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記憶が戻る前の話
10 スイーツ
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王宮では王妃殿下が明るく迎えて下さり、その時になってやっとホッとした。
「アリシア、よく来てくれたわね。ずっと会いたいと思っていたのよ。
アンダーソン公爵がアリシアをここまで送ってくれたのね。行儀見習いの受け入れもありがとう。感謝するわ」
「王妃殿下、ご機嫌よう。
本日はお招きにあずかり光栄でございます」
私が王妃殿下に挨拶を済ませた後、公爵様も挨拶をすると思っていたが……
「王妃殿下、ベント伯爵令嬢は王宮に慣れておりませんので、帰りは私がここまで迎えに来ます。茶会が終わったら、私の所まで使いをよこして下さい」
はい? 帰りもここまで公爵様が迎えに来るですって? ここに来る時、一緒に歩いていただけでも色々な人にジロジロ見られて嫌だったのに。
それよりも、いくら公爵という身分であっても王妃殿下にその態度は許されるのかしら?
しかし、王妃殿下の反応は意外なものだった。
「えぇー! アンダーソン公爵はどうしちゃったの? 別人のようになっているわよ」
「私は至って普通です」
二人のやり取りを絶句して見つめていると、王妃殿下はそんな私に気付いて微笑んでくれた。
「アリシア、驚かせてごめんなさいね。
公爵とは昔からの知り合いで付き合いが長いのよ。
珍しく令嬢に優しくしているからビックリしてしまったの」
「そうでしたか……」
その後、公爵様が仕事があるからとその場を離れられ、私と王妃殿下の二人きりのお茶会が始まった。
「アリシアは甘いものは苦手?
ケーキやクッキーよりサンドイッチやスコーンの方が好きなのかしら?」
テーブルには沢山のスイーツが並べられているのに、私がサンドイッチやスコーンしか食べない様子を王妃殿下にはしっかりと見られていたようだ。
「はい。王妃殿下はご存知だと思いますが、私は王都に来る前は平民と同じ生活をしていました。大変お恥ずかしいのですが、甘い物に慣れていないので、スイーツよりサンドイッチの方が安心して食べれるのです」
砂糖は高級品なので、平民の生活をしていた時に甘い物には全く縁がなかった。そのこともあり、食べ慣れていないスイーツをあまり好きにはなれなかったのだが……
「食の好みまで彼女と一緒だなんて……」
「王妃殿下?」
「あっ、ごめんなさいね。
恥ずかしいことではないわ。貴女が平民と同じ生活をしてきたとしても、貴族の令嬢として必要なことを短期間で身に付けてここにいるの。それは素晴らしいことよ。
次にお茶会をする時は色々なサンドイッチを用意して待っているわ。
他にもアリシアの好きな食べ物を教えてくれたら嬉しいわね」
私に優しく接してくれ、好きな食べ物まで聞いてくれた人は、王都では王妃殿下が初めてだったのでとても嬉しく感じてしまう。
伯爵家で私生児だとか平民だとか蔑まれていたけど、王妃殿下はこんな私を優しさのこもった目で見つめてくれるから、身分の差はあっても一緒にいるのが心地良い。
その後、公爵家の仕事の話などを沢山した後、今日のお茶会はお開きになった。
「アンダーソン公爵にお茶会が終わったことを伝えてきてくれるかしら?」
王妃殿下は従者の一人に声を掛けているが、仕事中の公爵様にここまで来てもらうのは申し訳なかった。
「王妃殿下、忙しい公爵様にそこまでしていただくのは大変恐縮してしまいます。私が直接、公爵様の所まで伺いますので行き方を教えていただけませんか?」
「公爵が迎えに来ると言っていたから気にしないで待ってなさい。
それに王宮内はとても広いわ。慣れないと迷いやすいわよ」
王妃殿下は何も気にしていないようだが、私はこれ以上、公爵様に迷惑を掛けたくなかった。
そのことを粘り強く話した結果、自分で公爵様のいる執務室まで行くことを許してもらえた。
お茶会の部屋を出た後、王妃殿下に教えていただいた順路を進む。広い王宮内は気を抜くと迷いそうだ。
その途中、通路の外に花が咲き乱れる中庭のような場所が見えた。
初めて来た場所なのに、何で懐かしい気持ちになるのかしら?
足を止めて美しい花々を眺めていると、突然声を掛けられる。
「ベント伯爵令嬢、ご機嫌よう」
そこには派手に着飾ったご令嬢が立っていた。
「アリシア、よく来てくれたわね。ずっと会いたいと思っていたのよ。
アンダーソン公爵がアリシアをここまで送ってくれたのね。行儀見習いの受け入れもありがとう。感謝するわ」
「王妃殿下、ご機嫌よう。
本日はお招きにあずかり光栄でございます」
私が王妃殿下に挨拶を済ませた後、公爵様も挨拶をすると思っていたが……
「王妃殿下、ベント伯爵令嬢は王宮に慣れておりませんので、帰りは私がここまで迎えに来ます。茶会が終わったら、私の所まで使いをよこして下さい」
はい? 帰りもここまで公爵様が迎えに来るですって? ここに来る時、一緒に歩いていただけでも色々な人にジロジロ見られて嫌だったのに。
それよりも、いくら公爵という身分であっても王妃殿下にその態度は許されるのかしら?
しかし、王妃殿下の反応は意外なものだった。
「えぇー! アンダーソン公爵はどうしちゃったの? 別人のようになっているわよ」
「私は至って普通です」
二人のやり取りを絶句して見つめていると、王妃殿下はそんな私に気付いて微笑んでくれた。
「アリシア、驚かせてごめんなさいね。
公爵とは昔からの知り合いで付き合いが長いのよ。
珍しく令嬢に優しくしているからビックリしてしまったの」
「そうでしたか……」
その後、公爵様が仕事があるからとその場を離れられ、私と王妃殿下の二人きりのお茶会が始まった。
「アリシアは甘いものは苦手?
ケーキやクッキーよりサンドイッチやスコーンの方が好きなのかしら?」
テーブルには沢山のスイーツが並べられているのに、私がサンドイッチやスコーンしか食べない様子を王妃殿下にはしっかりと見られていたようだ。
「はい。王妃殿下はご存知だと思いますが、私は王都に来る前は平民と同じ生活をしていました。大変お恥ずかしいのですが、甘い物に慣れていないので、スイーツよりサンドイッチの方が安心して食べれるのです」
砂糖は高級品なので、平民の生活をしていた時に甘い物には全く縁がなかった。そのこともあり、食べ慣れていないスイーツをあまり好きにはなれなかったのだが……
「食の好みまで彼女と一緒だなんて……」
「王妃殿下?」
「あっ、ごめんなさいね。
恥ずかしいことではないわ。貴女が平民と同じ生活をしてきたとしても、貴族の令嬢として必要なことを短期間で身に付けてここにいるの。それは素晴らしいことよ。
次にお茶会をする時は色々なサンドイッチを用意して待っているわ。
他にもアリシアの好きな食べ物を教えてくれたら嬉しいわね」
私に優しく接してくれ、好きな食べ物まで聞いてくれた人は、王都では王妃殿下が初めてだったのでとても嬉しく感じてしまう。
伯爵家で私生児だとか平民だとか蔑まれていたけど、王妃殿下はこんな私を優しさのこもった目で見つめてくれるから、身分の差はあっても一緒にいるのが心地良い。
その後、公爵家の仕事の話などを沢山した後、今日のお茶会はお開きになった。
「アンダーソン公爵にお茶会が終わったことを伝えてきてくれるかしら?」
王妃殿下は従者の一人に声を掛けているが、仕事中の公爵様にここまで来てもらうのは申し訳なかった。
「王妃殿下、忙しい公爵様にそこまでしていただくのは大変恐縮してしまいます。私が直接、公爵様の所まで伺いますので行き方を教えていただけませんか?」
「公爵が迎えに来ると言っていたから気にしないで待ってなさい。
それに王宮内はとても広いわ。慣れないと迷いやすいわよ」
王妃殿下は何も気にしていないようだが、私はこれ以上、公爵様に迷惑を掛けたくなかった。
そのことを粘り強く話した結果、自分で公爵様のいる執務室まで行くことを許してもらえた。
お茶会の部屋を出た後、王妃殿下に教えていただいた順路を進む。広い王宮内は気を抜くと迷いそうだ。
その途中、通路の外に花が咲き乱れる中庭のような場所が見えた。
初めて来た場所なのに、何で懐かしい気持ちになるのかしら?
足を止めて美しい花々を眺めていると、突然声を掛けられる。
「ベント伯爵令嬢、ご機嫌よう」
そこには派手に着飾ったご令嬢が立っていた。
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