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あの頃

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 公爵家の料理長が取り寄せてくれた、最高の食材で作ったハンバーグとコロッケは、普通に美味しく出来上がった。
 ふっくら、ジューシーに焼き上がったハンバーグと、中はホクホク、衣はサクサクに揚がったコロッケは大好評で、王弟殿下は何度もお代わりをしてくれた。

「クリスティーナが王宮に来たばかりの頃、よくリーゼのことを思い出して、泣いていたよな。
 リーゼの作った食事が一番美味しいとか、リーゼの作ってくれた服が一番可愛いから好きだとか……。
 クリスティーナは、リーゼが大好きで、離れて生活しているのが寂しくて言っているだけなのかと思っていたのだが、実際にこの料理を食べてみて、クリスティーナの言う通り、リーゼの料理は本当に美味しいのだと納得したんだよ。」

「……ありがとうございます。」

 王弟殿下から、悪意も何も感じない純粋な笑顔を向けられて、私の料理が美味しいと言われると、何だか恥ずかしい気持ちになってしまう。
 私が港町に住んでいた頃によく見ていた、裏のありそうな、腹黒っぽい笑顔とは全然違う……

「……それで殿下は、エリーゼの料理が食べたいからと、あの頃に港町に通っていたのですか。
 そして、エリーゼが私と同じ色の髪と瞳であることに気付き、私の愛人の子供だと思ったと。」

「あの時は悪かった。真面目な公爵がそんなはずはないと思いつつ、リーゼはどう見ても公爵の身内にしか見えなかったので、つい……」

「ふふっ!確かに事情を知らない人から見たら、リーゼは、旦那様が他所で作った子供に見えなくはないですわね。
 私の年代の者から見たら、若い時のリーゼの母に瓜二つなので、誰も疑いませんけど。」

 お義父様とお義母様は王弟殿下と親しげに話をしている。
 その横で、夢中になって食べるティーナを見ると何だか癒されてしまう。

「お姉様。とっても美味しいわ!」

「それは良かったですわ。
 慌てないで食べて下さいね。」

 皆んなで楽しく昼食を食べた後、王弟殿下は執務があるからと、すぐに帰ることになる。
 ティーナはまだ遊んでいたいと言っていたが、お土産にクッキーを渡すとご機嫌で帰って行った。


 二人が帰った後、義両親と義兄と私でお茶をすることになる。

「王女殿下は、今日も可愛かったわね。
 やっぱり女の子はいいわぁ。
 リーゼが結婚して子供ができたら、私と旦那様で子守りをしたいから、リーゼは跡取りと結婚しなくていいわよ。」

「えっ? お義母様、それはどういう意味なのでしょうか?」

「跡取りの子息と結婚したら、リーゼの子供は相手の家の跡取りとして取られてしまうでしょ?
 私達が子守り出来ないじゃない。
 うちは、伯爵位も持っているからリーゼにあげるわ。
 それが嫌なら、没落貴族から爵位を買う方法もあるわね。
 リーゼは、国王陛下と王妃殿下から可愛がってもらっているから、多少のことは目をつぶってもらえそうだし。」

 普通ならば、立派な家門の跡取り息子との縁を望むはずなのに。

「オスカーは結婚しないと思うから、リーゼは子供を沢山産みなさいね。
 一人はうちの跡取りにするから。」

 義兄が、結婚できない男として扱われているから、そういう考えになるのね。

「お義母様。お義兄様はとてもお優しい方ですから、結婚したら素敵な旦那様になると思います。」

「……オスカーをそう言ってくれるのはリーゼだけよ。」

 偏屈義兄がすぐ横にいるのに『そうですかー』なんて、私の立場で同調出来ないよ。
 それに、不誠実で女にダラシない男と結婚するなら、真面目で根は優しい義兄の方がまだマシなんだから。
 その時、ずっと黙っていた義兄が口を開く。

「母上、エリーゼに結婚を急かさないで下さい。
 エリーゼはやっと最近、落ち着いた生活が送れるようになったばかりなのです。
 無理に結婚しても上手くいかないことは、エリーゼが一番分かっていることなのですよ。
 結婚なんてしなくても、私がエリーゼの面倒を見ますから大丈夫です。
 うちの跡取りも、親戚に子供が沢山いるのですから心配ありません。」

 義両親は、義兄の偏屈らしからぬ言動に驚いたのが、目を見開いたまま絶句している……

 それにしても、偏屈は本当に優しい人になった。
 前は底冷えするような目で私を見ていたし、優しい言葉なんて掛けてくれたことはなかったと思う。
 これで普段から笑顔だったら、結婚相手がすぐに見つかるのに。
 欲を言うならば、自分が結婚するから、跡取りのことは心配しないでと言って欲しかったなぁ。

「オスカー……。最近、何だか変わったな。
 他者を思いやる言葉なんか、今まで聞いたことはなかったのに。
 ……エリーゼに対してだけ優しくなったよな。」

「父上。義妹を気遣うのは、義兄として当然のことかと思いますが。
 父上も母上も、私にエリーゼと仲良くするようにと、散々話していたではありませんか。
 私は二人の希望通りにしているのですから、何の問題もないはずです。」

 その言い方に問題があるんですって。
 冷たく淡々と言わなくても……

「エリーゼ、今日は王女殿下や王弟殿下をもてなして疲れただろう?
 そんな時に、母上のつまらぬ願望の話などに付き合う必要はないんだ。早く部屋に戻って休むといい。
 ……行くぞ。」

「えっ……?」

「ほら!戻るぞ。」

「……へっ?」

 偏屈から手を引かれた私は、そのままエスコートされて、自分の部屋まで戻っていた。

 
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