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想定外のプレゼント

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 夕食時に機嫌の悪い義兄に絡まれて困っていると、低い声が聞こえてきた。

「……オスカー、いい加減にしろ」

 それはお義父様の声だった。怒りを含んだ冷たい声は、たった一言なのに本気で恐ろしく感じた。
 これが公爵であるお義父様のマジギレする姿なのね……

「エリーゼはもう食事は終わったのだな?
 部屋に戻っていいぞ」

 ラッキー! お義父様は私に助け船を出してくれたようだ。

「はい。失礼します」

 お義父様から退出の許可が出た私は、すぐに部屋に戻ってサッと湯浴みをし、部屋を真っ暗にして寝ることにした。
 あの偏屈が文句を言いに部屋を訪ねてくる可能性があるから、眠るのが一番だと思ったからだ。
 もし来ても寝ていることにして無視してやる!

 しかし、その日はお茶会に出席するための準備を朝早くからしたことや、王妃殿下とお茶をして神経をすり減らしたこともあり、本気で疲れていた私は、おやすみ三秒でぐっすり眠ってしまった。

 翌日、目覚めた私はメイドから声を掛けられる。

「お嬢様。しばらくの間、朝食は部屋でお召し上がりになるようにと奥様から言付けを承っております。
 本日は公爵様と奥様は食事会に参加するために外出されますので、昼食もこちらに運ばせて頂きます」

「分かったわ。ありがとう」

 お義母様の気遣いに感謝だわ!
 あの偏屈のご機嫌を伺いながら食べる食事より、ぼっち飯の方が美味しいもの。
 休日に一人で食べる食事は美味しくて、私は朝からサラダや紅茶をお代わりしてしまった。

 しかし朝食を食べ終わった後、その人物はやってくる……
 ティーナ宛にお茶会のお礼の手紙を書いていると、扉がノックされてハッとする。
 気分よく過ごしていたからあの存在を忘れていたけど、もしかして義兄が来た? 居留守はバレるから出来ないよね……
 恐る恐る返事をした後に部屋に入って来たのは、予想通りに義兄だった。この偏屈は何の文句を言いに来たのかしら?

「エリーゼ……。実は昨夜、私は父上と母上から咎められた」

 はいはい、それに対しての恨み辛みをわざわざ言いに来たのね。
 また面倒なことを言われるのだろうと思っていた私は、その後に拍子抜けすることになる。

「父上と母上から、私はエリーゼに対して過干渉になっていると言われた。
 家族だから心配するのは理解出来るが、私は口を出し過ぎるから良くないと。
 これ以上こんなことが続くようならエリーゼを別邸に引っ越しさせるか、母上の実家のキングスリー公爵家に預かってもらうつもりでいるらしい」

 義両親はそこまで言ってくれたんだー!
 ただ、別邸で一人暮らしは大歓迎だけどキングスリー公爵家には行きたくないな。

「更に、私の存在がエリーゼの縁談を邪魔しているとまで言われた。
 このままでは私はエリーゼに嫌われるだろうと……」

「……」

 あの二人はなかなか厳しいことを言ったのね。偏屈が苦し気な表情を浮かべているわ。

「私は決してそんなつもりでいたわけではない。それは分かってくれ」

「ええ……、それは分かっておりますわ」

 だって貴方は偏屈ですから。悪気があって行動しているのではなくて、ただ変わっているだけなのよ。

「……怒ってないのか?」

「そこまで怒ってはいないです」

 怒るというより、めんどくさいと思っている……

「エリーゼ。私はただ……、お前が大切だから守りたいと思っただけなんだ。その結果、口煩く接してしまって……、すまなかった」

 ひっ! あの偏屈が謝ってきた……
 いつもはしかめ面しか見せないのに、悲痛な表情をして、マジで謝っているわ。

「……いえ。大丈夫ですわ。ただ、あまり煩く言われると……、私も少し傷付くこともありますし、ちょっとだけ萎縮してしまうので程々にして下さいね。
 でも、お義兄様がいつも守ってくれているのは分かっておりましたわ。ありがとうございます」

「エリーゼは私のことを理解してくれるんだな。
 ありがとう……」

 ひぇー! あの偏屈が微笑んだわ!

「あ……、私こそありがとうございます?」

 初めて見た偏屈の笑った顔が想像以上だったので、私は動揺してしまった。

 その後、なぜかご機嫌になった偏屈からお出かけに誘われ、特に予定のなかった私は誘いを受けることにした。
 偏屈は私が好きな平民街に連れて行ってくれた。
 二人で歩いているとある店に目が留まる。その店は小さな食堂だったはずだが、外観が港町にある私の家によく似ていたから覚えていた。あの頃にティーナと二人で住んでいた赤い屋根の家……
 しかし、その店はやめてしまったのか空き店舗のようになっている。

「エリーゼ、どうしたんだ?」

「このお店は、私が港町で住んでいた家によく似ていたので覚えていたのですが、やめてしまったのでしょうか?
 私は高級なレストランよりも、この店のように可愛い雰囲気のお店の方が好きだったので何だか残念ですわ」
 
「……欲しいか?」

「はい?」

「エリーゼは何も欲しがらないし、私からプレゼントをしたことがなかったから買ってやる」

「いいえ。そこまでする必要はありませんわ!」

 義兄は私のことを無視して、少し離れて護衛していた騎士の一人を呼び、何かを耳打ちしている。

「お義兄様。私は何か美味しい物を買ってくださればそれで十分ですから……
 あっ、あのクレープが食べたいですわ!」

「分かった。買ってやる」

 クレープを買ってもらうことで誤魔化したつもりでいたが、その日から三日後、笑顔の義兄から店の権利書を渡されることになる。
 自分で小さな食堂をやりたかった私は、気付いた時にはその権利書を受け取っていた……


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