリスが好きだったんだ。ただ、当時の私はその気持ちを上手く伝えることが出来ず、君を沢山傷つけたことも知っている。本当に悪かった……
今更だが、君とやり直したい」
「当時の貴方の態度を見て、その言葉を今すぐ信じるのは難しいと思います。
それなのに夫婦らしく寝室を一緒にしたいとか、強引に距離を詰めすぎです」
「すまない……
だが、夫婦として仲良くやっていきたいという気持ちは本気だ。
君が私を拒否しても、私は絶対に諦めるつもりはない。あの頃、君への思いを伝えられずに何度も悔しい思いをした。これからは、私の愛を沢山伝えたいと思う」
公爵は私が死んだ後も順調に年齢を重ねた結果、何を言われても、冷たく突き放されたとしても、多少のことでは動じない男になっていたようだ。
毎日、毎日、周りの目を気にせずに堂々と年の差のある妻に愛を伝える公爵は、中年男の希望の星だと裏で噂されるようになる。
そんな時、国王陛下と王妃殿下から食事会に誘われる。
公爵は断りたそうにしていたが、国王陛下の招待は断ることは出来ないようで、ブツブツ言いながら仕方なく王宮に向かう。
「アンダーソン公爵、噂は私の耳にまで届いているぞ。記憶を失った若妻の愛を取り戻そうと毎日必死なんだって?」
陛下は私達を興味津々に見つめている。
本心が全く読めない陛下は前世の頃から苦手だったので、見つめられると恐くて萎縮してしまいそうだ。
「恐ろしい陛下に見つめられて妻が怯えています。あまり見ないで下さい」
その時、公爵がスッと私の前に立つ。陛下から私が見えないように隠してくれたらしい。
この気遣いや優しさが嬉しくもあり怖くもある。
「それは悪かった。今日は非公式な場だからあまり緊張しなくて大丈夫だ」
「アリシア、久しぶりね。実は、私がお茶会に誘っても公爵が邪魔をするから、陛下から食事に誘ってもらうことにしたのよ」
王妃殿下は意味深に笑いかけてくる。殿下と会うのは、私がアリスだとバレた日以来だ。
本当は二人きりで会って沢山話をしたかったのに、公爵が私の体調を理由に一人で外出をすることを許してくれなかった。
一人で外出できないのは何気にストレスで、王妃殿下の話を聞いたら、公爵を睨みつけてやりたい気持ちになってしまう。
「夫が申し訳ありませんでした。私はずっと王妃殿下にお会いしたかったので、今日の食事会をとても楽しみにしておりました」
「ふふっ、今日は楽しんでいってね」
四人だけの食事会は普通に楽しかった。それは、私の好きな物を沢山食べさせてくれたから。
これはアリスの好物をよく知る王妃殿下の配慮だと思われる。
食事を終えて帰る時……
「公爵夫人にずっと謝りたいと思っていた……
若かりし頃、不器用だった公爵は最悪だったが、ずっと夫人を大切に思っていた。だが、私の命令した任務によって昔の夫人と公爵は不幸になった」
「……」
陛下にもバレていたのね。嫌だなぁ……
そして、陛下が謝罪している横でニヤニヤしている王妃殿下はなかなかの強者だ。この夫婦は間違いなく王妃殿下の方が強い。
「だが……、今が幸せなら良かった!
公爵のことをこれからもよろしく頼んだぞ。私と王妃が保証人となった婚姻だ。離縁は許さないからな。どちらにしても公爵が夫人を離さないか。ははっ! 仲良くやってくれ」
「陛下、私と妻は仲良くやってますから大丈夫です」
陛下はしんみりしながら真剣に謝罪をしてくれたのに、すぐに笑い話に変えてきた。
この陛下の感じだと、私達二人の微妙な関係を楽しんで見ているってところかしら。
離縁は許さないって言われちゃったよ……
「アリー、そろそろ寝室は一緒にしよう。一日おきにベッドに仕切りを置いて寝るのはやめて、夫婦らしく毎日一緒に寝たいんだ」
「アンダーソン様、私がアリスだと分かったならば、そのようなことを期待するのはおやめ下さい。
私達はベタベタするような関係ではなかったはずですし、貴方がマーズレイ男爵令嬢に操られる前から私を嫌っていたことは気付いておりました。夫婦だからと無理をしなくていいのです」
本当はもっと言ってやりたいくらいだけど、穏便な離縁のために公爵を怒らせてはいけないから、控えめに本音を話すようにした。
「君は私が言ったことを信じていないようだが、私はずっとアリスが好きだったんだ。ただ、当時の私はその気持ちを上手く伝えることが出来ず、君を沢山傷つけたことも知っている。本当に悪かった……
今更だが、君とやり直したい」
「当時の貴方の態度を見て、その言葉を今すぐ信じるのは難しいと思います。
それなのに夫婦らしく寝室を一緒にしたいとか、強引に距離を詰めすぎです」
「すまない……
だが、夫婦として仲良くやっていきたいという気持ちは本気だ。
君が私を拒否しても、私は絶対に諦めるつもりはない。あの頃、君への思いを伝えられずに何度も悔しい思いをした。これからは、私の愛を沢山伝えたいと思う」
公爵は私が死んだ後も順調に年齢を重ねた結果、何を言われても、冷たく突き放されたとしても、多少のことでは動じない男になっていたようだ。
毎日、毎日、周りの目を気にせずに堂々と年の差のある妻に愛を伝える公爵は、中年男の希望の星だと裏で噂されるようになる。
そんな時、国王陛下と王妃殿下から食事会に誘われる。
公爵は断りたそうにしていたが、国王陛下の招待は断ることは出来ないようで、ブツブツ言いながら仕方なく王宮に向かう。
「アンダーソン公爵、噂は私の耳にまで届いているぞ。記憶を失った若妻の愛を取り戻そうと毎日必死なんだって?」
陛下は私達を興味津々に見つめている。
本心が全く読めない陛下は前世の頃から苦手だったので、見つめられると恐くて萎縮してしまいそうだ。
「恐ろしい陛下に見つめられて妻が怯えています。あまり見ないで下さい」
その時、公爵がスッと私の前に立つ。陛下から私が見えないように隠してくれたらしい。
この気遣いや優しさが嬉しくもあり怖くもある。
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王妃殿下は意味深に笑いかけてくる。殿下と会うのは、私がアリスだとバレた日以来だ。
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「夫が申し訳ありませんでした。私はずっと王妃殿下にお会いしたかったので、今日の食事会をとても楽しみにしておりました」
「ふふっ、今日は楽しんでいってね」
四人だけの食事会は普通に楽しかった。それは、私の好きな物を沢山食べさせてくれたから。
これはアリスの好物をよく知る王妃殿下の配慮だと思われる。
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「公爵夫人にずっと謝りたいと思っていた……
若かりし頃、不器用だった公爵は最悪だったが、ずっと夫人を大切に思っていた。だが、私の命令した任務によって昔の夫人と公爵は不幸になった」
「……」
陛下にもバレていたのね。嫌だなぁ……
そして、陛下が謝罪している横でニヤニヤしている王妃殿下はなかなかの強者だ。この夫婦は間違いなく王妃殿下の方が強い。
「だが……、今が幸せなら良かった!
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「陛下、私と妻は仲良くやってますから大丈夫です」
陛下はしんみりしながら真剣に謝罪をしてくれたのに、すぐに笑い話に変えてきた。
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離縁は許さないって言われちゃったよ……
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