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1巻
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しおりを挟むプロローグ さよなら、私の王女殿下
いつかこんな日が来るだろうと、自分なりに心の準備をしていたつもりだった。
それなのに、こんなに寂しい気持ちになるなんて……
「王女殿下……、どうかお元気で。殿下と過ごした日々は……、……私にとっての宝物です。殿下の幸せを願っておりますわ」
「お姉ちゃんは一緒に来られないの? 私、お母さんに会えるのは嬉しいけど、お姉ちゃんと離れたくないの! お姉ちゃんが大好きだから、一緒に来てほしいわ」
私の可愛いお姫様は、こんな時でも嬉しいことを言ってくれる。
でも、私はこの子の幸せのために心を鬼にする。この子には王女殿下として素晴らしい人生が待っているのだから、私みたいな何の力もない平民が側にいてはいけない。だから、私はこの子の旅立ちを笑顔で見送るの。
――ところで、こんな日のために言葉遣いを練習させてきたのに、さっきの言葉遣いは絶対にダメ!
「王女殿下、お姫様ごっこですわよ。言葉遣いや食べ方のマナー、カーテシーはお姫様ごっこを思い出してくださいませ。お母さんではなく、お母様とお呼びするのです」
まだ五歳くらいの可愛いお姫様は、言葉遣いを注意されて、あっ……っという表情をする。
「はい。気を付けますわ」
「王女殿下なら大丈夫ですわ。頑張りましょうね」
「はい。お姉様!」
よし! 遊びでお姫様ごっこをしたことはええと……、私達のやり取りを不思議そうな目で見ている迎えの近衛騎士にアレを渡さないと。この中で一番偉そうなキラキラ金髪のイケメン騎士に渡しておこうかしら。
「騎士様。この日記帳には、赤子だった王女殿下を保護した日から、今日までの成長の記録を書いております。これを王妃殿下にお渡し願えますか?」
近衛騎士はこんな物を渡されるとは思っていなかったようで、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに和やかな表情になった。
「畏まりました。必ず王妃殿下にお渡しいたします。それでは……、そろそろ出発してよろしいでしょうか?」
これで本当にお別れなのね……
「……っ。は、はい。どうかお気を付けて」
私が泣いたら王女殿下を不安にさせてしまう。だから泣かないと決めていたのに、涙が勝手に流れていた。
「………」
泣く私を見た王女殿下は無言になってしまい、そのまま馬車に乗せられていってしまった。
寂しいけれど、これで良かったのよ……
私が十五歳の時、空き家の前に置き去りにされていた王女殿下を見つけて保護してから必死に育ててきた。子育てには休みがないから大変だったが、とても楽しかった。
捨て子にしては容姿が気高く美しいし、高そうな服を着ておくるみには名前が刺繍してあったから、貴族のワケありの子供なのかもしれないと思っていた。
いつか本当の家族が引き取りに来るかもしれないと考え、捨て子だからと馬鹿にされないようにしっかりと育ててきたつもりだった。
マナーや言葉遣いを学ばせるために、お姫様ごっこの遊びを通していろいろ教えてきたけど、まさかこの国の王女殿下だったなんて。
幸せになってほしいな……
私はずっと忙しかったから、しばらくはのんびりしよう。
家の中が静かすぎるけど、すぐに慣れるよね。
窓からは、旅立つ王女殿下を祝福するかのような綺麗な青空が見える。
そういえば、私が王女殿下と出会った日も青空の綺麗な天気のいい日だった。
第一章 私と王女殿下の出会い
私、エリーゼ・ステールは魔法が存在し、身分制度がある国で、お金持ちの伯爵令嬢として生まれた。
両親は一人娘の私より、金と権力にしか興味がない人達だった。政略結婚の駒に使う目的のために、私の教育と外見を磨くことに関してだけは惜しみなくお金をかけてくれる。
一流の家庭教師達による勉学にマナーやダンス、刺繍などの淑女教育を小さな頃から厳しく指導されながら育つ。全ては私をいいところに嫁がせるためだけに。
この国では爵位を継ぐのは男性のみと決まっており、両親は私が嫁いだ後に親戚から自分達の言いなりになってくれそうな、従順な性格の養子を迎えるつもりだったらしい。
私を駒としか見ていなかった父が、口癖のように言っていた言葉がある。
「エリーゼ。お前は母親に似て容姿は美しいが、魔力が弱いから駄目だ。だからこそ、それ以外のことはほかの令嬢に負けないよう、しっかりやるように!」
この世界では、貴族は魔力の強さを望まれる。それなのに私は魔力が弱く、大した魔法が使えなかった。
政略結婚では魔力が強ければそれだけで有利になり、平民でも貴族の養子に求められるくらい重宝されていた。
しかし、私はまだ魔力を覚醒しきれておらず、とても魔力が弱かった。魔力の覚醒には個人差があり、天才と言われる人は幼い頃から能力を認められていたのだ。
魔法の才能はなかったものの、私は幸いなことに美しいと評判の母親にそっくりな容姿をしていた。
ピンクブロンドのふんわりとした髪は高価な人形のようだと言われ、緑色のぱっちりした目が特徴的で、幼い頃から美人だと褒められた。
私の母は、いつもパーティーや買い物に出掛けており、ほとんど邸にはいなかった。
時々顔を合わせても、娘である私には声すら掛けてくれずに存在を無視されていた。母は子育てには全く興味のない人だったのだ。
それでも私には優しい乳母がいてくれた。両親が私に興味がなくても、乳母が愛情を与えてくれたから、私は人の心を持てたのだと思っている。
私が十二歳の時、父の事業が大失敗し、伯爵家が没落してしまう。
没落して貧乏になったため、使用人達も全員辞めることになり、私が大好きだった乳母のステラも邸を出ていくことになってしまった。
「お嬢様。許されるならば、私はお嬢様を一緒に連れていきたかった。この先、旦那様と奥様と三人で生活されるでしょうが、もしもの時は逃げるのです。以前、街にお連れした際、私がお教えしたことを思い出して行動するのですよ。私はお嬢様の幸せをずっと願っておりますわ」
ステラはいざという時のためだと言って両親に内緒で数枚の金貨を私にくれると、涙を流しながら出ていった。
親代わりだったステラとの別れはとても悲しく、私は涙が止まらなかった。
「エリーゼ、いつまで泣いているんだ? 私達の方が辛いのに、金食い虫のお前がいつまでも泣くな!」
父は没落した苛立ちを私にぶつけてきた。
さらには母までも……
「エリーゼ、泣いてないで早く荷物をまとめなさい。使用人がいないのだから、代わりに貴女が働くのよ。今まで私達に世話になってきたのだから、貴女が働いて恩返しするの。……わかった?」
「……っく。……うっ。ぐすん……」
「泣いてないで早くやりなさい!」
バシッ! その瞬間、頬に衝撃を感じた。泣く私に母が手をあげたのだ。
「うっ……。痛い……」
しかし、殴られてすぐにありえないほどの頭痛が襲ってきて、私はその場にしゃがみ込んだ。
「エリーゼ、少し頬を叩かれたからって大袈裟よ!」
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私は急いで地味なワンピースに着替え、お忍びで出かける時に愛用していたフード付きのケープを羽織った。小さなバッグに、ステラがくれた金貨と母が見向きもしないような小さな宝石や小銭、最低限の着替えなどを詰めて邸から飛び出した。
家を出た私は、以前ステラが教えてくれた、乗り合い馬車の乗り場に向かって走った。
『お嬢様。うちの使用人達は里帰りの際、あそこから馬車に乗って帰っているのですよ』
ステラは社会勉強だと言って、時間のある時に街中に連れていってくれた。折りに触れ平民の暮らしやお金の使い方、街中で注意すべきことなどを教えてくれていたのだ。
無事に馬車乗り場に着いた私は、ちょうど出発するという馬車に運良く乗せてもらえる。
行き先を決めていなかった私は、今いる場所から遠ければどこでもいいと考えていた。
私の乗った馬車に、先に乗っていたのはおばさん一人だけだった。
「アンタ、訳ありだね?」
頬を腫らし、逃げるように馬車に乗ってきたから訳ありに見えたらしい。
「はい。詳しくは言えませんが……」
「遠くに逃げたいなら、降りた先でまた違う馬車に乗り換えた方がいいかもしれないね」
確かに、あの毒親二人は私が居なくなったのを知ったら捜すかもしれない。私を売り飛ばすつもりでいるから、むしろ必死になって捜すだろう。
「次の町からも乗り合い馬車が出ているから、そこで乗り換えな。御者には口止め料を渡した方がいいかもしれないね。気を付けて行くんだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
次の町で降りる時に御者のおじさんにこっそり小さな宝石を渡すと、おじさんは何かを悟ったようだ。
「もうすぐ別の乗り合い馬車が来るからここで待つといい。田舎に行くとアンタの容姿は目立つから、人が多い都会の方がいいな。そうだ! 港町に行くといい。あそこなら人も多いし仕事も見つけやすいだろう。ワシは何も見てないことにするから大丈夫だ」
宝石を渡されて嬉しかったのか、おじさんはいろいろ教えてくれた。
「おじさん、ありがとう!」
「気を付けてな」
その後、次の乗り合い馬車に乗り換えて港町を目指していると言ったら、また違う町での乗り換えを教えてもらえた。
それから乗り換えを繰り返し、暗くなる頃には無事に港町に着くことができた。
◇ ◇ ◇
「リーゼ、買い物を頼めるかい?」
「女将さん、何を買ってきますか?」
「八百屋に行って、ニンジンとジャガイモを買ってきておくれ」
「はい。行ってきます!」
無事に港町に着いた私は、その日泊まった宿屋の人から知り合いの宿屋を紹介してもらい、運良く働く場所を見つけることができた。
前世で専業主婦だった私にとって、宿屋の仕事は普通に楽しかった。
五十代くらいの親切な女将さんと旦那さんが二人で経営する宿屋は、昼は食堂もやっていてアットホームな感じでとても居心地がよかった。
今の私は、ここでリーゼと名乗って生活をしている。
「リーゼ、火をつけてもらってもいいかい?」
「はい!」
魔力の弱さを引け目に感じて生きてきた私だが、平民の人達は魔力を持たない人ばかりで、かまどや暖炉に魔法で火をつけただけでも女将さんや旦那さんはとても喜んでくれた。
「リーゼ、お湯を頼めるかい?」
「はい!」
でも、気のせいかな? 前よりも魔法の発動が簡単になったというか、使える魔法が増えたような……
水魔法は水を少し出すくらいしかできなかったのに、今は大量の水やお湯を出せるようになったし、火の魔法はマッチの火くらいの大きさしか出せなかったのに、今ではバーナーよりも強い火が出せるから、火おこしが楽になったと女将さんが感謝してくれた。
女将さんも旦那さんも喜んでくれているからいいやと、私は深く考えずにいたのだが……
「リーゼの魔力は結構すごいと思うんだ。もしかしたら、ほかにもいろいろできるかもしれないぞ。今度の休みの日に教会に連れていくから、神官に見てもらおう!」
私の魔法を見ていた旦那さんが急にそんなことを言い出す。魔力は教会や神殿にいる神官が診断するので、旦那さんは一度見てもらった方がいいと考えたようだ。
「私は今のままで満足していますから必要ないですよ」
貴族でいる以上は魔力を気にするが、平民であればそこまで重要とされなかったので、私は自分自身のことであってもあまり興味が持てなかった。
「自分の特技を知らないと損をするぞ。ちゃんと見てもらった方がいい」
「リーゼ、私もその方がいいと思うよ。たまには休みの日に三人で教会に出掛けるのもいいだろう?」
旦那さんと女将さんの様子から、私のためを思って言ってくれているのがよく伝わる。あの毒親二人とは大違いだと思ってしまった。
「二人がそこまで言ってくれるなら教会に行こうと思います。よろしくお願いします」
早速、私達は次の休みに教会にやって来た。そして私だけが別室に呼ばれ、神官に魔力を見てもらえることになったのだが……
「では、この水晶に手を当ててください。……ふむ。……えっ?」
神官が目を見開いて、驚いた表情をしている。
「あの、何か?」
「お嬢さんは、貴族の養女に望まれるくらいに強い魔力をお持ちのようです。水晶のお告げでは火と水が使えるとあるのですが……」
大当たりー! 心の中で神官に拍手をする。私は元貴族令嬢でした。
それよりも、私は毒親が呆れるくらい魔力が弱かったはずなのに、知らないうちに魔力が強くなっていたようだ。
「はい。火と水は使えましたので間違いはありません」
すると、神官は気まずそうに口を開く。
「お嬢さん、実はそのほかにもありまして。私は初めて聞いたのですが……」
「えっ! ほかにも使える魔法があるのですか?」
「ええ。水晶のお告げでは〝カジ〟と」
……カジ? そんな魔法は聞いたことがなかった。
「カジって何ですか?」
「私も初めて聞くのでよくわかりません。珍しい魔法だと植物を育てたりや雷、治癒などがあったのですが、カジは初めて聞きました。鍛冶屋で名剣でも作れる魔法でしょうかね?」
本気で困った表情をしている神官。嘘を言っているようには見えなかった。
しかし、私は魔力が強くなっていたと知れて満足していた。
いまさら、鍛冶屋にジョブチェンジする気にはならないし、一応私は女の子なのだから、あんな力が必要そうな仕事は絶対にできない。
「普通に生活するには火と水が使えるだけで満足しているので、特に気にしません。ありがとうございました」
「また何かあれば来てください」
ずっと待っていてくれた旦那さんと女将さんに、魔力が強くなっていたと報告すると、自分のことのように喜んでくれた。
その後、三人で美味しいランチを食べてその日は帰ってきた。
〝カジ〟なんて魔法は、興味がなかったこともあってすぐに忘れてしまった。
しばらくして仕事に慣れた私は店の看板娘になっていた。
この土地は港町なので、いろいろな国の人がやって来る。外国の珍しい食材も売っていて、なかなか面白い町だった。
この国の平民は茶系の髪色が多く、私の鮮やかなピンクブロンドは目立つのではないかと少し不安だった。しかし、外国から来た人がたくさんいるこの国際色豊かな町では全然目立たなかったから安心した。
平民の生活を楽しんでいた私は、気が付くと十五歳になっていた。
十五歳になると体つきは女性らしくなり、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ体形になっていた。
これは毒母からの遺伝だ。あの母の性格は腐ったように最悪だったが、見た目だけは無駄に良かった。家にほとんどいなかったから、外に恋人でもいたのかもしれない。毒父も愛人がいると使用人達が噂をしていた。
いまさらだけど本当に酷い家族だった。今の生活はなんて幸せなんだろう。
そんな平民の生活を楽しんでいた私に、大きな変化が訪れた。
天気の良いその日、私はいつものように食堂の仕事をしていた。
「リーゼ。お客様さんが引いてきたから、店はもういいよ。このお弁当を届け終わったら、そのまま帰っていいからね」
「はい。お先に失礼します」
この店は、徒歩の距離に住む常連さんにお弁当を届けるサービスもしている。
お弁当を届け終わった後、そのまま帰ると言っても、私が住んでいるのは宿屋のすぐ裏にある女将さん達の家の二階で、帰るというよりは部屋に戻るという感じだ。
お弁当を届け終わった私が、青空の下を気持ち良く歩いていると赤ちゃんの泣く声が聞こえてきた。
ふふっ。ギャン泣きしてる。ママは大変だよね。そろそろお昼寝の時間かな?
前世で平凡に子育てをした経験がある私は、遠い昔のことを思い出して歩いていたのだが……
んっ? あれって赤ちゃん?
裏道沿いにある空き家の前に、おくるみに包まれた赤ちゃんが置かれている。
この家は空き家のはず……。誰がこんなところに?
私が唖然としている間も赤ちゃんは泣き続けている。
呼吸困難になりそうなほど泣く赤ちゃんを見てしまったら、放ってはおけなかった。
しょうがない。とりあえず抱っこしてあげようか。
抱っこをすると、赤ちゃんは不思議そうに私を見て泣きやむ。
ジーッ……。赤ちゃんは、ウルウルした綺麗な青い目で私を見つめてくる。
綺麗なのは目だけではない。キラキラの金髪、すべすべの白い肌に柔らかそうなほっぺ、桃色の小さな唇……
この子は間違いなくベビーモデルになれる!
「えぇー、この赤ちゃん可愛い。天使だわ!」
可愛い子に弱い私は、思わず声を上げた。
でも、誰がこんなところに? 周りをキョロキョロ見回すが誰もいない。
空き家の近くに住む人に声を掛けて聞いてみるが、わからないし困ると言われてしまった。
「お姉さん、その子は孤児院に連れていくしかないね」
「わかりました。とりあえず孤児院に預けてきますので、もし家族が捜しに来たら孤児院に預けたと伝えてください」
「もしそういう人が来たら伝えておくよ」
私は赤ちゃんを抱っこして、孤児院まで歩き出した。
赤ちゃんは泣きやんだ後、静かに抱っこされている。その姿がまた可愛かった。
「ふふっ。抱っこが好きなのねー。早くママが来てくれるといいねー」
赤ちゃんの可愛らしさに癒されるが、久しぶりの抱っこは腕が疲れる。
小さな赤ちゃんの抱っこは、初めの数分は平気だけど、ずっと続けるのはなかなかキツいのだ。
そんな中、歩き続けること約十五分。やっと孤児院が見えてきた。孤児院の入り口らしき場所から声を掛けると、怖そうなおばちゃんが出てくる。
「あの……この赤ちゃん、空き家の入り口に置き去りにされていましたので、孤児院で保護してもらえませんか?」
私がおそるおそる話をすると、おばちゃんは露骨に嫌そうな顔をした。私の顔と赤ちゃんの顔を鋭い目つきで見比べている。
なんか……、すっごく感じ悪くない?
「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないから連れてきたんだろう? 若いから育てられないなんて言わずに責任を持ちな!」
「……はい?」
孤児院の職員とは思えない言動に驚き、私は固まってしまった。
「アンタ、貴族の愛人だったんだろ? 子供ができて捨てられたからって、生まれた子供を簡単に手放すなんてことするんじゃないよ! お貴族様に引き取ってもらえないか頼んでみな! ここは満員で無理だからね!」
おばちゃんは一方的に話をした後、勢いよく扉を閉めてしまった。
「……」
おばちゃんの態度が酷すぎて、私は絶句した。
孤児院が赤ちゃんの引き取りを拒否した……? その現実を理解した瞬間、たとえようのない怒りが込み上げてきた。
何なのよ? あのババア、ムカつくー!
確かに私は人より体の発育が良くて年上に見られるけど、まだ十五歳だ!
誰が貴族の愛人だって? 純粋な乙女心を傷付けたな!
あんなに酷い職員のいる孤児院なんかに赤ちゃんを預けられない。
この子は私が育ててやるわ!
これが後にこの国の王女殿下だと判明する可愛いお姫様との出会いだった。
孤児院の職員にムカついた私は、怒りと悲しみが混ざったようなやるせない気持ちになりながら、女将さんと旦那さんのところに戻ってきた。
ちょうど店はランチの営業を終えて、女将さんはテーブル拭きをしていたのだが……
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