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帰国

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 お世話になったレストランのオーナーさん達に、帰国の報告とお世話になったことへの感謝の気持ちを伝えるため、私はみんなに会いに行くことにした。

 レストランの休憩時間に店を訪ねると、オーナーさん達が温かく迎えてくれる。
 私の記憶が戻り、義兄が迎えに来てくれたので、帰国することが決まったこと伝えると、オーナーさん達は自分のことのように喜んでくれた。


「リーゼ、良かったわね。
 帰る場所があって、リーゼが帰ってくることを待っている人がいるのでしょ?気をつけて帰るのよ。
 会えなくなるのは寂しいけど……、リーゼの家は貴族でお金持ちみたいだし、結婚したらハネムーンでまたこの国に遊びに来てね。
 待ってるわよ……。」

「キャサリン、本当にありがとう。
 私はキャサリン達と一緒に働けて、本当に楽しかったわ。
 元気でね。またいつか会おうね。」

「うん……。リーゼも元気でね。」

「グレイクは、あまり女遊びしないようにね。
 孤児院の女の子達はグレイクが大好きみたいだから、また遊びに行ってあげて欲しいな。」

「……俺はそんなに遊んでないからな。
 孤児院は、時間のある時にまたパンでも届けに行くから大丈夫だ。
 リーゼ、元気でな。また来いよ。」

「グレイク、ありがとう。」


 オーナーさんには、船で私を助けてくれた親方さんへの手紙を託すことにした。
 親方さんは、いつかまた食材を仕入れにここに来るだろうから、その時に手紙を渡してくれるらしい。

 ここに来たばかりの時は、一人で何とか生きていこうと必死になっていたようで、全く気が付かなかったが、私は自分が思う以上に、この職場が好きだったようだ。
 みんなとの別れが寂しくて仕方がない……。


 それと同時に、おじ様と過ごす時間も残り僅かになっていた。
 神殿の仕事が忙しいおじ様とは、相変わらず夕食の時にしか顔を合わせることが出来ない。
 しかし、どんなに忙しくても、おじ様は必ず夕食の時間に合わせて帰って来てくれるので、私はそれだけで嬉しい気持ちになっていた。
 
 そして、帰国する前日の夜になる。
 その日は、この邸で過ごす最後の夜になるからと、夕食後におじ様と一緒にお茶をすることになった。


「リーゼ……、これを持って行きなさい。」

「ありがとうございます。
 ……開けてみてもいいでしょうか?」

「ああ。気に入ってくれたら嬉しいと思う。」


 おじ様からは、ジュエリーが入ってそうな綺麗な小箱を渡される。
 リボンを解いて箱を開けると、そこには綺麗な青い石のネックレスとイヤリングが入っていた。
 この石は何の種類だろう?サファイアとかではないよね……?

 そのジュエリーは、この世界にありがちな、やたら主張が強く見える、大き過ぎる石ではなく、程よい大きさにカッティングされており、シーンを選ばずに使えそうなデザインで、私好みだった。


「おじ様、とても素敵なジュエリーですわ。
 綺麗な青い宝石は、何という石でしょうか?」

「それはタンザナイトだ。この国は上質なタンザナイトの原産国だから、ぜひリーゼにプレゼントしたいと思い、急いで作らせたものだ。」

「これがタンザナイトですか!
 とても綺麗な青ですわ。」

「普段のリーゼを見ていると、あまり派手な物は好まないように見えたから、宝石の大きさを控えめにする代わりに、小さくてもよく輝いて見えるような、質の良い原石を選び、綺麗にカッティングして欲しいと職人に頼んで作ってもらったのだ。
 もし、リーゼの好みに合わないようなら、また別の物を作らせて後で商人に届けさせるが、大丈夫か?」


 おじ様はそこまで考えて、このネックレスとイヤリングを用意してくれたの?
 このイケオジはどんだけ素敵なのー!

 私、おじ様と別れたくないな……


「私は、これがとても気に入りましたわ。
 毎日着けたいと思うくらい、このジュエリーが大好きになりました。
 おじ様、ありがとうございます。一生大切にします。」

「……そこまで言ってくれるとは思わなかった。
 プレゼントをして、こんなに嬉しい気持ちになったのは久しぶりのことだ。
 リーゼ、ありがとう。」

「タンザナイトは、おじ様の瞳の色に似て、本当に綺麗ですわ。
 ふふっ。これを見て、毎日おじ様を思い出すことにします。」

「何だか恥ずかしいな……。」


 タンザナイトは、おじ様だけでなく、ティーナや王弟殿下の瞳の色にも似ている。
 この色は、私の国の王族の色なのかもしれない。

 私の方からは、私が魔法で刺繍したハンカチ数枚をおじ様にプレゼントした。
 ハンカチの材料はおじ様が買ってくれた物にも関わらず、とても喜んでくれた。


「私も、これは一生大切にする。
 私が死んだら、このハンカチは柩に入れてもらおうか……。」


 優しい笑顔でハンカチを見つめるおじ様。
 このイケオジの素敵な笑顔も、もう見納めなのね……


「おじ様。死んだら……なんて言わないで下さい。
 またいつか……おじ様に、会いに……来ま……す。」


 泣くつもりはなかったのに、涙は勝手に流れてしまっていた。


「リーゼ……、私は君の母君を裏切った男だ……」

「おじ様、私はそのことは気にしていません。
 そのことがきっかけで私が生まれたようなものなのですから。
 私は、おじ様に出会えて幸せでした。
 記憶が戻らなければ、私はここに留まることを望んだかもしれません。
 それくらいおじ様が大好きです。ですから、ずっとお元気でいて下さい。」

「リーゼ……、短い間だったが、私も幸せだった。
 一生家族は持たないつもりだったが、可愛い娘ができたようで、毎日、とても温かい気持ちになれた。私に夢を見せてくれてありがとう。
 マーガレット王女の娘を助けてくれたことも感謝する。
 ここはグーム国のリーゼの家なのだから、また来なさい。」

「……はい。」


 次の日の朝、おじ様に見送られ、迎えに来てくれた義兄と王弟殿下と一緒に、私は邸を出発したのであった。


「エリーゼ……、もう泣くのはやめたらどうだ。」

「グスッ……お義兄様、わ……私の涙が、止まってくれないのです……。」

「リーゼは、そんなに叔父上の邸が良かったのか?」

「はい……。私はおじ様が大好きでしたので、別れが辛いのですわ。」

「そ、そうか。大好き……か。
 あの叔父上が、リーゼは大好き……なのか。」

「エリーゼ。大好きだなんて、殿下の前で……」

「えっ?」


 ブルブル……。
 温暖な国なのになぜか寒気がする。

 私が気付いた時には、すでに馬車の中は氷点下になっていた。


 港の船着場では、ストークス様が待っていてくれて、幼馴染の伯爵令嬢のことを謝罪され、令嬢に対して私が厳罰を求めなかったことへのお礼も伝えられた。


「クリフォード公爵令嬢。私は、君のことが……」

「リーゼ!そろそろ乗船時間だ。」

「……ストークス様、お世話になりました。
 どうかお元気で。」

「……ああ。君も元気で。」


 ストークス様から、告白されそうな勢いだったけど、王弟殿下が強引に雰囲気をぶち壊してきた。
 その様子を見た義兄が、ため息をついている。
 これでグーム国は最後なのに、なんかバタバタしてしまったなぁ。


 船は定刻通りに出航する。
 私は、港が小さくなって見えなくなるまで、ずっと眺めていた。


 
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