異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

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怖い人

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 怒りを滲ませる義兄から王弟殿下をどう思うのかと聞かれ、私は返答に困っていた。
 でも、そこまで怒らなくてもよくない……?
 私だって、今日は何も知らずに嵌められた側なのに。
 義兄に内緒で食事に行ってしまったから、除け者にされたと思って怒っているのかな?
 でも、それはないかー。仲間はずれとか気にする性格じゃないし、義兄はお義父様やお義母様とは別行動をする一匹狼のようなタイプだもの。

「……エリーゼ、なぜ黙る? 答えられないのか?」

 ひぃー、そんなに責めないで。マジで怖いから!

「お、お義兄様……、正直にお話しますが、私は王弟殿下のことは好きでも嫌いでもありません。王女殿下の叔父様だという認識でずっと見てました。
 でも私が攫われた時に一生懸命探して下さったので、そのことには感謝しておりますし、腹黒っぽいけど根はいい人なのかなーって思っています」

 私は必死になって答えたのに、義兄の眉間のシワがさらに深くなる。
 はあ? 何でそんなに怒るのよ!

「エリーゼのそのハッキリしない態度がダメなんだ!
 王弟殿下に付け入る隙を与えているぞ」

 なぜ私がここまでお説教をされなければいけないのか……

「……」

「エリーゼ、聞いているのか?」

「私だって……、今日は何も知らされていませんでした。
 突然、王弟殿下がやって来て、義両親は出かけるから私がお茶に付き合うように言われ、昼にレストランに来るようにとも言われて、殿下の目の前で嫌だなんて言えませんし……。
 私だけを責めないで下さい」

 あ、つい言い返しちゃった……
 これで義兄との関係にヒビが入るかもしれない。
 偏屈の扱いは難しいからね。

「ハァー……、そうだな。これはエリーゼだけを責めて解決することではない。悪かった……」

 へっ? 今、偏屈は謝ってきたの?

「エリーゼは結婚したいと思っているのか?」

「いい人がいればいつかは結婚したいと思っています。ただ王弟殿下は身分が高すぎるので、今までそういう相手として見てこなかったのです。
 殿下は腹黒かもしれませんが、令嬢方の憧れですからね。そんな人と仲良くなると碌なことはないですから。実際にマクファーデン公爵令嬢には目の敵にされて大変な思いをしましたし。
 私の理想は人並みの生活をさせてくれて、私を大切にしてくれる人です。平凡が一番ですよ! 無駄にキラキラした人でなくていいのです」

「……そういう漠然とした理想を聞いているわけではない」

 じゃあ何を聞いているのか? ……と思っていると、義兄の従者が気まずそうに夕食の声掛けに来てくれる。

「……エリーゼ。食事らしいから行くぞ」

 この義兄は夕食の席でも遠慮なく義両親にキレそうだ。
 最悪の雰囲気になるのは分かっているから部屋で一人で食べたいけど、怒りの義兄はダイニングまでエスコートしてくれるらしく、私を待っているようだった。
 義兄と二人でダイニングに行くと、お義父様とお義母様が待っていてくれた。

「あら、二人一緒なのね。……リーゼ、どうしたの? 疲れた顔をしているわよ」

 貴方たちの息子に説教されて疲れましたと言いたかったけど、私が口を開く前に隣にいた義兄が爆弾を投下する。

「エリーゼは、やりたくもない茶会や食事会に付き合わされて疲れたようです。
 レストランが混む時間にわざとらしく二人を店に呼びつけ、人目につくように食事会をするなんて……。エリーゼと王弟殿下が親公認の仲だと見せつけたかったのでしょうか?」

 私が今日のことを義兄にチクったって思われちゃうよ! この偏屈はストレートに言うんだから。

「あら! オスカーは今日のことを知っていたの?」

「王宮で噂になっていましたよ。二人でレストランに来たとか、家族で食事会をしていたとか……
 殿下はどうやって父上と母上を懐柔したのでしょうね? 何かいい取り引きでも持ちかけてきたのでしょうか? 次期当主として気になるところです」

 容赦ないわ……
 しかし義両親はそんな義兄に全く怯まない。

「今日は王弟殿下が偶然時間があったらしく、王女殿下の手紙を届けに来て下さったんだ。しかし、私達はレストランで従業員たちと打ち合わせがあったから、暇なエリーゼに対応をしてもらうことにした。
 わざわざ殿下が来て下さっているのだから、お茶くらい出すのが礼儀だろう」

 お義父様は表情を変えずに凄い言い訳をするのね。
 それにしても、私が暇だって強調しないで欲しいわよ。

「なるほど……。それで暇なエリーゼと偶然時間のあった王弟殿下をランチに誘ったのですか?
 随分、都合のいい話ですね」

「少し前に王弟殿下から言われていたのよ。
 国王陛下と王妃殿下がうちのレストランにお忍びで来たがっているから、二人が行く前に王弟殿下が下見を兼ねて食事に来たいって。
 殿下が今日は時間があるみたいだから、急だけど食事にお誘いしたの。
 国王陛下と王妃殿下が来て下さったら、レストランにとって最高の宣伝になるでしょ!」

 急に食事にお誘いしていたようには見えなかったけど……
 しかし腹黒は、国王陛下と王妃殿下の名前を出してうちの義両親をランチに誘ったってことかしら?
 レストランの混む時間帯に二人で行けば、色々な人に見られて噂になるのは分かりきっているのに。
 もしかして、わざと噂になるような行動を取っているの? 外堀を埋めるために……?

 ひぇー! 義兄の言う通りだわ。やはり腹黒は策略家?

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