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記憶が戻った後の話
30 小物
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私は、今までの弱っちいアリシアではないという牽制を込めて、この小物のオバさんに遠慮なくガツンと言ってやることにした。
「そうでしたか……、夫人は義母を心配して下さっているのですね」
「ええ。ベント伯爵夫人は親友ですから」
「ええっ! 夫人が義母の親友ですって? それは本当ですか?」
あの義母の親友だと得意げになる夫人に、私はわざと大袈裟に反応して見せた。
「クスッ! それはアンダーソン公爵夫人が知らないだけかと」
夫人の本性が見えたわ。そうそう、その顔よ。小物であっても貴女はあの極悪人の義母の仲間なのだから。
「夫人は先程、義母が〝可愛いがっていた一人娘を失って塞ぎ込んでいる〟と言っておられましたが、義母には義理の娘の私もいるので一人娘ではないはず。義母の親友なら家族構成くらい知っているのが普通では?
それとも夫人は、私を義母の義娘だと認めていないとでも遠回しに言いたいのかしら?
先程から気になっておりましたが、伯爵夫人が公爵夫人に話すような態度とは思えませんし、ミッチェル伯爵家はアンダーソン公爵家を下に見ているということでよろしいですか?」
「そのようなつもりはありませんわ!」
ふふっ! 弱っちいアリシアを馬鹿にしていたオバさんが、強気で言い返されたことで困惑しているわ。
図書館には色々な貴族がきているから、近いうちに社交界では、ミッチェル伯爵夫人がアンダーソン公爵夫人を怒らせたと噂になるわね。
みんな見て見ぬ振りをして、しっかり聞き耳を立てているでしょうから。
「では、どういうつもりでしょうね? 私がまだ若いからと馬鹿にしているのかしら。このことは夫の公爵に報告させて頂きます。
楽しいはずの読書の時間が台無しだわ。今後、ここで夫人には二度と会わないことを祈っています。ご機嫌よう!」
顔色を悪くしたミッチェル伯爵夫人に、図書館にはもう来るなと遠回しに伝え、私は勢いよく帰って来てしまった。
その後、色々と調べ物をするために毎日のように王宮の図書館に通い続けたが、ミッチェル伯爵夫人に会うことはなかった。
本好きな人が図書館に来れないのは辛いかもしれないけど、本は自分で買って家で読んでくださいね!
◇◇
毎日のように図書館に通って専門書を読み漁る私は、自分の命を狙った姉の処刑を回避するため、健気に頑張る慈悲深い公爵夫人として、図書館の職員や図書館をよく利用している貴族達の間で有名になりつつあった。
大切な姉を助けたいのではなく、あの姉は死んだら私を呪いそうで怖いし、死んで生まれ変わってきたら私を殺しにきそうで厄介だから、処刑を回避して幽閉にしたいだけなのに、事情を知らない人は何でも美談にしたがるから困る。
でも、そんな素晴らしい噂のおかげで私に好意的に接してくれる人が増えたので、これからも表向きは慈悲深い公爵夫人を演じるつもりだ。
こうしておけば、公爵と離縁した後に路頭に迷っても誰かしらは助けてくれるよね?
そんな私の話は国王陛下の耳にも届いていたようで……
「アリー、健気な君の話を国王陛下もお聞きになったようで、あの女の刑の執行をしばらく延期したいと言って下さったよ」
あの何を考えているか分からない陛下が、そんな配慮を見せてくれるなんて何か裏があるのではと疑ってしまう。しかし、今の私は健気に頑張る慈悲深い公爵夫人。それっぽく喜ばないと。
「……国王陛下に私が感謝していたことをお伝え下さい。
公爵様も私のためにご尽力くださり、ありがとうございました」
「アリーが望むことを叶えるのが夫である私の責務だ。君が喜んでくれて良かった」
チュッ! ……は? 今、額にキスしてきたの?
「公爵様……、そういうのはちょっと困ります」
「額がダメなら唇にするのを許してくれるか?」
「……額なら我慢します」
最近、公爵に上手く言いくるめられて、距離を取っているつもりなのに、気づくと距離をジリジリと詰められているような気がしてならない。
私が一度死んで田舎の平民として静かな人生を過ごしている間に、この男は公爵としてモテまくって、軽々しくキスをする男へと変貌したのかしら。
前世ではロミオの推し活が忙しかったし、冷めた婚約者がいたせいで恋愛とは無縁だった。今世では地味に生きてきて、恋愛経験はないに等しいから、こんな時のかわし方がよく分からないわ。
公爵との距離感に悩んでいたある日、義母から生まれて初めての手紙が届く。
その手紙には、久しぶりに会いたいと弱々しい字で書かれていた。
「そうでしたか……、夫人は義母を心配して下さっているのですね」
「ええ。ベント伯爵夫人は親友ですから」
「ええっ! 夫人が義母の親友ですって? それは本当ですか?」
あの義母の親友だと得意げになる夫人に、私はわざと大袈裟に反応して見せた。
「クスッ! それはアンダーソン公爵夫人が知らないだけかと」
夫人の本性が見えたわ。そうそう、その顔よ。小物であっても貴女はあの極悪人の義母の仲間なのだから。
「夫人は先程、義母が〝可愛いがっていた一人娘を失って塞ぎ込んでいる〟と言っておられましたが、義母には義理の娘の私もいるので一人娘ではないはず。義母の親友なら家族構成くらい知っているのが普通では?
それとも夫人は、私を義母の義娘だと認めていないとでも遠回しに言いたいのかしら?
先程から気になっておりましたが、伯爵夫人が公爵夫人に話すような態度とは思えませんし、ミッチェル伯爵家はアンダーソン公爵家を下に見ているということでよろしいですか?」
「そのようなつもりはありませんわ!」
ふふっ! 弱っちいアリシアを馬鹿にしていたオバさんが、強気で言い返されたことで困惑しているわ。
図書館には色々な貴族がきているから、近いうちに社交界では、ミッチェル伯爵夫人がアンダーソン公爵夫人を怒らせたと噂になるわね。
みんな見て見ぬ振りをして、しっかり聞き耳を立てているでしょうから。
「では、どういうつもりでしょうね? 私がまだ若いからと馬鹿にしているのかしら。このことは夫の公爵に報告させて頂きます。
楽しいはずの読書の時間が台無しだわ。今後、ここで夫人には二度と会わないことを祈っています。ご機嫌よう!」
顔色を悪くしたミッチェル伯爵夫人に、図書館にはもう来るなと遠回しに伝え、私は勢いよく帰って来てしまった。
その後、色々と調べ物をするために毎日のように王宮の図書館に通い続けたが、ミッチェル伯爵夫人に会うことはなかった。
本好きな人が図書館に来れないのは辛いかもしれないけど、本は自分で買って家で読んでくださいね!
◇◇
毎日のように図書館に通って専門書を読み漁る私は、自分の命を狙った姉の処刑を回避するため、健気に頑張る慈悲深い公爵夫人として、図書館の職員や図書館をよく利用している貴族達の間で有名になりつつあった。
大切な姉を助けたいのではなく、あの姉は死んだら私を呪いそうで怖いし、死んで生まれ変わってきたら私を殺しにきそうで厄介だから、処刑を回避して幽閉にしたいだけなのに、事情を知らない人は何でも美談にしたがるから困る。
でも、そんな素晴らしい噂のおかげで私に好意的に接してくれる人が増えたので、これからも表向きは慈悲深い公爵夫人を演じるつもりだ。
こうしておけば、公爵と離縁した後に路頭に迷っても誰かしらは助けてくれるよね?
そんな私の話は国王陛下の耳にも届いていたようで……
「アリー、健気な君の話を国王陛下もお聞きになったようで、あの女の刑の執行をしばらく延期したいと言って下さったよ」
あの何を考えているか分からない陛下が、そんな配慮を見せてくれるなんて何か裏があるのではと疑ってしまう。しかし、今の私は健気に頑張る慈悲深い公爵夫人。それっぽく喜ばないと。
「……国王陛下に私が感謝していたことをお伝え下さい。
公爵様も私のためにご尽力くださり、ありがとうございました」
「アリーが望むことを叶えるのが夫である私の責務だ。君が喜んでくれて良かった」
チュッ! ……は? 今、額にキスしてきたの?
「公爵様……、そういうのはちょっと困ります」
「額がダメなら唇にするのを許してくれるか?」
「……額なら我慢します」
最近、公爵に上手く言いくるめられて、距離を取っているつもりなのに、気づくと距離をジリジリと詰められているような気がしてならない。
私が一度死んで田舎の平民として静かな人生を過ごしている間に、この男は公爵としてモテまくって、軽々しくキスをする男へと変貌したのかしら。
前世ではロミオの推し活が忙しかったし、冷めた婚約者がいたせいで恋愛とは無縁だった。今世では地味に生きてきて、恋愛経験はないに等しいから、こんな時のかわし方がよく分からないわ。
公爵との距離感に悩んでいたある日、義母から生まれて初めての手紙が届く。
その手紙には、久しぶりに会いたいと弱々しい字で書かれていた。
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