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変化

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 翌日、朝食を食べにダイニングへ行くと、そこには義両親の他に義兄の姿もあった。
 義兄は王宮の寮で生活していたはずだけど、いつ寮に戻るのかな?
 でも、〝いつ寮に帰るんですか?〟なんて聞いたら、早く帰って欲しいと思われそうだから聞けない……。
 私を迎えに、海外出張までしたのだから、しばらく仕事はお休みするのかもしれない。
 外出が嫌いな義兄には悪かったと思うし、義兄の職場の人達にも申し訳なかったなぁと思ってしまう。
 私がそんなことを考えていると、お義母様が口を開く。

「リーゼ。目が腫れているわね。
 遅くまで起きていたのかしら?
 まだ帰って来たばかりで、疲れがあるでしょうから、しばらくは何もしないでゆっくり過ごしなさいね。
 あっ、オスカー。貴方はいつ寮に戻るのかしら?」

「ぶっ……。ゲホっ……」

「リーゼ、咽せたの?大丈夫?」

「だ、大丈夫ですわ。失礼しました。」

 お義母様が、直球で義兄にいつ帰るのかを聞いている。
 母親って、こんな時は最強だよね。思わず吹き出してしまいそうになっちゃったよ。

「明後日から仕事の予定なので、明日の午後に寮に戻る予定でいます。」

「あら、珍しく邸にいるってことなのね。」

「……父上と母上に報告ですが、私は今月で寮を退去することにしました。」

「あら、王宮の近くに別邸でも買ったの?」

「王宮近くに売りに出ている邸などあったか?」

「そんな話は聞いたことないわね。
 もしかして、王宮の周りにあるホテルでも長期で借りるつもり?あの辺にあるホテルのロイヤルスイートは快適だって評判よね。」

 別邸を買うとか、ロイヤルスイートを長期で借りるとか、庶民からしたら信じられない話をしている。
 この人達って、本当のセレブだよねぇ。
 金持ちの会話についていけない私は黙って話を聞いていたのだが……

「……は?なぜそんな話になるのです?
 私は寮を退去して、ここで生活するつもりですが。
 自分の実家に戻るだけなのですから、何の問題もないはずです。」

 義兄は表情を変えずに、淡々と爆弾を投下するのであった。
 今……、この偏屈はここで生活すると言ったの?

「……えっ?オスカー、それは本気で言っているの?」

「オスカー。確かお前は、王宮で働くならここから通うより寮に住んだ方が、時間が無駄にならずに合理的だと言って、引っ越して行ったはずだが?」

 確かに、そんなことを言いそうな人だわ。
 この邸だって、馬車を使えば王宮まですぐなのに。
 この人は何と言っても偏屈だからね。

「私は跡取りですから、いずれは実家に戻ろうと考えていましたよ。
 早めに引っ越しをしたいので、荷物を運び出すために使用人を寄越して欲しいのです。」

「分かったわ……。でも、寮での生活に不便がないなら、今すぐに引っ越す必要はないと思うのだけど。」

「いえ。もう決めましたので。」

 お義母様は遠回しに、今はまだ戻って来なくていいと言っているようだ。それに対して、サラッと返す義兄。
 この親子の会話は、なかなか面白いわ。


 朝食の後、部屋に戻ろうとすると、義兄が何故かエスコートしてくれるらしい。
 義兄の部屋と私の部屋は近いから、気を遣ってくれているようだ。

「お義兄様。お礼を伝えるのが遅くなりましたが、遠い異国の地にまで、私を迎えに来て下さってありがとうございました。
 お義兄様のお陰でこうやって無事に帰って来れました。感謝しております。」

「エリーゼは王女殿下を庇って攫われたのだ。
 それに家族なのだから、いなくなれば探すのは当然だし、助けに行くのも当たり前のことだ。礼はいらない。
 不幸に見舞われながらも、お前はよく耐え忍んだ。
 これからは、もっと好きに生きてもいいのではないか?
 エリーゼは公爵令嬢なんだ。多少我儘になっても誰も文句は言えないし、私が何も言わせない。
 しばらくはゆっくり過ごせ。」

「……ありがとうございます。」

 偏屈は、少し性格が丸くなったらしい。
 うーむ……。子供がホームステイした後みたいに、この偏屈も海外に出たことによって、少しだけ視野が広がったのかな?
 でも、これから一緒に生活するのだから、性格が丸くなってくれるなら大歓迎ね。
 私としては、偏屈義兄のテリトリーを侵さないように注意して生活しよう。

「ところで、お義兄様にお聞きしたいことがあります。」

「何だ?」

「王弟殿下は、私を探すためにニューギ国まで行って下さったのでしょうか?」

「……知っていたのか?その通りだ。
 王弟殿下はエリーゼがニューギ国行きの船で攫われたと知り、ニューギ国まで向かったのだ。
 しかし、ニューギ国でエリーゼの情報を掴むことは出来なかったようで、失意のうちに帰国して来たようだ。
 エリーゼを見つけられなくて申し訳なかったと、父上と母上に頭を下げたらしい。」

 私の知らないところで、そこまでしてくれたなんて……
 ズキズキと私の心が痛んできた。

「もしかして、お義兄様もニューギ国に……」

「私は行ってない。王弟殿下はニューギ国行きを内密に計画して、突然、特使として向かうと言い出して旅立ってしまったのだ。」

「そうでしたか……」

「エリーゼ。あのお方がお前に思いを寄せているのは間違いない。
 お前を探すために、国王陛下を説得して、王弟が自ら国外に行くなど、普通ならあり得ないことだ。
 だが私は義兄として、エリーゼの思う人と結婚して欲しいと思っている。
 王弟殿下は素晴らしい方だと思うが、エリーゼの気持ちがない結婚は無理にしなくていい。王族の妻は、中途半端な気持ちでは務まらないのだ。
 お前が恋愛や結婚に興味がないのは知っている。
 今後も結婚に興味が持てないようなら、私がお前の面倒をみるから大丈夫だ。」

「お義兄様……、私にそこまでの配慮して下さるなんて……。
 ありがとうございます。とても嬉しく思いますわ。」

 私は、これからの人生は偏屈義兄と仲良くすることに決めた。
 自分でも調子がいいのは分かってますからね!
 でも老後を考えた時に、この偏屈と生活している自分は想像出来ないから、いつかは結婚した方がいいのだろうな……

 義兄から、王弟殿下の話を聞いてしまった私は、その後も、胸の中がスッキリしなかった。
 これは何だろう?
 罪悪感なのかな……

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