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記憶が戻った後の話
28 魔女のような姉
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地下牢の通路を更に進むと牢番が足を止める。
「通路の突き当たりを右に曲がった場所にあの女の牢があります。
少し前までは人が来たのが分かると大声で叫び、繰り言のようなことを口にしていました。
危険な女なので格子からは離れて下さい」
「分かりました。ところで、家族は姉に会いに来ましたか?」
姉を野放しにしていたアリシアの父親と、自分にそっくりな姉をひたすら甘やかしていた義母。二人にとって伯爵家の跡取りでもある姉は自分の命より大切なはず。そんな姉が罪を犯して公開処刑が決まったら、あの二人はどんな動きをするのか、ずっと気になっていた。
「いえ、一度も来ておりません。家族は手続きさえ行えば面会は許されております。
処刑が決まった罪人であっても、家族が食事や毛布、聖書などを届けに来ることは珍しくないのですが、伯爵家からは誰も来ておりませんね」
あの両親は姉をあっさりと見捨てたようだ。仲が良かったなら処刑前に会いに来てもいいのに。
ふふっ……、ザマァ!
「私のいた伯爵家は家族関係があまり良くないのでしょうか……?
ところで、ここからは私と牢番で行かせてもらいます。公爵様と護衛騎士はここでお待ち下さい」
公爵が来たら、あの姉の本音が聞けなくなる可能性がある。それは私としては面白くない。
「それはダメだ。あの女は危険だから君と牢番の二人で行かせることは出来ない」
公爵がいたらあの女は猫かぶりするかもしれないって、何で分かんないかなぁ。
その後も一緒に行くと言って聞かない公爵を何とか説得し、公爵の筆頭護衛騎士も一緒に連れて行くことで何とか納得してくれた。
牢番と護衛騎士と姉の牢の前に行くと、ボサボサの赤髪の女が見える。あれはアリシアの姉で間違いない。
人が来たことに気付いた姉は、格子の側までやって来て私達を睨みつけるように見つめる。ゲッソリした顔に異様にギラギラした目が怖い。
そして、私に気付いた姉は……
「アリシアーー! アンタ、生きてたのね」
地下牢の敷地内に響き渡るほどの大声で叫ぶ姉は、呪われた魔女のように見えて普通に怖かった。
想像以上の怖さでビクッとなってしまう。
「奥様、大丈夫ですか? 私の背後に下がって下さい」
公爵と同年代くらいのベテラン護衛騎士は、姉にビビる私を心配して声を掛けてくれた。
「だっ、大丈夫よ。私がお姉様に会いたいと言ってここまで来たんですから」
「処刑を待つ私を見て笑いに来たんでしょ?
死んだらアンタを呪ってやるぅーー。もし生まれ変わったら、アンタを沢山虐めて殺してやるからー」
ブルブル……
一度死んだ私としては、狂った姉の発した言葉はシャレにならなかった。
文句を言いに来たはずなのに、魔女が怖すぎて言葉が出てこない。しっかりしないと。
やっぱりこの女は処刑するより、生き地獄の方がいいわ。よーし!
「お姉様、お可哀想に……
私はお姉様と一緒に過ごした日々の記憶を失くしてしまいましたが、たった一人のお姉様にどうしてもお会いしたくてここまで来ました。
こんな真っ暗な場所にいたら、誰でも心を病んでしまいます。
私……、お姉様の刑を軽くしてもらえないか頼んでみます」
「えっ? アンタ、何を言っているの?
私はアンタを殺そうとしたのよ。バレなきゃいいって思って、階段から突き落としたの!
近衛騎士にしっかり目撃されて捕まっちゃったけど」
そうだったんだ……、知らなかったわ。
それよりも、私が意外なことを言い出したから、姉が拍子抜けしている。
「お姉様、私は大切なお姉様を赦したい。
私はこうやって生きてます。だから、お姉様にも生きていて欲しいのです。
お姉様、会いたい人はいますか? 食べたいものや欲しい物はありますか?
私、お姉様のために最善を尽くしますから、待っていて下さいね」
心にもないことをペラペラと喋る自分に引きそうになるわ……
上げるだけ上げて、後で落としてやる!
「アリシアぁー、お父様もお母様も、貴族の身分を剥奪された私を見捨てたのに……。私にそんな言葉をかけてくれたのはアンタだけよぉ」
両親は姉を見捨てたのね……
私としては姉は大嫌いだけど、あの父も義母も大嫌い。今回のちょっとした復讐には伯爵家も巻き込んでやるんだから。
「通路の突き当たりを右に曲がった場所にあの女の牢があります。
少し前までは人が来たのが分かると大声で叫び、繰り言のようなことを口にしていました。
危険な女なので格子からは離れて下さい」
「分かりました。ところで、家族は姉に会いに来ましたか?」
姉を野放しにしていたアリシアの父親と、自分にそっくりな姉をひたすら甘やかしていた義母。二人にとって伯爵家の跡取りでもある姉は自分の命より大切なはず。そんな姉が罪を犯して公開処刑が決まったら、あの二人はどんな動きをするのか、ずっと気になっていた。
「いえ、一度も来ておりません。家族は手続きさえ行えば面会は許されております。
処刑が決まった罪人であっても、家族が食事や毛布、聖書などを届けに来ることは珍しくないのですが、伯爵家からは誰も来ておりませんね」
あの両親は姉をあっさりと見捨てたようだ。仲が良かったなら処刑前に会いに来てもいいのに。
ふふっ……、ザマァ!
「私のいた伯爵家は家族関係があまり良くないのでしょうか……?
ところで、ここからは私と牢番で行かせてもらいます。公爵様と護衛騎士はここでお待ち下さい」
公爵が来たら、あの姉の本音が聞けなくなる可能性がある。それは私としては面白くない。
「それはダメだ。あの女は危険だから君と牢番の二人で行かせることは出来ない」
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その後も一緒に行くと言って聞かない公爵を何とか説得し、公爵の筆頭護衛騎士も一緒に連れて行くことで何とか納得してくれた。
牢番と護衛騎士と姉の牢の前に行くと、ボサボサの赤髪の女が見える。あれはアリシアの姉で間違いない。
人が来たことに気付いた姉は、格子の側までやって来て私達を睨みつけるように見つめる。ゲッソリした顔に異様にギラギラした目が怖い。
そして、私に気付いた姉は……
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想像以上の怖さでビクッとなってしまう。
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「だっ、大丈夫よ。私がお姉様に会いたいと言ってここまで来たんですから」
「処刑を待つ私を見て笑いに来たんでしょ?
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ブルブル……
一度死んだ私としては、狂った姉の発した言葉はシャレにならなかった。
文句を言いに来たはずなのに、魔女が怖すぎて言葉が出てこない。しっかりしないと。
やっぱりこの女は処刑するより、生き地獄の方がいいわ。よーし!
「お姉様、お可哀想に……
私はお姉様と一緒に過ごした日々の記憶を失くしてしまいましたが、たった一人のお姉様にどうしてもお会いしたくてここまで来ました。
こんな真っ暗な場所にいたら、誰でも心を病んでしまいます。
私……、お姉様の刑を軽くしてもらえないか頼んでみます」
「えっ? アンタ、何を言っているの?
私はアンタを殺そうとしたのよ。バレなきゃいいって思って、階段から突き落としたの!
近衛騎士にしっかり目撃されて捕まっちゃったけど」
そうだったんだ……、知らなかったわ。
それよりも、私が意外なことを言い出したから、姉が拍子抜けしている。
「お姉様、私は大切なお姉様を赦したい。
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お姉様、会いたい人はいますか? 食べたいものや欲しい物はありますか?
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上げるだけ上げて、後で落としてやる!
「アリシアぁー、お父様もお母様も、貴族の身分を剥奪された私を見捨てたのに……。私にそんな言葉をかけてくれたのはアンタだけよぉ」
両親は姉を見捨てたのね……
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