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記憶が戻る前の話
01 プロローグ
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「……奥様?」
「奥様が目覚められたわ! 急いで公爵様をお呼びして」
長い悪夢を見ていたかのような気分で目覚めると、慌てるメイド達の声が聞こえてきた。
私は生きていたのね……
「奥様、良かったですわ。今、公爵様がいらっしゃいますから、少しお待ち下さいませ」
メイドから声を掛けられてすぐ、まだボーっとする私の所に目の覚めるような美丈夫が駆けつける。
「アリー! 良かった。本当に……良かった。
君が目覚めなかったらどうしようかと思っていた。
私を一人にしないでくれ。君がいない人生なんて私には考えられないんだ。
愛してる……。生きていてくれてありがとう」
褐色の髪にグレーの瞳を持つ美丈夫が、力の入らない私の手を握り締めながら目を潤ませている。この男は今世の私の夫だ。
夫は家族から冷遇されて生きていた私を愛してくれた人。そして私も夫を純粋に愛していた。
でも、前世の記憶が戻った私は……
「ひっ……!」
私は夫に触られるのが嫌で、無意識に手を振り払っていた。
「アリー、どうしたんだ? そんなに震えて……
階段から突き落とされた時の恐怖がまだ残っているのかもしれないな。あの女は公爵夫人の命を狙った罪人として王宮の地下牢に捕らえてあるから大丈夫だ。
はっ! もしかして、頭を強く打って記憶が混乱しているか?
すぐに侍医を呼んでくれ!」
「畏まりました」
血の気が引いた表情で言葉を失っている私を、夫やメイド達は憐れむような目で見ている。
以前の私達は誰が見ても仲の良い夫婦だった。
夫と年の差はあったが、整いすぎて美しい夫は若く見えたし、私をお姫様のように扱ってくれる夫は理想の王子様のようで大好きだった。
夫を愛していたはずの私が怯えるような態度をとったら、誰だって頭を強く打っておかしくなったと思うだろう。
ちょうどいいわ。この状況を利用して夫とは離縁してもらおうかしら?
だって私は、姉に階段から突き落とされたことがきっかけで、侯爵令嬢だった前世の記憶を思い出してしまったのだから。
前世の私には大嫌いな婚約者がいた。あの男は私という婚約者がありながら、学園で出会った男爵令嬢にあっさりと心を奪われて私を裏切った。
その男はルーファス・アンダーソン公爵令息。
今、私の目の前にいるこの夫だ。
「奥様が目覚められたわ! 急いで公爵様をお呼びして」
長い悪夢を見ていたかのような気分で目覚めると、慌てるメイド達の声が聞こえてきた。
私は生きていたのね……
「奥様、良かったですわ。今、公爵様がいらっしゃいますから、少しお待ち下さいませ」
メイドから声を掛けられてすぐ、まだボーっとする私の所に目の覚めるような美丈夫が駆けつける。
「アリー! 良かった。本当に……良かった。
君が目覚めなかったらどうしようかと思っていた。
私を一人にしないでくれ。君がいない人生なんて私には考えられないんだ。
愛してる……。生きていてくれてありがとう」
褐色の髪にグレーの瞳を持つ美丈夫が、力の入らない私の手を握り締めながら目を潤ませている。この男は今世の私の夫だ。
夫は家族から冷遇されて生きていた私を愛してくれた人。そして私も夫を純粋に愛していた。
でも、前世の記憶が戻った私は……
「ひっ……!」
私は夫に触られるのが嫌で、無意識に手を振り払っていた。
「アリー、どうしたんだ? そんなに震えて……
階段から突き落とされた時の恐怖がまだ残っているのかもしれないな。あの女は公爵夫人の命を狙った罪人として王宮の地下牢に捕らえてあるから大丈夫だ。
はっ! もしかして、頭を強く打って記憶が混乱しているか?
すぐに侍医を呼んでくれ!」
「畏まりました」
血の気が引いた表情で言葉を失っている私を、夫やメイド達は憐れむような目で見ている。
以前の私達は誰が見ても仲の良い夫婦だった。
夫と年の差はあったが、整いすぎて美しい夫は若く見えたし、私をお姫様のように扱ってくれる夫は理想の王子様のようで大好きだった。
夫を愛していたはずの私が怯えるような態度をとったら、誰だって頭を強く打っておかしくなったと思うだろう。
ちょうどいいわ。この状況を利用して夫とは離縁してもらおうかしら?
だって私は、姉に階段から突き落とされたことがきっかけで、侯爵令嬢だった前世の記憶を思い出してしまったのだから。
前世の私には大嫌いな婚約者がいた。あの男は私という婚約者がありながら、学園で出会った男爵令嬢にあっさりと心を奪われて私を裏切った。
その男はルーファス・アンダーソン公爵令息。
今、私の目の前にいるこの夫だ。
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