上 下
76 / 106
連載

開店

しおりを挟む
 商会長さんの力添えのおかげで、出店に向けての準備は整いつつある。

 この店は王宮近くの高級ホテルが立ち並ぶ一等地にある店なので、富裕層をターゲットにした高級サンドイッチを売り出すことに決めた。
 それでもホテルでランチを食べるよりはかなり安くなるし、義兄みたいにランチに時間をかけたくない人にはもってこいの店だと思う。

 店員さんは可愛い女の子とイケメンをスカウトして、メイドカフェや執事カフェをパクったような制服を着てもらったら……、もうそれだけでお腹いっぱい。
 きっと彼女たちは、お客様の目の保養になってくれるだろう。
 王宮で忙しく働くビジネスマンたちの癒しにもなってくれるはずよ。接客の指導もしっかり受けてもらったし……。ふふっ、今から楽しみだわ。

 公爵家の料理人達はパンの研究を重ね、しっとりふわふわのサンドイッチ用のパンを開発してくれた。
 その美味しいパンに、選りすぐりの食材を取り寄せて作った野菜たっぷりのサンドイッチを数種類と、クリームとフルーツを沢山挟んだフルーツサンドを売り出す。
 これらのサンドイッチは、お義母様が主催するお茶会で、味にうるさいマダムたちに試食してもらい、すでに合格をもらっている。

 店頭に飾るチョークアートの看板を描く若手の画家さんも見つかったし、サンドイッチを入れる袋や箱、紙ナプキンも商会長さんのツテでオシャレなデザインの物を用意できた。

 そして、あっという間にオープン当日を迎える。

 今日は私も店の手伝いとして、店員たちと一緒に店に出ることになっている。
 公爵令嬢である私が店に出るのは賛否両論あるとは思うが、貴族夫人が紅茶や香水などのお店を経営していて、オーナーとして店で接客をしている人もいると聞いたので、お義母様にそのことを話して特別に許可をもらった。
 お義父様は令嬢が毎日働くのはちょっと……といった反応をしたので、忙しい時のみということで許してもらえた。
 そしてあの人は……

「エリーゼ。私は店のオーナーがお前だということは分かっているが、あまり店に出て接客はして欲しくないと思っている。」

「お義兄様、忙しい時だけ許して欲しいのです。
 店が落ち着いたら、従業員に全て任せるようにしますから。」

「……ハァー。忙しい時だけだ。
 護衛は必ず二人以上連れていき、エリーゼが店にいる時も側に置くように! 分かったな?
 帰りは私が仕事終わりに迎えに行く。」

「護衛騎士は連れて行きますが、お迎えは大丈夫ですわ。お義兄様は忙しいですよね?」

「仕事は何とかなる。十七時に迎えに行くから待っているように。」

 言い出したら聞かない人である義兄は、いつものように私の返事を聞かずに行ってしまった。
 義兄の働く王宮から私の店まではかなり近いけど、迎えに来なくてもいいのになぁ。護衛騎士もいるから心配ないのに。
 
 お義母様と友人のマダムたちが、店のオープンを色々な社交場で宣伝してくれたおかげで、開店と同時にお客様がたくさん来てくれた。
 私も売り子の一人として、お客様の接客をしている。

「いらっしゃいませ。」

「えっと……沢山種類があって迷っているんだが……」

「本日のお勧めは、ローストビーフサンドになっております。
 自然豊かなカールトン伯爵領の赤身が多く栄養価が高い牛肉で作ったローストビーフのサンドイッチでございます。
 お肉が苦手でしたら、ゆで卵に当店特製のソースを絡めて味付けした卵サンドもお勧めですわ。」

「では、そのお勧めを一つずつ貰おうか。」

「ありがとうございます。少々お待ち下さいませ。」

 王宮勤めの文官や近衛騎士がたくさん買いに来てくれたので、サンドイッチは次から次へと売れていく。
 そして、来てくれたお客様の中には顔見知りもいたりする。

「クリフォード嬢、お久しぶりでございます。」

 忙しく接客していると、落ち着いた大人の男性の声で話しかけられる。
 ……この声は!

「まあ、メイナード卿。ご無沙汰しております。」

 王宮でティーナと生活していた時に私の護衛騎士をしてくれていた、あのメイナード卿だった。
 久しぶりに見たけど今日も素敵だわ!

「元気に戻られたとお聞きして、安堵しておりました。
 ご無事で何よりです。」

 推しのメイナード卿から、そんなことを言われたら嬉しくなっちゃう。

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
 奥様とお子様たちはお元気ですか?」

「ええ。家族はみんな元気にしております。」

 わー! 愛妻家らしく、家族の話は嬉しそうにするのね。本当に素敵だわ。

「あ……、忙しいところを話しかけてしまって申し訳ありませんでした。
 どのサンドイッチがお勧めですか?」

 私の推しで、お世話になったメイナード卿からお金なんてとれないわ!

「メイナード卿、少々お待ち下さい!」

 私はお勧めのサンドイッチを五種類ほど袋に入れてメイナード卿に渡した。
 
「良かったら、味見して下さいね。
 またお待ちしておりますわ。」

「……えっ? ……これは?」

 おばちゃんみたいに、強引にサンドイッチの入った紙袋を渡したから驚いているようだ。

「良かったら食べてください。」

「……こんなに? おいくらですか?」

「お世話になったので……
 皆さんで食べてくださいね。」

「……ありがとうございます。
 次はきちんと買わせて下さいね。」

「お待ちしておりますわ。」

 メイナード卿を久しぶりに見れたら、この後の仕事も頑張ろう!

 店はランチの時間帯にピークを迎えるだけかと思っていたけど、夕方にもお客さんが来てくれることが分かった。
 夜食を買いにくる近衛騎士や、残業になるからと文官が買いに来てくれたり、仕事終わりに来る独身男性らしき人もいる。
 それに、うちの可愛い従業員達はお客様の心を掴んだようだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ
恋愛
伯爵家の私生児として冷遇されて育ったアリシアは、行儀見習いがきっかけで年の差17歳の公爵と出会って結婚。 夫の公爵は家族からの愛を知らずに育ったアリシアを溺愛し、結婚生活は幸せだった。 ところが、幸せを僻んだ姉に階段から突き落とされ、頭を強く打ったことで前世の記憶を思い出してしまう。 前世のアリシアは、アリスという侯爵令嬢で家族から愛されていた。 しかし婚約者の公爵令息とは冷めきった関係で、婚約解消したいと望んでいたが、不慮の事故によりあっさり死んでしまう残念な人生だった。 意識を失っていたアリシアが目覚めると、そこには今世の最愛の夫がいた。 その顔を見たアリシアは…… 逃げ出したいアリシアと彼女を絶対に離さない公爵の話。 誤字脱字申し訳ありません。 ご都合主義です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。