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記憶が戻る前の話
11 本当は優しい人?
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派手なご令嬢とは初対面のはずなのに、私がベント伯爵家の者だと知っている。誰だろう……?
「ご機嫌よう。私達は初対面かと思いますが、どこかでお会いしましたか?」
「……そうね。私達が話をするのは初めてよ。貴女がデビュタントで陛下とダンスを踊っていたのを見させてもらったわ」
その視線や口調から、ご令嬢が私を嫌っていることが伝わる。
「私はエステルの親友とでも言えば分かるかしらね。貴族の私が卑しい私生児なんかに名前は教えないわ。
貴女のことは彼女からよく聞いていたのよ。愛人の娘の分際で図々しくて困るってね」
姉の友人なのね……
姉がいない場所であっても、私は姉の友人に虐められる運命のようだ。
「ねぇ……、エステルは貴女の嫌がらせで体調を崩したって本当?
ちょっと綺麗で優秀だからと、身の程も弁えないで伯爵様や夫人に上手く取り入って、エステルの居場所を奪ったんですってね?
さすが愛人の子供だけあって人の物を奪うのが得意なのね」
「……っ」
そんな考えで行動したことはなかったのに、見る人が見たらそんな風に見えていたの?
自分なりに立場を弁えていたつもりだったのに。
ショックを受けた私は何も言い返せなかった。
「あらぁ、泣きそうな顔をしてみっともないわね。
何も言い返せないところを見ると、本当のことのようね。
それで、何で貴女が王宮内をフラフラしているのかしら?
ここは貴女みたいな卑しい私生児が来る場所じゃないわ。空気が汚れるから早く帰ってちょうだい!」
姉の友人が怖くて何も言い返せないでいると、後ろから怒りを含んだ低い声が聞こえてくる。
「おい! 彼女は王妃殿下から招待されてここに来ている。
王妃殿下の大切なゲストを子爵令嬢ごときが侮辱するつもりか?
オフリー子爵令嬢がベント伯爵令嬢に早く帰れと暴言を吐いていたと、私から王妃殿下に報告させてもらう」
ビクビクしながら振り返ると、そこには殺気を放つ公爵様が立っていた。
「アンダーソン公爵様……?
ち、違いますわ。私は親友が私生児の妹から嫌がらせをされていると相談を受けたので、態度を改めるようにお話しさせて頂いただけです」
公爵様の姿をみたご令嬢は、先程の強気な姿勢から一変して慌て出す。
公爵様はいつも無表情で何を考えているのか分からなかったけど、怒るとこんなにも恐ろしい人なのね。
「お前の声は大きいから全部聞こえていた。
ベント伯爵令嬢が何も言い返してこないからと、随分と好き勝手なことを言ってくれたな。
彼女は行儀見習いで我が公爵家で預からせてもらっている。今日、彼女をここに連れてきたのも私だ。
お前が彼女に言ったことは、彼女を預かる私への批判にもなる。オフリー子爵には私から正式に抗議させてもらう。
不愉快だ。この場からすぐに立ち去れ!」
「……っ!」
顔を赤くしたご令嬢は、バタバタと走って行ってしまった。
「……大丈夫か?」
さっきまでご令嬢を睨みつけていた公爵様が、不安のこもった目で私を見つめていた。
「はい……。申し訳ありませんでした」
「そろそろ茶会が終わる頃だと思って王妃殿下の所に向おうとしたら、さっきの女の甲高い声が聞こえたんだ。
王宮にはあんな女が沢山来ているから、一人で行動するのはやめた方がいい。真面目な君のことだから、私に迎えに来てもらうのは悪いと思って行動したのだろう?」
公爵様からは一人でフラフラしていたことを怒られると思ったが、怒っているというよりは心配してくれているような口調だった。
「……本当に申し訳ありませんでした」
「君は悪くないから謝る必要はない。
ただ……、君の泣きそうな顔や悲しそうな顔を見せられるのは……」
「みっともないですわね。私生児でも一応は貴族。感情を顔に出してしまっては、他者につけ入る隙を与えてしまうのですから。今後は気をつけます」
義母や姉に虐げられてきた私は、貴族と関わることが苦手だった。さっきのご令嬢のように強く言われるとどうしたらいいか分からなくなってしまう。
やはり、私は貴族でいるのは合わないのね。おじさんやおばさん、エドガーの家に帰りたい……
「みっともないなんて思ってない。
私は君が悲しんでいる顔を見るのが辛いと思っただけだ。
無理をしなくていい。もっと周りを頼っていいんだ。実家の伯爵家との関係が悪くても、私や王妃殿下がついている」
「……え?」
「とにかく、君は我が公爵家で預かっているんだ。
嫌がらせをされたり、困ったことがあれば何でも私に話してくれ。
私に言いにくいなら、家令のセバスチャンやメイド長でもいい。二人なら信頼出来る」
「は、はい。ありがとうございます」
無愛想で無表情で、何を考えているのか分からない人だと思っていたけど、本当は優しい人なのかしら?
この日から私と公爵様との距離が縮まった気がした。
「ご機嫌よう。私達は初対面かと思いますが、どこかでお会いしましたか?」
「……そうね。私達が話をするのは初めてよ。貴女がデビュタントで陛下とダンスを踊っていたのを見させてもらったわ」
その視線や口調から、ご令嬢が私を嫌っていることが伝わる。
「私はエステルの親友とでも言えば分かるかしらね。貴族の私が卑しい私生児なんかに名前は教えないわ。
貴女のことは彼女からよく聞いていたのよ。愛人の娘の分際で図々しくて困るってね」
姉の友人なのね……
姉がいない場所であっても、私は姉の友人に虐められる運命のようだ。
「ねぇ……、エステルは貴女の嫌がらせで体調を崩したって本当?
ちょっと綺麗で優秀だからと、身の程も弁えないで伯爵様や夫人に上手く取り入って、エステルの居場所を奪ったんですってね?
さすが愛人の子供だけあって人の物を奪うのが得意なのね」
「……っ」
そんな考えで行動したことはなかったのに、見る人が見たらそんな風に見えていたの?
自分なりに立場を弁えていたつもりだったのに。
ショックを受けた私は何も言い返せなかった。
「あらぁ、泣きそうな顔をしてみっともないわね。
何も言い返せないところを見ると、本当のことのようね。
それで、何で貴女が王宮内をフラフラしているのかしら?
ここは貴女みたいな卑しい私生児が来る場所じゃないわ。空気が汚れるから早く帰ってちょうだい!」
姉の友人が怖くて何も言い返せないでいると、後ろから怒りを含んだ低い声が聞こえてくる。
「おい! 彼女は王妃殿下から招待されてここに来ている。
王妃殿下の大切なゲストを子爵令嬢ごときが侮辱するつもりか?
オフリー子爵令嬢がベント伯爵令嬢に早く帰れと暴言を吐いていたと、私から王妃殿下に報告させてもらう」
ビクビクしながら振り返ると、そこには殺気を放つ公爵様が立っていた。
「アンダーソン公爵様……?
ち、違いますわ。私は親友が私生児の妹から嫌がらせをされていると相談を受けたので、態度を改めるようにお話しさせて頂いただけです」
公爵様の姿をみたご令嬢は、先程の強気な姿勢から一変して慌て出す。
公爵様はいつも無表情で何を考えているのか分からなかったけど、怒るとこんなにも恐ろしい人なのね。
「お前の声は大きいから全部聞こえていた。
ベント伯爵令嬢が何も言い返してこないからと、随分と好き勝手なことを言ってくれたな。
彼女は行儀見習いで我が公爵家で預からせてもらっている。今日、彼女をここに連れてきたのも私だ。
お前が彼女に言ったことは、彼女を預かる私への批判にもなる。オフリー子爵には私から正式に抗議させてもらう。
不愉快だ。この場からすぐに立ち去れ!」
「……っ!」
顔を赤くしたご令嬢は、バタバタと走って行ってしまった。
「……大丈夫か?」
さっきまでご令嬢を睨みつけていた公爵様が、不安のこもった目で私を見つめていた。
「はい……。申し訳ありませんでした」
「そろそろ茶会が終わる頃だと思って王妃殿下の所に向おうとしたら、さっきの女の甲高い声が聞こえたんだ。
王宮にはあんな女が沢山来ているから、一人で行動するのはやめた方がいい。真面目な君のことだから、私に迎えに来てもらうのは悪いと思って行動したのだろう?」
公爵様からは一人でフラフラしていたことを怒られると思ったが、怒っているというよりは心配してくれているような口調だった。
「……本当に申し訳ありませんでした」
「君は悪くないから謝る必要はない。
ただ……、君の泣きそうな顔や悲しそうな顔を見せられるのは……」
「みっともないですわね。私生児でも一応は貴族。感情を顔に出してしまっては、他者につけ入る隙を与えてしまうのですから。今後は気をつけます」
義母や姉に虐げられてきた私は、貴族と関わることが苦手だった。さっきのご令嬢のように強く言われるとどうしたらいいか分からなくなってしまう。
やはり、私は貴族でいるのは合わないのね。おじさんやおばさん、エドガーの家に帰りたい……
「みっともないなんて思ってない。
私は君が悲しんでいる顔を見るのが辛いと思っただけだ。
無理をしなくていい。もっと周りを頼っていいんだ。実家の伯爵家との関係が悪くても、私や王妃殿下がついている」
「……え?」
「とにかく、君は我が公爵家で預かっているんだ。
嫌がらせをされたり、困ったことがあれば何でも私に話してくれ。
私に言いにくいなら、家令のセバスチャンやメイド長でもいい。二人なら信頼出来る」
「は、はい。ありがとうございます」
無愛想で無表情で、何を考えているのか分からない人だと思っていたけど、本当は優しい人なのかしら?
この日から私と公爵様との距離が縮まった気がした。
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