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記憶が戻る前の話
02 前世の記憶
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『アリス、お前には幼い頃からの婚約者としての情はある。公爵家に嫁ぐ者として努力していたことは知っているからな。だからお前とは時期がきたら結婚はする。
だが……、私は真実の愛を見つけてしまった。正妻の立場はお前にくれてやるが、私の愛は永遠にオーロラだけのものだ』
ゴミ屑でも見るような視線を私に向け、残酷な言葉を口にするのは、仲の良かった時期もあったはずの私の婚約者だ。
ここは貴族の子女だけが通う貴族学園。今日は昼までの授業の日。急いで帰ろうと思っていた矢先、急に呼び出された私はこんな話をされている。
婚約者としての情ですって……?
憎悪しか感じない目で私を見つめておきながら、この男は何を言っているの?
『……っ!』
私は拳を強く握り締め、唇をギュッと閉じることしか出来なかった。
『穏やかな淑女の仮面を被ったお前が、裏でオーロラを虐めていることなど知っている。
嫉妬に狂った女の何と見苦しいことか!』
ブチッ! その時、私の中で何かが切れた……
『はあ? 確かに私は淑女の仮面を被って本性は隠していたけど、あんな裏表のある尻軽女と関わりたくないから虐めなんてしないわ!
あの女と顔を合わせたくないから避けまくって生活していたのに、いつ虐めるのよ?
貴方のことも昔はそれなりに好きだったけど、今は大嫌いだから嫉妬で狂うことだけは絶対にないわ。
貴方と結婚したくないから今すぐ婚約破棄してもいいわね。オーロラさんと不貞した貴方の有責で!』
躾に厳しい母に育てられた私は、激しい本性を隠して淑女の仮面を被って生きてきた。このカスのような婚約者に何を言われてもひたすら耐えた。
でも、もう我慢の限界……
お母様、ごめんなさい。こんなカスに言われっぱなしでいるのはもう無理です。
私が言い返してくると思っていなかったようで、カスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
ふふっ……。石像のような完璧な顔って言われていたアンタのそんな表情が見れるなんて、ちょっとだけスッキリ!
だけど相手は腐ってもカスでも高貴な身分の公爵令息。黙っているはずがなかった。
『ふん! やっと本性を出したか。
私とお前の結婚は、うちの公爵家とお前の侯爵家の事業に関わるもので私達だけの問題ではない。
幸いなことに、最愛のオーロラはそれを理解して第二夫人で我慢すると言ってくれている。
優しいオーロラに感謝すべきだな』
こっ、この男……、公爵家の面倒な執務を私に押しつけて、あの悪女オーロラは第二夫人として愛玩用にでもするつもりね。
そんなの絶対に許さない!!
『貴方と結婚するくらいなら死んだ方がマシよ!
……はっ! そろそろ時間だわ。
今後はくだらない話をするためにいちいち話しかけてこないでね。気分が悪くなるから顔も見せないで。
では、永遠にサヨナラ!』
これだけ生意気なことを言えば、今後この男が私に絡んでくることはないだろう。腹を立てて婚約破棄してくれたらいいのに。
唖然とする婚約者を置いて、私は急ぎで自分の家の馬車に向かっていた。
淑女たる者、いつでもどこでも微笑みを絶やさず、落ち着いて行動しなくてはいけないが、さっきのカスのつまらない話のせいで時間がなくなってしまった。今は淑女でいるのはお休みして、馬車までダッシュよー!
今日は私の最推しの舞台俳優、ロミオの姿絵が発売される大切な日。なんと先着100名にロミオから直接サインを貰えるのだ。
13時に発売開始だからギリギリ間に合うはず。念のため、私のメイド達には先に並んでもらっている。
しかし馬車に乗り込んで数分後、道が混んでいるのか馬車はなかなか前に進まない。
『お嬢様、道が混んでいて店まで時間がかかってしまいそうです』
御者からの言葉に私は迷わなかった。
『ここで馬車を降りて走って行くわ!』
仲の良かった婚約者が心変わりして落ち込んだ時もあった。悪女オーロラが面倒な絡みをしてきて、イラッとした時もあった。でも、私は負けなかった。それはロミオという心の支えがあったから。
どんなに辛いことがあっても、観劇のロミオを見るだけで元気になれた。寂しい時、ロミオのことを考えるだけで心が満たされた。
ロミオは私の全てよ! 今日は絶対に会ってお礼を直接伝えたいの。
馬車から降りた私は必死に走り続ける。今日はドレスではなく、学園の制服で走りやすいから助かった。
頑張れ私! ロミオが待ってるわー!
『ハァ、ハァ……、やっと着いたわ』
店の前にはロミオのファンらしき女性で混み合っていて、馬車の走る道のギリギリの所まで人でいっぱいだ。
みんな私と一緒でロミオが大好きなのね。さすが私の最推しだわ。まだ若手なのに沢山の女の子を魅了して、なんて罪なお方なの……
ところで私のメイド達はどこだろう?
メイドを探すためにキョロキョロしていた私は、ドンっと誰かにぶつかって道の方に飛び出てしまう。
『……痛っ! 今、誰かに突き飛ばされた?』
誰かに背後から押された気がしたが、人が多すぎてよく分からなかった。
『危ない!』
誰かの声にハッとした時には遅かった。私の目の前には大きな馬車が……
その後の記憶はない。私は馬車に轢かれて死んだのだと思う。
最推しのロミオに会うためにあんなに頑張って走ったのに。
これは私が階段から落ちて意識を失っている間に思い出した前世の最後の記憶だ。
私は死んた後、すぐアリシアに生まれ変わったのだろう。前世で17歳で亡くなり、そのまま生まれ変わって今は18歳。
前世の私を裏切り、一方的に嫌ってぞんざいに扱った憎きあの男は今は35歳だ。あの頃とは別人のような笑顔を見せて口調や態度も柔らかくなっているが、間違いなく同一人物だ。
そういえば、あの男の愛した悪女オーロラはどこにいるんだろう? 私と結婚する時、あの男は初婚だって話していたけど……
この記憶を思い出してしまった以上は、今までのような夫婦でいることは出来ない。
このままではいられないわ。何とかしないと……
だが……、私は真実の愛を見つけてしまった。正妻の立場はお前にくれてやるが、私の愛は永遠にオーロラだけのものだ』
ゴミ屑でも見るような視線を私に向け、残酷な言葉を口にするのは、仲の良かった時期もあったはずの私の婚約者だ。
ここは貴族の子女だけが通う貴族学園。今日は昼までの授業の日。急いで帰ろうと思っていた矢先、急に呼び出された私はこんな話をされている。
婚約者としての情ですって……?
憎悪しか感じない目で私を見つめておきながら、この男は何を言っているの?
『……っ!』
私は拳を強く握り締め、唇をギュッと閉じることしか出来なかった。
『穏やかな淑女の仮面を被ったお前が、裏でオーロラを虐めていることなど知っている。
嫉妬に狂った女の何と見苦しいことか!』
ブチッ! その時、私の中で何かが切れた……
『はあ? 確かに私は淑女の仮面を被って本性は隠していたけど、あんな裏表のある尻軽女と関わりたくないから虐めなんてしないわ!
あの女と顔を合わせたくないから避けまくって生活していたのに、いつ虐めるのよ?
貴方のことも昔はそれなりに好きだったけど、今は大嫌いだから嫉妬で狂うことだけは絶対にないわ。
貴方と結婚したくないから今すぐ婚約破棄してもいいわね。オーロラさんと不貞した貴方の有責で!』
躾に厳しい母に育てられた私は、激しい本性を隠して淑女の仮面を被って生きてきた。このカスのような婚約者に何を言われてもひたすら耐えた。
でも、もう我慢の限界……
お母様、ごめんなさい。こんなカスに言われっぱなしでいるのはもう無理です。
私が言い返してくると思っていなかったようで、カスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
ふふっ……。石像のような完璧な顔って言われていたアンタのそんな表情が見れるなんて、ちょっとだけスッキリ!
だけど相手は腐ってもカスでも高貴な身分の公爵令息。黙っているはずがなかった。
『ふん! やっと本性を出したか。
私とお前の結婚は、うちの公爵家とお前の侯爵家の事業に関わるもので私達だけの問題ではない。
幸いなことに、最愛のオーロラはそれを理解して第二夫人で我慢すると言ってくれている。
優しいオーロラに感謝すべきだな』
こっ、この男……、公爵家の面倒な執務を私に押しつけて、あの悪女オーロラは第二夫人として愛玩用にでもするつもりね。
そんなの絶対に許さない!!
『貴方と結婚するくらいなら死んだ方がマシよ!
……はっ! そろそろ時間だわ。
今後はくだらない話をするためにいちいち話しかけてこないでね。気分が悪くなるから顔も見せないで。
では、永遠にサヨナラ!』
これだけ生意気なことを言えば、今後この男が私に絡んでくることはないだろう。腹を立てて婚約破棄してくれたらいいのに。
唖然とする婚約者を置いて、私は急ぎで自分の家の馬車に向かっていた。
淑女たる者、いつでもどこでも微笑みを絶やさず、落ち着いて行動しなくてはいけないが、さっきのカスのつまらない話のせいで時間がなくなってしまった。今は淑女でいるのはお休みして、馬車までダッシュよー!
今日は私の最推しの舞台俳優、ロミオの姿絵が発売される大切な日。なんと先着100名にロミオから直接サインを貰えるのだ。
13時に発売開始だからギリギリ間に合うはず。念のため、私のメイド達には先に並んでもらっている。
しかし馬車に乗り込んで数分後、道が混んでいるのか馬車はなかなか前に進まない。
『お嬢様、道が混んでいて店まで時間がかかってしまいそうです』
御者からの言葉に私は迷わなかった。
『ここで馬車を降りて走って行くわ!』
仲の良かった婚約者が心変わりして落ち込んだ時もあった。悪女オーロラが面倒な絡みをしてきて、イラッとした時もあった。でも、私は負けなかった。それはロミオという心の支えがあったから。
どんなに辛いことがあっても、観劇のロミオを見るだけで元気になれた。寂しい時、ロミオのことを考えるだけで心が満たされた。
ロミオは私の全てよ! 今日は絶対に会ってお礼を直接伝えたいの。
馬車から降りた私は必死に走り続ける。今日はドレスではなく、学園の制服で走りやすいから助かった。
頑張れ私! ロミオが待ってるわー!
『ハァ、ハァ……、やっと着いたわ』
店の前にはロミオのファンらしき女性で混み合っていて、馬車の走る道のギリギリの所まで人でいっぱいだ。
みんな私と一緒でロミオが大好きなのね。さすが私の最推しだわ。まだ若手なのに沢山の女の子を魅了して、なんて罪なお方なの……
ところで私のメイド達はどこだろう?
メイドを探すためにキョロキョロしていた私は、ドンっと誰かにぶつかって道の方に飛び出てしまう。
『……痛っ! 今、誰かに突き飛ばされた?』
誰かに背後から押された気がしたが、人が多すぎてよく分からなかった。
『危ない!』
誰かの声にハッとした時には遅かった。私の目の前には大きな馬車が……
その後の記憶はない。私は馬車に轢かれて死んだのだと思う。
最推しのロミオに会うためにあんなに頑張って走ったのに。
これは私が階段から落ちて意識を失っている間に思い出した前世の最後の記憶だ。
私は死んた後、すぐアリシアに生まれ変わったのだろう。前世で17歳で亡くなり、そのまま生まれ変わって今は18歳。
前世の私を裏切り、一方的に嫌ってぞんざいに扱った憎きあの男は今は35歳だ。あの頃とは別人のような笑顔を見せて口調や態度も柔らかくなっているが、間違いなく同一人物だ。
そういえば、あの男の愛した悪女オーロラはどこにいるんだろう? 私と結婚する時、あの男は初婚だって話していたけど……
この記憶を思い出してしまった以上は、今までのような夫婦でいることは出来ない。
このままではいられないわ。何とかしないと……
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