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私の店

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 お義母様から店を出したいから相談に乗って欲しいと連絡を受けた商会長さんは、すぐに公爵家に来てくれて私とお義母様の話を聞いてくれた。

 王宮の近くにテイクアウト専門の店を出したいという私達の考えに、商会長さんは理解を示してくれる。
 しかしそこで問題になったのが、店を出す場所が空いていないことだった。王宮の周りの高級ホテルの立ち並ぶ一等地には、予想通りに空いている土地も店舗もなかった。
 そこで私は、ホテルの一階の一部を間借りできないかと提案してみた。この国でテナントの店は見たことも聞いたこともなかったけど、前世で見たテナント店を、さも自分が考えたかのように説明すると、商会長さんはすぐに動いてくれて、一階の道沿いのスペースを間借りさせてくれるホテルを見つけてきてくれたのだ。
 テナント店なんてこの国にはなかったものだから、名門の高級ホテルが受け入れてくれることは難しいと思っていたけれど、さすが我が国一番の商会を取り仕切る商会長さんだ。交渉上手なんだよね……

「商会長さん。高級ホテルとの交渉ありがとうございました。なかなか難しかったですよね?」

「リーゼ。そのホテルは名門で宿泊客は多いホテルなんだ。
 だが、一つだけ問題があった。」

「問題ですか?」

「ああ。いいホテルなんだがレストランのランチの利用客が他のホテルよりも少ない。
 だから新しいことをして、人の流れを作らないかと提案してみた。
 リーゼの店に来た客がホテルのレストランにも目を向けてくれて、違う日にレストランに来てくれるかもしれないだろう?」

「ハァー。凄いですね。商会長さんにお願いして良かったです。」

「これくらい気にするな。
 テイクアウトの店はあの辺にはなかったから、すぐに話題になるだろう。
 それより野菜や果物の仕入れだが、仕入れ先を一つに絞らなくていいのか?」

「はい。季節ごとに美味しく出荷できる土地は違ってくると思いますので、色々な所から仕入れをしてもらいたいと思っています。
 仕入れ先の領地には、一番美味しい旬の物が欲しいと伝えてもらえませんか?
 そのかわり店先には、今日の野菜や果物はどこの領地で採れたのかを看板に書いて表示したいと思っています。
 領地のいい宣伝にもなると思いますよ。」

「面白いな。うちの商会で野菜の産地に詳しい者に動いてもらおう。」

 この世界にも黒板はあるので、前世でよく見たチョークアートのような看板を店先に飾りたいと思っていた。
 勿論、絵のセンスがない私は描けないので……

「商会長さん。売れてない若い画家さんで、野菜や果物を描くのが得意な方がいたら、看板の絵を描いてもらいたいので紹介して欲しいです。」

「分かった。画廊を経営している友人に聞いてやるよ。」

「それと、店員が着る制服を作ってもらいたいのですが、デザイナーさんを呼んでもらえますか?」

「そういうのが得意そうなデザイナーを次に来る時に連れてくる。」

「ありがとうございます!」
 
 お義母様の言う通り、商売のプロである商会長さんに頼んで良かったなぁ。

 商会長さんとお義母様の助けもあって出店準備はとんとん拍子に進んでいく。
 

 ある日の休日。


「エリーゼ。最近、店の出店準備で忙しいと聞いているが、今日は時間はあるか?」

「お義兄様、今日は何の予定もありませんわ。」

「それなら少し出掛けてこよう。
 今日は平民街の方に行きたいと思っている。身軽な服装がいいだろう。」

「平民街ですか! 楽しみです。」

「そうか。では準備が出来たらすぐに出発しよう。」

「分かりました。」

 義兄が平民街に連れて行ってくれることになり、急いで準備することになる。
 公爵家に帰って来てからの私は、行く場所は貴族が利用するような所ばかりだったので、平民向けの店が沢山ある平民街に行ってみたいとずっと思っていた。
 このお誘いはとっても嬉しい!
 
 平民街に行く私にメイド達は、ドレスではなくロングのワンピースを着せてくれる。
 久しぶりにワンピースを着たけれど、こんなに楽なんだねー。ドレスと比べて軽くて締め付けがないから、ずっとこの服装でいたいと思ってしまった。
 義兄の方はシンプルなシャツにスラックスという服装だけど、服装が変わっても堅苦しい高貴な雰囲気は変わらなかった……

 平民街は賑わっていて、沢山の出店が出ている。

「友人から、平民街の出店を見て歩くのも楽しいと聞いたから来てみることにした。
 気になる店があるなら見てもいいし、食べたい物があるなら買ってやる。」

 最近の義兄は普通に優しい人になりつつある。これなら結婚相手が見つかるかもしれないし、いい旦那様になれそう。義妹として嬉しいんだけど!

「お義兄様、とても嬉しいですわ。ありがとうございます。」

「……あ、ああ。エリーゼ、人が多くて逸れたら大変だから手を引いてやる。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 偏屈がまともな人になってくれて本当に嬉しい。
 義兄に対して前は引き攣った笑顔しか出来なかったけど、今では普通の笑顔でお礼が言えちゃうよ。
 本当に慣れって恐ろしいよね。

 平民街では食べ歩きができて楽しかった。
 義兄は友人から、ここでしか食べれない物がたくさんあると聞いて連れてきてくれたらしい。
 サンドイッチの店のメニューを考えるのに、役に立ちそうだからと連れてきてくれたのだと思う。

 休みの日に義兄とばかり出掛けていたら、私達義理の兄妹は仲が良すぎると噂になってしまったようだ。


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