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美味しい店
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休日の朝はいつもより一時間ほど遅い時間に、家族揃って朝食を食べることになっている。
お義父様とお義母様は仲良く談笑しながら食事していて、仲良し夫婦の模範のような二人だと思う。
そんな二人に話を振られて会話に混ざる私と、その横で無言で食事をする義兄。
食事中、いつもは余計な会話を一切しない義兄が突然口を開く。
「エリーゼ、今日は何の予定もなかったはずだが?」
「……はい。今日は外出予定はありません。」
最近、社交シーズンが始まったので、私はお茶会などにいく機会が増えた。そのお茶会に義兄が付き添いで付いて来るようになり、私は少々息苦しさを感じていた。
義兄の親切心なのは分かっているのだが、わざわざ仕事を休んでまで来てくれるのは悪いので、一人で大丈夫だと言っても全く聞いてくれない。お義母様は言い出したら聞かない人だと言っていたが、本当にその通りだと思う。
そして義兄が私の社交に一緒に行くということは、私の予定をある程度は把握しているということ。だから私の今日の予定を確認しているらしい。
「では、今日のランチは私と外に出かけてこよう。
十二時に出発するから、準備をして待つように。」
あり得ないことを言い出した義兄に、お義父様とお義母様が絶句している。
「……え?」
「十二時だ。玄関ホールで待っててくれ。」
「……お義父様とお義母様も一緒ですよね?」
「父上たちは、夫婦二人の時間を過ごすから大丈夫だ。」
「あら、せっかくだから私達も一緒に行くわよ。」
「……そうだな。休日に家族で出かけるのもいいだろう。」
お義母様とお義父様は、私に助け船を出してくれたようだが……
「ハァー。父上と母上が一緒だと、静かに食事が出来ないではないですか。
今日は夫婦二人でお過ごし下さい。
エリーゼ、しっかり準備しておくように。」
それだけを言って、義兄はダイニングから出て行ってしまった。
静かに食事がしたいのなら、一人で行けばいいのに……
やっぱり義兄って偏屈だわ。
「……エリーゼ、やはり別邸を買ってやろう。」
「そうね。ここから近い所に良い物件がないか探してもらいましょう。
最近のオスカーは、エリーゼにべったりじゃないの! 仲良くするようにとは言ったけど、これではエリーゼが結婚出来なくなってしまうわ。」
お義父様とお義母様は凄いことを言っている。
生まれながらの金持ちは言うことが違うよね。
「これくらいのことで無駄遣いをしないで下さい。
そんなことをしたら、お義兄様に怒られてしまいますわ。私はそっちの方が恐ろしいです。
お義兄様なりに私と仲良くして下さっているので、ランチに付き合うくらいのことは大丈夫ですわ。」
「リーゼは大人ね。」
「ああ。さすがあのオスカーを手懐けるだけある。」
義両親は感心したような反応をしているが……
手懐けてないから!
揉めたくないから合わせているだけだからね!
そして私は、外出の準備をすることになる。
ただの義兄と出掛けるだけなのに、公爵家のメイド達は気合いを入れてヘアメイクをしてくれた。
こんな可愛いドレス着せなくていいのに……
義兄が連れて行ってくれたのは、王宮の近くにある高級ホテルの中にあるレストランだった。
馬車を降りた私をいつものようにエスコートしてくれる義兄。最近は、この人のエスコートにすっかり慣れてしまった。
しかし、本当に高そうな店だなぁ。他のお客様も金持ちそうだし、なんかチラチラ見られているような気がするし、私は浮いてないよね?
「エリーゼ、周りの視線など気にする必要はない。」
「……はい。」
私が周りの視線を気にしていたことがバレていたようだ。
よく見ているよね……
義兄が頼んでくれた料理は高級なだけあって美味しかった。
盛り付けは綺麗だし、肉や魚、野菜やフルーツは旬の良い物を使っているのがわかる。
「お義兄様、とても美味しいですわ。
連れて来て下さってありがとうございます。」
「……ああ。いつもエリーゼにはサンドイッチを作ってもらっているからな。
休みの日くらいは、エリーゼに美味しいものを食べさせてやりたいと思っただけだ。」
……それって、私が義兄にお弁当を作ってあげていることへのお礼なの?
だったら初めからそう言ってくれればいいのに。
義兄は黙っていれば美丈夫なんだから、〝いつもお弁当を作ってくれてありがとう。そのお礼に、今日はランチをご馳走するよ〟って笑顔で言えるようになれば、間違いなく結婚できるのに。
義兄は怖いから私からそんなことは言えないけど……
「……嬉しいですわ。ありがとうございます。」
今の私の立場では笑顔で『ありがとう』を言うだけで精一杯だわ。
その後、義兄は休日に予定の入ってない日はランチに連れて行ってくれるようになる。
初めは偏屈と二人きりでランチに行くのは乗り気ではなかった。楽しい会話が出来るわけでもないし、義妹をかまってないで婚活をして欲しかったし……
でも義兄は色々なお店連れて行ってくれるし、どのお店も一流だけあってとても美味しい。
気がつくと義兄と二人でランチに出掛けることは苦痛ではなくなっていた。
義兄は偏屈だけど、最近は嫌なことは言わないし、沈黙が続いても無理に会話をする必要はないし、厄介な人物が来ても義兄が撃退してくれる。これはこれで楽だと思う。
慣れって恐ろしい……
「お義兄様、今日のお店も素敵でとても美味しいお料理でしたわ。」
「それは良かった。今度エリーゼがサンドイッチの店を出すと聞いていたから、色々な店に連れて行くことで、何かいい刺激になればいいと思っていた。」
サラッと言っているけど、義兄って実は普通にいい人じゃないの!
お義父様とお義母様は仲良く談笑しながら食事していて、仲良し夫婦の模範のような二人だと思う。
そんな二人に話を振られて会話に混ざる私と、その横で無言で食事をする義兄。
食事中、いつもは余計な会話を一切しない義兄が突然口を開く。
「エリーゼ、今日は何の予定もなかったはずだが?」
「……はい。今日は外出予定はありません。」
最近、社交シーズンが始まったので、私はお茶会などにいく機会が増えた。そのお茶会に義兄が付き添いで付いて来るようになり、私は少々息苦しさを感じていた。
義兄の親切心なのは分かっているのだが、わざわざ仕事を休んでまで来てくれるのは悪いので、一人で大丈夫だと言っても全く聞いてくれない。お義母様は言い出したら聞かない人だと言っていたが、本当にその通りだと思う。
そして義兄が私の社交に一緒に行くということは、私の予定をある程度は把握しているということ。だから私の今日の予定を確認しているらしい。
「では、今日のランチは私と外に出かけてこよう。
十二時に出発するから、準備をして待つように。」
あり得ないことを言い出した義兄に、お義父様とお義母様が絶句している。
「……え?」
「十二時だ。玄関ホールで待っててくれ。」
「……お義父様とお義母様も一緒ですよね?」
「父上たちは、夫婦二人の時間を過ごすから大丈夫だ。」
「あら、せっかくだから私達も一緒に行くわよ。」
「……そうだな。休日に家族で出かけるのもいいだろう。」
お義母様とお義父様は、私に助け船を出してくれたようだが……
「ハァー。父上と母上が一緒だと、静かに食事が出来ないではないですか。
今日は夫婦二人でお過ごし下さい。
エリーゼ、しっかり準備しておくように。」
それだけを言って、義兄はダイニングから出て行ってしまった。
静かに食事がしたいのなら、一人で行けばいいのに……
やっぱり義兄って偏屈だわ。
「……エリーゼ、やはり別邸を買ってやろう。」
「そうね。ここから近い所に良い物件がないか探してもらいましょう。
最近のオスカーは、エリーゼにべったりじゃないの! 仲良くするようにとは言ったけど、これではエリーゼが結婚出来なくなってしまうわ。」
お義父様とお義母様は凄いことを言っている。
生まれながらの金持ちは言うことが違うよね。
「これくらいのことで無駄遣いをしないで下さい。
そんなことをしたら、お義兄様に怒られてしまいますわ。私はそっちの方が恐ろしいです。
お義兄様なりに私と仲良くして下さっているので、ランチに付き合うくらいのことは大丈夫ですわ。」
「リーゼは大人ね。」
「ああ。さすがあのオスカーを手懐けるだけある。」
義両親は感心したような反応をしているが……
手懐けてないから!
揉めたくないから合わせているだけだからね!
そして私は、外出の準備をすることになる。
ただの義兄と出掛けるだけなのに、公爵家のメイド達は気合いを入れてヘアメイクをしてくれた。
こんな可愛いドレス着せなくていいのに……
義兄が連れて行ってくれたのは、王宮の近くにある高級ホテルの中にあるレストランだった。
馬車を降りた私をいつものようにエスコートしてくれる義兄。最近は、この人のエスコートにすっかり慣れてしまった。
しかし、本当に高そうな店だなぁ。他のお客様も金持ちそうだし、なんかチラチラ見られているような気がするし、私は浮いてないよね?
「エリーゼ、周りの視線など気にする必要はない。」
「……はい。」
私が周りの視線を気にしていたことがバレていたようだ。
よく見ているよね……
義兄が頼んでくれた料理は高級なだけあって美味しかった。
盛り付けは綺麗だし、肉や魚、野菜やフルーツは旬の良い物を使っているのがわかる。
「お義兄様、とても美味しいですわ。
連れて来て下さってありがとうございます。」
「……ああ。いつもエリーゼにはサンドイッチを作ってもらっているからな。
休みの日くらいは、エリーゼに美味しいものを食べさせてやりたいと思っただけだ。」
……それって、私が義兄にお弁当を作ってあげていることへのお礼なの?
だったら初めからそう言ってくれればいいのに。
義兄は黙っていれば美丈夫なんだから、〝いつもお弁当を作ってくれてありがとう。そのお礼に、今日はランチをご馳走するよ〟って笑顔で言えるようになれば、間違いなく結婚できるのに。
義兄は怖いから私からそんなことは言えないけど……
「……嬉しいですわ。ありがとうございます。」
今の私の立場では笑顔で『ありがとう』を言うだけで精一杯だわ。
その後、義兄は休日に予定の入ってない日はランチに連れて行ってくれるようになる。
初めは偏屈と二人きりでランチに行くのは乗り気ではなかった。楽しい会話が出来るわけでもないし、義妹をかまってないで婚活をして欲しかったし……
でも義兄は色々なお店連れて行ってくれるし、どのお店も一流だけあってとても美味しい。
気がつくと義兄と二人でランチに出掛けることは苦痛ではなくなっていた。
義兄は偏屈だけど、最近は嫌なことは言わないし、沈黙が続いても無理に会話をする必要はないし、厄介な人物が来ても義兄が撃退してくれる。これはこれで楽だと思う。
慣れって恐ろしい……
「お義兄様、今日のお店も素敵でとても美味しいお料理でしたわ。」
「それは良かった。今度エリーゼがサンドイッチの店を出すと聞いていたから、色々な店に連れて行くことで、何かいい刺激になればいいと思っていた。」
サラッと言っているけど、義兄って実は普通にいい人じゃないの!
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