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閑話 王弟アルベルト
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リーゼを探しにニューギ国に向かった私だったが、何の手かがりも掴めずに時間だけが過ぎていく。
ラリーア国に渡ろうとしても、革命による政情不安のため定期船が欠航していて身動きが取れず、結局は帰国する日を迎えてしまう。
鎮痛な思いで帰国した私は、リーゼの帰りを待つクリフォード公爵と夫人に頭を下げて謝罪することしか出来なかった。
彼女を見つけるどころか手掛かりすらつかめなかったと報告する私に、公爵と夫人は責めるどころか感謝していると声を掛けてくれた。これからは公爵家で捜索を続けていくので、殿下は大切な執務に戻って下さいと。
謝ることしか出来ない、自分の不甲斐なさに嫌気がさす。
そんな私の事情を知らないクリスティーナは、帰国した私を温かく迎えてくれたのだった。
「おじ様、お帰りなさい!
ずっと帰りを待っていたのよ。お姉様に会えないしおじ様もいないし、寂しかったの。」
クリスティーナの顔を見た私は、このままではいけないと痛感した。
リーゼは私にとって大切な人だが、可愛いクリスティーナにとってもかけがえのない人なのだ。まだ諦められない……
王家の事情に巻き込まれたリーゼを、絶対に見つける!
「クリスティーナ、ただいま!
良い子していたか? クリスティーナにお土産があるからな。」
「本当? 嬉しいわ!」
その後、留守にしていた間に溜まっていた執務をこなす忙しい日々を送りながら、ラリーア国を調べたり、ラリーア国の周辺諸国の調査をする日々を送っていた。すると、クリフォード公爵から驚くべきことを告げられる。
我が国一の大商会であるウォーカー商会の会長が、リーゼと親しくしていた港町の宿屋の女将から託された手紙を持って、突然公爵家に訪ねて来たらしいが……
「王弟殿下。エリーゼの親代わりをしていた宿屋の女将の元に、他国の商船の船員がエリーゼからの手紙を届けに来たようです。」
「……リーゼは無事なのか?」
「はい。船で倒れていたところを保護し、人身売買に巻き込まれたようだから、安全なグーム国でこっそり船から下ろして、エリーゼに仕事の世話をしてから別れたとその船員は話していたとか。
エリーゼから女将に宛てた手紙もここにあります。」
ずっと探していた……
でもいくら探しても手掛かりすら掴めず、もしかしたらと最悪の事態も予想していたのだが、グーム国で生きているなら、私は迷わずに迎えに行きたい。
「急ぎで陛下に許可を取り、私がグーム国に向かうようにする!」
公爵なら、すぐに彼女を迎えに行きたいと私に同意してくれると思った。しかし、不安のこもった目で私を見つめている。
「殿下。まずはこのエリーゼからの手紙を読んで欲しいのです。」
そう言って公爵は、私に手紙を渡してくる。
手紙は、リーゼが女将に心配をかけてしまったことへの謝罪から始まる。そして船で倒れていたところを親切な船員に助けてもらい、自分は無事でいるから大丈夫だと書かれていたのだが、その後に書かれていた内容に驚愕する。
「……ここ数年の記憶がない?」
「はい。手紙にも書いてありますが、私達に出会う前の記憶はあるようなので、エリーゼは実の両親に捕まり、他国に売られそうになったと勘違いしているようなのです。
我が国に戻ると、また両親に捕まる可能性があるから、戻らずにグーム国で生きていくことにしたと書いてありますね。
私達のことだけでなく、王女殿下のことすら全く覚えていないようです。」
「……忘れてしまったのか?
私やクリスティーナのことも。」
自分のことを忘れられてしまったことはショックだが、彼女が記憶喪失になるほど辛いことがあったのかと思うと、胸が締め付けられる。
「殿下。私達はエリーゼの家族ですから、すぐにでもエリーゼを迎えに行くつもりです。
しかし殿下は……、耐えられますか?
女性が一人で生きていくのは難しいからと、周りから結婚を勧められて、エリーゼが結婚しているかもしれませんし、恋人がいる可能性も考えられるのです。
記憶を失ったエリーゼが別人のように変わっているかもしれません。」
あれだけ美しいリーゼが平民の生活をしていたら、生活が大変だからと、誰かに助けを求めてそのまま恋仲になっているかもしれない。
一人は大変だからと、周りは結婚を勧めてくることも考えられる。
私の知らない場所で、新しい家族を作って幸せに暮らしているかもしれない。
それでも私は……
「仮にそのようなことがあったとしても、王家の失態により攫われたリーゼをそのままには出来ない。
もし新しい環境で恋人がいたとしても、私はリーゼの無事を直接自分で確認したい。」
「……わかりました。」
国王陛下の力添えもあり、私のグーム国行きがすぐに決まった。
私の他にクリフォード公爵が行く予定になっていたのだが、直前になって公爵ではなく子息のクリフォード卿が行くことになった。
「王弟殿下。執務で忙しい父に代わって、私がグーム国に行くことになりました。
どうぞよろしくお願い致します。」
「クリフォード卿も王宮の文官として責任ある立場で多忙だと聞いていたが、仕事は大丈夫なのか?」
「ええ。エリーゼがグーム国にいると知り、今できる仕事は全て終わらせてきました。私がいない間の仕事は、優秀な部下たちに頼んできましたので何の問題もありません。」
「そうか……。私こそよろしく頼む。」
他者に関心を示さないクリフォード卿が、リーゼのために仕事を休んでグーム国に行くなんて信じられなかった。
ラリーア国に渡ろうとしても、革命による政情不安のため定期船が欠航していて身動きが取れず、結局は帰国する日を迎えてしまう。
鎮痛な思いで帰国した私は、リーゼの帰りを待つクリフォード公爵と夫人に頭を下げて謝罪することしか出来なかった。
彼女を見つけるどころか手掛かりすらつかめなかったと報告する私に、公爵と夫人は責めるどころか感謝していると声を掛けてくれた。これからは公爵家で捜索を続けていくので、殿下は大切な執務に戻って下さいと。
謝ることしか出来ない、自分の不甲斐なさに嫌気がさす。
そんな私の事情を知らないクリスティーナは、帰国した私を温かく迎えてくれたのだった。
「おじ様、お帰りなさい!
ずっと帰りを待っていたのよ。お姉様に会えないしおじ様もいないし、寂しかったの。」
クリスティーナの顔を見た私は、このままではいけないと痛感した。
リーゼは私にとって大切な人だが、可愛いクリスティーナにとってもかけがえのない人なのだ。まだ諦められない……
王家の事情に巻き込まれたリーゼを、絶対に見つける!
「クリスティーナ、ただいま!
良い子していたか? クリスティーナにお土産があるからな。」
「本当? 嬉しいわ!」
その後、留守にしていた間に溜まっていた執務をこなす忙しい日々を送りながら、ラリーア国を調べたり、ラリーア国の周辺諸国の調査をする日々を送っていた。すると、クリフォード公爵から驚くべきことを告げられる。
我が国一の大商会であるウォーカー商会の会長が、リーゼと親しくしていた港町の宿屋の女将から託された手紙を持って、突然公爵家に訪ねて来たらしいが……
「王弟殿下。エリーゼの親代わりをしていた宿屋の女将の元に、他国の商船の船員がエリーゼからの手紙を届けに来たようです。」
「……リーゼは無事なのか?」
「はい。船で倒れていたところを保護し、人身売買に巻き込まれたようだから、安全なグーム国でこっそり船から下ろして、エリーゼに仕事の世話をしてから別れたとその船員は話していたとか。
エリーゼから女将に宛てた手紙もここにあります。」
ずっと探していた……
でもいくら探しても手掛かりすら掴めず、もしかしたらと最悪の事態も予想していたのだが、グーム国で生きているなら、私は迷わずに迎えに行きたい。
「急ぎで陛下に許可を取り、私がグーム国に向かうようにする!」
公爵なら、すぐに彼女を迎えに行きたいと私に同意してくれると思った。しかし、不安のこもった目で私を見つめている。
「殿下。まずはこのエリーゼからの手紙を読んで欲しいのです。」
そう言って公爵は、私に手紙を渡してくる。
手紙は、リーゼが女将に心配をかけてしまったことへの謝罪から始まる。そして船で倒れていたところを親切な船員に助けてもらい、自分は無事でいるから大丈夫だと書かれていたのだが、その後に書かれていた内容に驚愕する。
「……ここ数年の記憶がない?」
「はい。手紙にも書いてありますが、私達に出会う前の記憶はあるようなので、エリーゼは実の両親に捕まり、他国に売られそうになったと勘違いしているようなのです。
我が国に戻ると、また両親に捕まる可能性があるから、戻らずにグーム国で生きていくことにしたと書いてありますね。
私達のことだけでなく、王女殿下のことすら全く覚えていないようです。」
「……忘れてしまったのか?
私やクリスティーナのことも。」
自分のことを忘れられてしまったことはショックだが、彼女が記憶喪失になるほど辛いことがあったのかと思うと、胸が締め付けられる。
「殿下。私達はエリーゼの家族ですから、すぐにでもエリーゼを迎えに行くつもりです。
しかし殿下は……、耐えられますか?
女性が一人で生きていくのは難しいからと、周りから結婚を勧められて、エリーゼが結婚しているかもしれませんし、恋人がいる可能性も考えられるのです。
記憶を失ったエリーゼが別人のように変わっているかもしれません。」
あれだけ美しいリーゼが平民の生活をしていたら、生活が大変だからと、誰かに助けを求めてそのまま恋仲になっているかもしれない。
一人は大変だからと、周りは結婚を勧めてくることも考えられる。
私の知らない場所で、新しい家族を作って幸せに暮らしているかもしれない。
それでも私は……
「仮にそのようなことがあったとしても、王家の失態により攫われたリーゼをそのままには出来ない。
もし新しい環境で恋人がいたとしても、私はリーゼの無事を直接自分で確認したい。」
「……わかりました。」
国王陛下の力添えもあり、私のグーム国行きがすぐに決まった。
私の他にクリフォード公爵が行く予定になっていたのだが、直前になって公爵ではなく子息のクリフォード卿が行くことになった。
「王弟殿下。執務で忙しい父に代わって、私がグーム国に行くことになりました。
どうぞよろしくお願い致します。」
「クリフォード卿も王宮の文官として責任ある立場で多忙だと聞いていたが、仕事は大丈夫なのか?」
「ええ。エリーゼがグーム国にいると知り、今できる仕事は全て終わらせてきました。私がいない間の仕事は、優秀な部下たちに頼んできましたので何の問題もありません。」
「そうか……。私こそよろしく頼む。」
他者に関心を示さないクリフォード卿が、リーゼのために仕事を休んでグーム国に行くなんて信じられなかった。
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