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記憶が戻った後の話
35 厳しい公爵
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大嫌いな義母に仕返しが出来た私はスッキリした気分で公爵家に帰って来た。
天敵をやっつけて気分がいいから、ディナーは何か美味しい物でも食べてお祝いしたいところだけど、口の中と唇が切れて食事は痛そうだから、食事は軽めにしてのんびりと湯浴みして早めに寝ようっと。
私は呑気に考えていたが、その数十秒後に公爵家の玄関前で馬車が停車した瞬間、ガチャっと勢いよくドアが開けられる。
いつもは控えめにドアをノックをしてから開けてくれるのに、誰だろうと思ったら……
「アリー! 大丈夫か?
なんてことだ……。君の愛らしい頬と唇が腫れているではないか。あの女……、私のアリーに危害を加えたことを後悔させてやる!
侍医を待たせているから、急いで見てもらおう!」
げっ! 何で公爵が玄関前で待っているのよ?
しかも、私が義母とバトルをしてきたことを知っている……
「公爵様、これくらい放っておけば勝手に治りますわ。これは名誉の負傷なので、気になさらず」
過保護を通り越して面倒な父親のようになっている公爵に笑顔で大したことないアピールをするが、それは全く効果はなかった。
「名誉の負傷? 私からすれば、大切な妻が傷付けられた怒りと悲しみしかない。
頬が赤く腫れて口が切れている。侍医の所まで私が運ぼう」
そう言うと、公爵は私をサッと抱きかかえて歩き出す。
これは世の女の子達が憧れるお姫様抱っこだよね……? ビンタ一発くらい大したことないし、自分で歩けるのに。
「公爵様、これくらい平気です!」
「アリー、あまり無茶をするようなら、しばらくは外出を禁止しなくてはならない。心配する私の気持ちも分かってくれ」
ビンタ一発食らってきただけで外出禁止令?
公爵は私の親なのかというくらい厳しい。
「公爵様、それは酷いですわ!」
「それが嫌なら黙って侍医の診察を受けてくれ」
「……分かりました」
侍医は頬に塗る薬を処方してくれた。
「公爵閣下、診断書はすぐにご用意致します。
奥様、食事中に口の傷が痛むと思いますので、数日間は薄味のスープやパン粥などを食べると良いでしょう。お大事になさって下さい」
「先生、ありがとうございました」
侍医が退出した後、私と公爵は部屋で二人きりになる。
公爵はご機嫌斜めだし、なんだか気まずいわ。
シーンと静まる中、公爵が口を開く。
「アリー、記憶を失くす前の君は真面目で優しくて素敵な令嬢だった。ただ、実家の伯爵家で生まれを蔑まされていたせいで自分に自信がなく、なかなか貴族社会に馴染めずに苦労していた」
それは自分が一番知っているわよ。記憶を失くしたのではなく、実は前世の記憶を思い出しただけなんだから。
前世の記憶を思い出す前の私とはかなり性格が変わってしまい、記憶喪失が嘘だとは今のところ誰にもバレてないと思うけど……
「優しすぎる君を私がいない場所で虐めて楽しむ貴族もいて、あまりに酷い時には私が消してやった。夫として弱い君を守るのは当然だと思っていたからだ。
しかし、私は君と年の差がある以上、永遠に君を守っていくことは難しい。いつか老を迎える日がくるだろうし、公爵家の親戚には未だに当主の座を狙う者もいる。
だから私は将来が不安だった。私に何かあったら、弱い君は一番に狙われるだろうと……」
でしょうね。あんな弱っちいアリシアでは、公爵家の親戚は簡単に陥れようとするわ。
「君が記憶喪失になったことは悲しかったが、命が助かっただけでも幸せだと思えた。
私を見つめる目が変わり、態度がよそよそしく別人のようになってしまったが、君は前よりも生き生きしているし、弱かった性格が強くなったことは嬉しかった。あの義母や、義母の友人を言い負かしていたと聞いた時は安堵したんだ。
だが、私は怪我をするほどのことはして欲しくない。お転婆な君も可愛いが、怪我をするのは駄目だ」
公爵なりに私のことをよく見ていたらしい。自分を見つめる目が変わっていたことにも気付いていたのね。
「今後は気をつけます。申し訳ありませんでした。
今日はもう休ませていただきます」
「おやすみ、私のお姫様……」
怒って説教をしていると思ったら、〝お姫様〟だなんて言って抱きしめてきたり、この男がよく分からないわ。
それから三日後、義母が修道院に行くことになったと知らせが入る。
天敵をやっつけて気分がいいから、ディナーは何か美味しい物でも食べてお祝いしたいところだけど、口の中と唇が切れて食事は痛そうだから、食事は軽めにしてのんびりと湯浴みして早めに寝ようっと。
私は呑気に考えていたが、その数十秒後に公爵家の玄関前で馬車が停車した瞬間、ガチャっと勢いよくドアが開けられる。
いつもは控えめにドアをノックをしてから開けてくれるのに、誰だろうと思ったら……
「アリー! 大丈夫か?
なんてことだ……。君の愛らしい頬と唇が腫れているではないか。あの女……、私のアリーに危害を加えたことを後悔させてやる!
侍医を待たせているから、急いで見てもらおう!」
げっ! 何で公爵が玄関前で待っているのよ?
しかも、私が義母とバトルをしてきたことを知っている……
「公爵様、これくらい放っておけば勝手に治りますわ。これは名誉の負傷なので、気になさらず」
過保護を通り越して面倒な父親のようになっている公爵に笑顔で大したことないアピールをするが、それは全く効果はなかった。
「名誉の負傷? 私からすれば、大切な妻が傷付けられた怒りと悲しみしかない。
頬が赤く腫れて口が切れている。侍医の所まで私が運ぼう」
そう言うと、公爵は私をサッと抱きかかえて歩き出す。
これは世の女の子達が憧れるお姫様抱っこだよね……? ビンタ一発くらい大したことないし、自分で歩けるのに。
「公爵様、これくらい平気です!」
「アリー、あまり無茶をするようなら、しばらくは外出を禁止しなくてはならない。心配する私の気持ちも分かってくれ」
ビンタ一発食らってきただけで外出禁止令?
公爵は私の親なのかというくらい厳しい。
「公爵様、それは酷いですわ!」
「それが嫌なら黙って侍医の診察を受けてくれ」
「……分かりました」
侍医は頬に塗る薬を処方してくれた。
「公爵閣下、診断書はすぐにご用意致します。
奥様、食事中に口の傷が痛むと思いますので、数日間は薄味のスープやパン粥などを食べると良いでしょう。お大事になさって下さい」
「先生、ありがとうございました」
侍医が退出した後、私と公爵は部屋で二人きりになる。
公爵はご機嫌斜めだし、なんだか気まずいわ。
シーンと静まる中、公爵が口を開く。
「アリー、記憶を失くす前の君は真面目で優しくて素敵な令嬢だった。ただ、実家の伯爵家で生まれを蔑まされていたせいで自分に自信がなく、なかなか貴族社会に馴染めずに苦労していた」
それは自分が一番知っているわよ。記憶を失くしたのではなく、実は前世の記憶を思い出しただけなんだから。
前世の記憶を思い出す前の私とはかなり性格が変わってしまい、記憶喪失が嘘だとは今のところ誰にもバレてないと思うけど……
「優しすぎる君を私がいない場所で虐めて楽しむ貴族もいて、あまりに酷い時には私が消してやった。夫として弱い君を守るのは当然だと思っていたからだ。
しかし、私は君と年の差がある以上、永遠に君を守っていくことは難しい。いつか老を迎える日がくるだろうし、公爵家の親戚には未だに当主の座を狙う者もいる。
だから私は将来が不安だった。私に何かあったら、弱い君は一番に狙われるだろうと……」
でしょうね。あんな弱っちいアリシアでは、公爵家の親戚は簡単に陥れようとするわ。
「君が記憶喪失になったことは悲しかったが、命が助かっただけでも幸せだと思えた。
私を見つめる目が変わり、態度がよそよそしく別人のようになってしまったが、君は前よりも生き生きしているし、弱かった性格が強くなったことは嬉しかった。あの義母や、義母の友人を言い負かしていたと聞いた時は安堵したんだ。
だが、私は怪我をするほどのことはして欲しくない。お転婆な君も可愛いが、怪我をするのは駄目だ」
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「今後は気をつけます。申し訳ありませんでした。
今日はもう休ませていただきます」
「おやすみ、私のお姫様……」
怒って説教をしていると思ったら、〝お姫様〟だなんて言って抱きしめてきたり、この男がよく分からないわ。
それから三日後、義母が修道院に行くことになったと知らせが入る。
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