結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

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記憶が戻った後の話

37 義母と姉の旅立ち

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 義母と姉が旅立つ日、私は二人の見送りにやって来た。予定外なのが、私一人で来たかったのに公爵までついてきてしまったこと。

「アリー、君の姉は公開処刑を免れたことを知った後から精神的に落ち着いていて、君に感謝したいと話していたようだ。反対に君の義母は、修道院行きが決まってからヒステリックになって、伯爵や使用人達に当たり散らす生活を送っているらしい」

「あの義母らしいですわ。今日は公爵様の目の前で平常心を保っていられるのかが見ものですわね」

 地下牢から出てきた姉はゲッソリしていたが、私がいることに気付くと声を掛けてくれる。

「アリシア……ごめん。私が全て悪かったわ。嫉妬してごめんなさい。元気でね……」

 大粒の涙をこぼしながら謝る姉の姿は意外だった。
 うーん……。謝ってもらっても、殺されかけた私としては心からは喜べないし、病院で厳しい入院生活を送っているうちに、また私を恨んできそうで怖いわ。

 そして、姉と同じ馬車で病院の隣にある修道院に行く義母は……

「アリシア! 公爵夫人だからと調子に乗っているといずれ痛い目に遭うわよ。
 アンタはただの身代わりらしいわよ! 公爵様が忘れられずにいた元婚約者にそっくりだから望まれただけなんですって!
 私生児のアンタなんて誰からも愛されない。そのうち捨てられる日がく……んんっ!」

 みんなが見ている前にもかかわらず、私に大声で暴言を吐く義母。父が慌てて駆け寄り義母の口を押さえている。
 良くも悪くも、義母は私の期待を裏切らない人だった。

 しかし、前にもどっかの夫人に同じような話をされたことがあったけど、アリシアにそっくりな元婚約者ってアリスのこと? 公爵はオーロラが好きだったはずなのに、何でそんな話になるのかしら?
 それとも、アリスとオーロラ以外に別の女がいたりして……

「あ、アリシア……、最後まですまなかった。
 この話は忘れなさい。公爵閣下はアリシアを大切にしてくださっている。幸せになるんだぞ。
 公爵閣下、妻が本当に申し訳ありませんでした。娘をどうぞよろしくお願い致します。これ以上の醜態を晒すわけにはいきません。これで失礼させていただきます」

 父は公爵に必死に謝った後、義母と姉を連れて旅立って行った。それが私の見た父と義母と姉の最後の姿になる。

 ふぅー! 大嫌いな家族を王都から追放できてスッキリした。後は公爵の真実の愛のオーロラと、最推しのロミオと前世の家族について調べようっと。

 宿敵がいなくなったことで、気分良く馬車に乗り込むが、公爵は機嫌が悪いのかずっと黙り込んだままで、馬車の中の雰囲気は最悪になっていた。

 面倒だからそっとしておこう……

 スッキリしたら小腹が空いたわね。帰ったらメイド達にお茶とお菓子を用意してもらおうかしら。
 機嫌の悪い公爵は放っておいて一人で優雅にティータイムよ。

 しかし、邸に着いた瞬間……

「アリー、大切な話があるから二人きりでお茶にしたい」

 嫌とは言えない雰囲気だった。

「……分かりました」

 メイド達はサッとお茶の準備をすると、すぐに部屋から出て行ってしまう。
 夫婦だから二人きりにしてくれているようだけど、今の私達にそんな気遣いはいらないのに。

「今日、君の義母が言ったことだが……」

 沈んだ表情で言いにくそうに話をする公爵を見て、こっちが気まずい気分になってしまう。

「公爵様、話したくないことを無理に話す必要はありませんわ。
 気にならないわけではありませんが、三十過ぎの大人の公爵様に恋愛話の一つや二つあるのは当然だと思っていますから」

 だから、さっさと私を一人にしてちょうだい。氷像と言われるほどの公爵が不機嫌だと、一緒にいるだけで凍えそうになるし、本当に疲れるのよ。

「……私は君を身代わりだなんて思ったことはない。君を愛しているんだ。それだけは信じて欲しい」

 誤解を解こうと必死に話をする公爵。前世の私を裏切った男を信じれるわけがないのに。
 でも、いつか穏便に離縁がしたい私は、その本音をぶつけることはしない。

「はい。公爵様は私を大切にしてくださっているのが分かりますから、何も疑っていませんわ」

 今の私は公爵にお転婆だと思われているけど、表向きは従順にしてないとね。生きていくために、この男を敵にするわけにはいかないのだから。


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