異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

文字の大きさ
上 下
97 / 106
連載

しおりを挟む
 王弟殿下とお茶をした後、義両親の待つレストランに二人で移動する。
 店に到着し、殿下にエスコートされて店内に入った瞬間……

「まあ!」

「……やはりそういうことだったのね」

「お似合いじゃないの」

「いつ正式に婚約するのかしら?」

 色々な所からヒソヒソと言っているのが聞こえてくる。
 今はちょうどランチの時間帯で、店にはたくさんのお客様がいる。そんな中、やたらキラキラした王弟殿下と二人でいれば、当然のように目立つし注目されてしまうのだ。
 私はこの視線が嫌なのに、王弟殿下は全く気にすることなく堂々としているから凄い。育ちの違いなのかな。
 その後、義両親と私達の四人でランチをして、その日は終わったと思ったのだが……
 その日の夜、あの男が黙っていなかった。

 夕食前に部屋のドアがノックされ、何も考えずに返事をすると、偏屈義兄が部屋に入ってきた。
 え……? 何で来るんだろう。

「お義兄様、お帰りなさいませ」

「エリーゼ……」

 私の名前を呼ぶ一言で気付いてしまった。
 義兄の声のトーンが低いし、いつもと同じ無表情なようだけど目が怒ってない? 怖いんだけど!

「お、お義兄様……、どうされましたか?」

「……何をしていた?」

「今は本を読んでおりましたが……」

「ハァー……。私は、今日の昼間にエリーゼはどこで何をしていたのかを聞いているんだ」

 最初からそう聞いてよね!
 あ……、腹黒とお茶をしてレストランで食事をしたことを言っていいのかな?
 でもこの義兄の感じを見ると、誰かに何かを聞いてすでに知っているのかも。
 嘘をついてもすぐにバレて怒られそうだし、すごく怖いから正直に話そう。

「実は今日、急に王弟殿下が邸に来られまして、お茶をご一緒した後にレストランでお義父様とお義母様、私と殿下の四人でランチをしました。
 その後に邸に帰って来て、王女殿下への手紙を書き、少しだけ昼寝をして読書をしていたら今の時間になりました」

「そうか。あの噂話は本当だったのだな」

「噂話ですか?」

「ああ。レストランにエリーゼと殿下が二人でやって来て、父上と母上と一緒に食事をしていたという噂だ。
 婚約が決まったから、家族で食事会をしていたのかと聞かれたぞ」

 早っ! あの時レストランにいた客がすぐに王宮の誰かに話して噂話になり、仕事をしていた義兄の耳に入ったってこと?
 ひぇー怖い! そして、目の前にいる偏屈義兄も怖い……

「……偶然みんなで食事をしただけですわ」

「エリーゼはそのつもりでも、周りはそうは思わないだろう。
 お前に気をつけろと言っても、今日みたいに王弟殿下に外堀を埋められた後では逃げられないからな。
 まさか殿下が父上と母上を上手く取り込むとは思っていなかった。しかも私に秘密にして、仕事でいない時を狙ってくるとは……」

 偏屈義兄も殿下が腹黒だということは分かっているようだ。
 それよりも、静かに怒る義兄も怖いんだけど。

「エリーゼ。お前はこのままいくと、王弟殿下に上手く外堀を埋められる。
 気が付いたら婚約させられて、そのまま逃げることが出来ずに結婚までいくことになる」

「……うっ」
 
 義兄は真顔で恐ろしいことを言う。でもこの人は正直な人だから、冗談ではなく本気でそう思っているんだろう。

「分かっているとは思うが、王弟殿下はただ見目が良いだけの男ではない。
 エリーゼのことになると余裕のない男のような振る舞いをするが、本来のあの方は策略家で頭が切れる方だ。
 騎士団の総帥を務めているのは、ただ王弟だからという理由ではない。
 そんな殿下が本気を出せば、エリーゼの気持ちとは関係なく簡単に縁談の話を進められ、後戻りが出来ない状態にもっていかれるだろうな……」

「でも、王弟殿下は私の気持ちを少しは配慮してくれるのかと思っていましたが……」

「強引に進めたら嫌われるかもしれないのだから、それは当然だ!
 だが、ジワジワと確実にあの方は進めていくだろうな。
 エリーゼ、お前は王弟殿下をどう思っているんだ? 今後、どうしたい?
 正直に話してみろ」

 急にそんなことを聞かれても……
 可愛いティーナの身内の一人として、当たり障りなく付き合っていただけなのに。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。