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記憶が戻る前の話
14 縁談話
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王妃殿下のお茶会には公爵様も招待されており、今回も二人で王宮に行くことになった。
「アンダーソン公爵、アリシア、今日は来てくれてありがとう。
堅苦しい挨拶は要らないわ。早く座ってちょうだい。アリシアが来る時間に合わせてスコーンを焼いてもらっているのよ」
今日も王妃殿下は私達を笑顔で迎えてくださった。お会い出来たことが嬉しくてきちんと挨拶をしたいのに、王妃殿下に手を引かれて席に座らされてしまう。気さくに接してくれる王妃殿下を見ていると、図々しくもこの方は私の身内なのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
「ベント伯爵令嬢、王妃殿下はこういう人だからあまり気にしなくていい」
「恐れ入ります」
席に座ると、すぐに温かい紅茶と色々な種類のサンドイッチ、焼き立てのスコーンなどの軽食が運ばれてくる。前回、甘い物が苦手だと打ち明けたからか、スイーツは少しだけだった。
「アリシアは甘い物が苦手だから、今日は軽食を多く準備しておいたわ。沢山食べてね」
「王妃殿下のお気遣いに感謝いたします」
「……甘い物が苦手だったのか。知らなかったな」
隣に座っていた公爵様が深刻な顔で呟く。
甘い物が苦手な人はそんなに珍しくないのに、どうしてそんな表情をするのか、私にはよく分からなかった。
その後、王妃殿下からオフリー子爵令嬢の件について謝罪を受けた。
彼女は少し前まで王宮に行儀見習いに来ていて、一緒に働いていた友人に会いたいと理由をつけて王宮内をフラフラしては、お目当ての近衛騎士に声を掛け、仕事の邪魔をしていると苦情が多くあったらしい。
それだけでなく、王妃殿下から正式に招待されて王宮に来ていた私に暴言を吐いたと報告を受けた国王陛下と王妃殿下は、事態を重く受け止めて子爵令嬢の王宮への立ち入り禁止を決めたということだった。
「オフリー子爵家はね、子爵家としては裕福な方だから、あのご令嬢は蝶よ花よと育てられたみたいね。世間知らずで行儀見習いに来ても全然使えなかったわ。仕事より結婚相手を探すことに必死になっていたみたい。
自分より身分が高くて、私の大切なお客様でもあるアリシアに早く帰れだとか暴言を吐くなんて、身の程を弁えていなかったようね」
「そんなことがあったのですか……」
確かに派手で高そうなドレスを着て、自分に自信のあるような振る舞いをしていた。箱入り娘で家族に大切にされて育ってきたと聞けば納得出来る。
「近衛騎士達から苦情も多く出ていたから、今後は王宮に来るのを禁止にしてもらったわ。
あ、アリシアの姉君にもお手紙を出しておいたわよ。『貴女の友人にはガッカリした』とね。
これで、あの姉君が黙るようには見えないけど、しばらく静かになってくれたらいいわね」
「王妃殿下のお手を煩わせて申し訳ありませんでした」
「いいのよ。それも私の大切な仕事なのだから。
それよりね、そろそろアリエルの縁談相手を探そうと陛下と話していたのよ。
小耳に挟んだのだけど、貴女の実家の方に縁談話が沢山きているらしいわ。あの伯爵夫人のことだからとんでもない縁談相手を選ぶわよ。その前に私と陛下で良い人を探してあげるわね」
あの義母や姉ならば、二人で結託して意図的に私が不幸になりそうな相手を選びそうだ。そうなる前に、信頼する王妃殿下の選んで下さった人と婚約する方がいいだろう。
「王妃殿下、どうぞよろしくお願い致します。殿下の選んで下さった方なら喜んでお受け致しますわ」
「ふふっ! 任せてちょうだい」
その時、隣で静かにお茶を飲んでいたはずの公爵様が声を上げる。
「待ってくれ! ベント伯爵令嬢、君はまだ16歳だろう? まだ結婚を意識するのは早すぎる!
君の両親なら私がいくらでも話をつけてやる。君の姉が何かを企てないように監視をつけることだって出来る。
だから、そんなに急いで相手を決める必要はない。もっと自分を大切にすべきだ!」
冷静沈着、無表情、氷像などと言われる公爵様が急に声を張り上げる姿を見て、王妃殿下と私は驚きのあまり絶句してしまった。
「アンダーソン公爵、アリシア、今日は来てくれてありがとう。
堅苦しい挨拶は要らないわ。早く座ってちょうだい。アリシアが来る時間に合わせてスコーンを焼いてもらっているのよ」
今日も王妃殿下は私達を笑顔で迎えてくださった。お会い出来たことが嬉しくてきちんと挨拶をしたいのに、王妃殿下に手を引かれて席に座らされてしまう。気さくに接してくれる王妃殿下を見ていると、図々しくもこの方は私の身内なのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
「ベント伯爵令嬢、王妃殿下はこういう人だからあまり気にしなくていい」
「恐れ入ります」
席に座ると、すぐに温かい紅茶と色々な種類のサンドイッチ、焼き立てのスコーンなどの軽食が運ばれてくる。前回、甘い物が苦手だと打ち明けたからか、スイーツは少しだけだった。
「アリシアは甘い物が苦手だから、今日は軽食を多く準備しておいたわ。沢山食べてね」
「王妃殿下のお気遣いに感謝いたします」
「……甘い物が苦手だったのか。知らなかったな」
隣に座っていた公爵様が深刻な顔で呟く。
甘い物が苦手な人はそんなに珍しくないのに、どうしてそんな表情をするのか、私にはよく分からなかった。
その後、王妃殿下からオフリー子爵令嬢の件について謝罪を受けた。
彼女は少し前まで王宮に行儀見習いに来ていて、一緒に働いていた友人に会いたいと理由をつけて王宮内をフラフラしては、お目当ての近衛騎士に声を掛け、仕事の邪魔をしていると苦情が多くあったらしい。
それだけでなく、王妃殿下から正式に招待されて王宮に来ていた私に暴言を吐いたと報告を受けた国王陛下と王妃殿下は、事態を重く受け止めて子爵令嬢の王宮への立ち入り禁止を決めたということだった。
「オフリー子爵家はね、子爵家としては裕福な方だから、あのご令嬢は蝶よ花よと育てられたみたいね。世間知らずで行儀見習いに来ても全然使えなかったわ。仕事より結婚相手を探すことに必死になっていたみたい。
自分より身分が高くて、私の大切なお客様でもあるアリシアに早く帰れだとか暴言を吐くなんて、身の程を弁えていなかったようね」
「そんなことがあったのですか……」
確かに派手で高そうなドレスを着て、自分に自信のあるような振る舞いをしていた。箱入り娘で家族に大切にされて育ってきたと聞けば納得出来る。
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あ、アリシアの姉君にもお手紙を出しておいたわよ。『貴女の友人にはガッカリした』とね。
これで、あの姉君が黙るようには見えないけど、しばらく静かになってくれたらいいわね」
「王妃殿下のお手を煩わせて申し訳ありませんでした」
「いいのよ。それも私の大切な仕事なのだから。
それよりね、そろそろアリエルの縁談相手を探そうと陛下と話していたのよ。
小耳に挟んだのだけど、貴女の実家の方に縁談話が沢山きているらしいわ。あの伯爵夫人のことだからとんでもない縁談相手を選ぶわよ。その前に私と陛下で良い人を探してあげるわね」
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だから、そんなに急いで相手を決める必要はない。もっと自分を大切にすべきだ!」
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