結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

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記憶が戻る前の話

12 姉からの手紙

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 ある日の午後、公爵様からお呼び出しを受ける。
 急ぎで執務室に向かうと、そこには明らかに不機嫌な公爵様がいた。
 石像のように整った顔と体型。完璧すぎる人が不機嫌だと、普通の人の100倍くらい恐ろしい。
 
「ベント伯爵令嬢、君にオフリー子爵家からお詫びの品が届いている」

 公爵様の視線の先には、大小様々な箱が幾つも置かれてある。プレゼントのような豪華な箱は、開けなくても高価な物が入っているのが分かる物だった。

「私にお詫びの品ですか?」

「そうだ。私はすぐにあの女の愚行を王妃殿下に報告した。王妃殿下の客人であるアリシアに早く帰れと暴言を吐いたことを知った王妃殿下は大変激怒して、オフリー子爵令嬢の王宮への立ち入りを禁止したんだ。
 あの女は王宮で働く近衛騎士の一人を気に入り、何かと理由をつけては王宮に来て仕事の邪魔をしていたらしい。そのことも立ち入り禁止の理由の一つになったようだ」

 私の知らないところでそんなことがあったなんて……
 やっぱり貴族の世界は怖いわ。少し間違えただけでこんな大事になるのだから。

「あの女は今後、王宮の行事には参加出来なくなるから社交活動に大きな影響を受けるだろう。
 私の方もオフリー子爵に強く抗議して、子爵家との取引を一部取りやめることにした。
 オフリー子爵家はこんなものを送りつけて、君の機嫌を取り、私や王妃殿下との関係を取り成してもらいたいのだろう」

「公爵様、そこまでされなくても……」

 私のせいで親友が王宮の行事に参加できなくなったと知ったら、あの姉は怒り狂ってどんな報復をしてくるか分からない。出来れば穏便に済ませたいと思った。

「君が伯爵家でどんな扱いをされてきたかを王妃殿下から全て聞いた。
 気を悪くしないでくれ。殿下は君を守るために仕方なく私に事情を説明してくれただけだ」

「……それは理解しております」

 王妃殿下から私の事情を聞いて、同情から親切にして下さったのね。嬉しいけどなんだか複雑だわ。
 
「君の姉の暴挙を知ってしまった以上は、今回のことは厳しく対応すべきだと思っている。君の評判を悪くするようなことをオフリー子爵令嬢に話した結果がアレだ。
 ベント伯爵令嬢に何かあれば、私と王妃殿下が黙っていないことを周りの者達に知らしめる必要がある。君のことだから、穏便に済ませたいと考えているだろうが、それではまた嫌がらせを受けるだろう。分かってくれ」

「ご配慮に感謝いたします。しかし、ただの行儀見習いの私にそこまでされるのは、身に余るご厚意で大変恐縮ですわ」

 なぜこの方はここまでしてくれるのかしら?
 不機嫌で怖いと思ったけど、話を聞いたら私のために怒ってくれているのが分かる。

「私がしたくてするのだから気にしないでくれ。
 ところで、これらの物はオフリー子爵家に送り返していいか?」

「はい。よろしくお願いいたします」

 その日からしばらくして、今度は姉から手紙が届く。内容は王妃殿下とアンダーソン公爵様に対して、オフリー子爵令嬢の誤解を解くようにというものだった。今なら許してやってもいい、出来ないなら一生伯爵家には戻れないと思え、育ての親である平民の命がどうなってもいいのか? と、私を脅すような手紙だった。
 オフリー子爵令嬢は姉の親友だから、何とかして欲しいと助けを求められたのだろう。
 あの姉のことだから、私に毒を盛った時のようにおじさんやおばさん達に何をするか分からない。

 どうすればいいの?

 王妃殿下や公爵様は私を助けるために色々と配慮して下さったのに、今さらオフリー子爵令嬢のしたことは誤解で何も悪くなかったなんて馬鹿げたことは言えないわ。
 何よりも、公爵様は彼女の言動を直接聞いているからそんな話をしても絶対に無理なのに……

 

  
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