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閑話 王弟アルベルト

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 無事に船旅を終えた私達は、予定通りにグーム国に到着した。 
 グーム国の国王陛下にはすでに使者を送り、人探しの協力を依頼しているし、私の叔父が神官をしている神殿もある。兄から手紙を預かっていた私は、先にその神殿に寄ることにした。

 船を降りてすぐに神殿に向かうと、その日はちょうど神殿の祭りをしている日らしく、沢山の人で賑わっていた。
 出店も沢山並び、あちらこちらから良い匂いがしている。
 そんな時、ある声が聞こえてきた。

「コロッケはいかがですかー?」

「コロッケ、美味しいですよ!もうすぐ売り切れです。」

 〝コロッケ〟は、クリスティーナの話に出てきた食べ物じゃないか?
 気になった私は、その出店を見てみることにした。

「殿下。その店は孤児院の店のようです。
 買ってきましょうか?」

「私が直接買ってくる。」

 コロッケを食べてみたくなった私は、私とクリフォード卿と護衛の人数分のコロッケを購入することにした。
 外はサクサクで、中身は潰したジャガイモが入っているその料理は初めて食べたが、美味しくてあっという間に食べ終えてしまった。
 護衛たちも満足した顔をしている。長い船旅の後に美味しいものを食べると元気が出るようだ。
 そういえば、リーゼの作った食事を食べると元気になれたな……
 早く会いたい。

「コロッケは美味しかったですか?」

 まだ幼い少年が話しかけてくれた。孤児院の子供のようだ。

「ああ。とても美味しかった!
 作ってくれた料理人に美味かったと伝えてくれるか?」

 私達が美味しかったことを伝えると、少年は嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます!
 そのコロッケを作ったのは、料理人じゃなくて、リーゼ姉ちゃんだよ。
 リーゼ姉ちゃんは、魔法で料理を作れる凄い人なんだ。」

 ……今、リーゼ姉ちゃんと言ったのか?

「…………」

「……!」

「……リーゼ姉ちゃんという人物が作ったのか?
 魔法で料理を?」

 その場にいる全員が少年に凝視する。

「うん! リーゼ姉ちゃんは料理も洗濯も掃除も、魔法で出来ちゃうんだ。凄いんだぜ!
 綺麗で優しいから、カッコいい聖騎士の恋人もいて、よく孤児院にリーゼ姉ちゃんを迎えに来ているんだ。早くリーゼ姉ちゃんと結婚したいんだって!」

 この少年の話している人物はリーゼで間違いない。こんなに早くリーゼの手がかりを掴めるとは!
 カッコいい聖騎士の恋人がいると言っているのは気になるが、今すぐにリーゼに会いたい!

「そのコロッケを作ってくれた者に、美味しかったと礼が言いたい。
 今すぐその者の所に案内してくれないか?
 案内してくれるなら、お前に駄賃をやるし孤児院に寄付金を渡そう。」

 私が口を開く前に、クリフォード卿が少年にリーゼの所に案内してほしいと交渉している。
 こんな幼い少年にまで金をちらつかせ、断る選択肢を与えないクリフォード卿は相変わらず凄い男だ。

「えっ……、本当?」

「ああ。駄賃は今やろう。……これでいいか?
 お前の友達の分もあるぞ。」

 笑顔のクリフォード卿は、少年に金貨を握らせた……

「……分かった! こっちだよ。ついて来て!」

「殿下、行きましょう!」

「あ、ああ……」

 金貨を何枚も渡すなんて駄賃の金額ではない。
 護衛たちも、こんな幼い少年に金貨は高価すぎるだろうと思っているようで顔が引き攣っているが、私は見て見ぬふりをした。

 少年の後ろについて行くと、孤児院らしき建物が見えて来る。

「すぐにリーゼ姉ちゃんを呼んで来るから,ここで待っていて!」

「分かった。」

 孤児院の入り口で少年に待つように言われ、待つこと数分……

 子供たちに手を引かれた女性の姿が見える。
 美しいピンクブロンドの髪を一つにまとめ、パッチリした緑色の瞳の美女。あれは間違いなく……リーゼだ。
 しかしリーゼは私達を不思議そうに見ている。
 あれは初対面の人物に向ける表情だ。
 そして、声を掛けた私達に気まずそうにした後……

「あの……、失礼ですが……、どちら様でしょうか?」

「……っ! リーゼ、やはり私が分からないのか?」

 やはり、私達のことは忘れてしまっているようだった。
 リーゼを見つけられた嬉しさと、記憶喪失で私のことを覚えていないという失望感の混ざり合った複雑な気持ちになる。
 そんな中でもクリフォード卿は、冷静に自分はリーゼの家族であることと、リーゼは事件に巻き込まれたことなどを説明していた。

 その後にリーゼの今の暮らしについてなどを聞くと、ある神官が彼女の後見人になってくれていて、その神官の邸で生活をしていると言う。
 その神官の名前はベネディクト神官……
 私がこれから訪ねようとしていた実の叔父であり、リーゼの母の元婚約者である人物だ。
 リーゼはそのことを知っているのか?
 
 私達はリーゼの働く孤児院の院長に彼女の身分を説明して寄付金を渡した後、急ぎで叔父上の所に行くことにした。

 
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