異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

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久しぶりの料理

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 お茶会の後、私は何度かティーナと手紙のやり取りをしていた。

〝今度、お姉ちゃんの邸に遊びに行ったら、私はハンバーグが食べたいの。でもおじ様は、コロッケも食べたいんですって。
 おじ様もお姉ちゃんの邸に遊びに行くことを楽しみにしているみたいだわ。〟
 
 なるほど……、ハンバーグとコロッケね。
 料理長に、食材の仕入れを頼んでおかないといけないわね。
 久しぶりに、ティーナの好きなクッキーも焼いてあげようかな。

 そんなことを考えていたら、ティーナがうちの邸に遊びに来る日を迎えていた。

 お義父様とお義母様、そしてなぜか偏屈の義兄と私の四人で、ティーナと王弟殿下をお迎えすることになった。
 義兄は仕事をわざわざ休んでくれたらしい。次期当主なのだから、王族をお迎えするのは当然だとサラッと言われてしまった。

 王族の立派な馬車の中から降りて来たティーナは、お花の妖精のような、ふわふわの淡いピンクのワンピースを着ていて、今日も超越した可愛さだった。
 そんなティーナを見て、お義父様とお義母様は、頬が緩んでいる。
 やっぱり、可愛いは正義なのねぇ。
 ティーナがカーテシーをして、お義父様とお義母様にきちんとご挨拶をしている姿も愛らしいわ……

 そして、ティーナと一緒に来た王弟殿下は……

「クリフォード公爵・夫人、今日は邸に招待してくれたことに感謝する。
 クリフォード卿、多忙な中、出迎えありがとう。
 リーゼ、これを受け取って欲しい。」

 王弟殿下は、イケメン特有の眩しすぎる笑顔を私に向けると、ボリュームのある大きな花束を私にくれたのだった。
 前は真っ赤な薔薇だったけど、今日は白い薔薇だった……
 薔薇の花束を頂くなんて、少し恥ずかしい気持ちになるけど、ズッシリした花束を落とさないように気をつけなければと、冷静になる自分もいる。

「王弟殿下、いつも素敵な贈り物をありがとうございます。」

「殿下。いつもエリーゼに素晴らしい贈り物を頂き、ありがとうございます。
 ところで、そちらの白薔薇は、何本あるのでしょう?」

 お義父様が早速、薔薇が何本あるのかを聞いている。
 頂いた薔薇を、こんなハッキリと何本あるのかを聞くのは、ちょっと失礼な気もしなくもないが、王弟殿下と付き合いが長いお義父様だから許されるのだろう。

「……99本だ。」

「白薔薇を99本ですか!」

「まあ!王弟殿下は、一途ですわね。」

 お義父様とお義母様が驚いているが、何が一途なのだろう……。

「エリーゼ。99本の薔薇は重いだろうから、私が持ってやる。」

「お義兄様、恐れ入ります。」

 最近、気遣いのできる男になった偏屈義兄は、義両親と王弟殿下のやり取りをスルーして、私に花束を持ってやると声を掛けてくれる。
 そんな義兄を見たティーナは、ここで面白いことを口にするのであった。

「お兄様。今日はお兄様にまた本を読んで欲しいの!」

「……!」

「…………」

 義両親が、ティーナの言葉にあり得ないと言ったような視線を向けるのだが、

「……王女殿下。畏まりました。
 王女殿下のお好きな本をお選び下さい。」

「うん。実は私の好きな本を持ってきたの。」

 優しくティーナに言葉を返す偏屈に、義両親は驚きを通り越して固まるのであった。
 王族の前だから、感じ良く振る舞っているのは否定しないけど、偏屈は最近、優しい男になりつつあるのよ。
 このまま良い方に向かえば、結婚出来ると思うのよねー。
 
 挨拶が済んだ後、ティーナと絵本を読んだり、庭で隠れんぼをしたりすると、時間は過ぎていく。

「そろそろ、昼食の準備をして参りますわ。」

「お姉様、私も一緒に行きたいわ。」

「では、手を洗いに行きましょうね。」

「はい!」

 結局、家事魔法で料理をするところを皆んなが見たいと言い出して、義両親と義兄、ティーナと王弟殿下までが調理場にやって来た。

「お姉様。私は、ずっとお姉様の料理を食べたかったのよ。」

「ふふっ。それは光栄ですわ。
 今日は王女殿下が好きなハンバーグと、王弟殿下が食べたいと言ってくれたコロッケを作りましょうね。」

「嬉しいわ!ねぇ、おじ様も嬉しいでしょ?」

「ああ、そうだな。リーゼの作った食事が一番美味しいからな。」

 そう言って私に微笑む王弟殿下は、あの腹黒い雰囲気は全くなくなっていた。
 何だろう……?この気持ちは……。

 久しぶりの家事魔法は絶好調で、勢いよく包丁が動いている。
 ハンバーグの肉は、うちの料理長オススメのブランド牛を仕入れてくれたらしいし、コロッケのジャガイモは、ホクホクした銘柄のジャガイモを仕入れてくれたらしい。
 パン粉はいつものような硬くなったパンのパン粉ではなく、特別に生パン粉を用意してもらっている。
 いつもより材料がいいから、今日は美味しく出来ると思うのよね。

「久しぶりに見るけど、この魔法はいつ見ても面白いわねぇ。
 王妃殿下も、またリーゼに何か作ってもらいたいと話していたのよ。」

「確かに、つい見入ってしまうな。
 こうやって、勝手に食材や器具が動いているのは面白いよ。」

 義両親も、この魔法は面白く見えているらしい。
 私から見れば、便利なポルターガイストにしか見えないのに。

 気がつくと、良い匂いがしてきて、料理が出来上がっていた。

「殿下方が食べる前に毒味を致しますね。」

 実は、料理長達が私の料理に興味津々で、毒味役をしたいと言ってくれていたのだ。

「お嬢様、とても美味しゅうございます。」

「こういう料理は初めてです。美味しいです。」

「ありがとう。毒は大丈夫そうですね。
 それでは皆んなで頂きましょうか。」

「やったー!お腹が空いていたのよ。」

 大喜びするティーナは、二人で港町で生活していた頃のティーナと同じ表情をしていた。
 あの時も大好きな料理を作ってあげると、こうやって喜んでくれていたのよね。

 懐かしいな……


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