異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

文字の大きさ
上 下
57 / 106
連載

プレゼント

しおりを挟む
 そこまで長い入院生活ではなかったはずなのに、退院する頃には、病室は物で溢れていた。


「リーゼ。今日の体調はどうだ?
 今日も、クリスティーナの土産を買いに町に出たんだが、偶然いい店を見つけてしまって、つい買ってしまったんだ。
 ……受け取ってくれないか?」


 そこには、今日も恥ずかしそうにプレゼントを渡してくる王弟殿下がいた。
 何だろう……?
 いつもは腹黒のイケメンにしか見えないのに、こういう時の殿下の恥ずかしそうな顔は、なぜか可愛く見えてしまう。


「……王弟殿下。あ、ありがとうございます。
 でも、プレゼントはこれで最後にして下さいね。
 病室に置ききれないほどのプレゼントを頂いてしまいましたので、流石に申し訳なくなってしまいましたわ。」

「あっ……、そうだったな。悪い。
 店に行くと、商売上手な店員に乗せられてしまって、つい買ってしまうんだ。」


 見るからに高貴な雰囲気を出しまくっているから、店員さんのいいカモになってるんだろうなぁ。

 私の入院当初、王弟殿下はお見舞いに来るのに手ぶらでは来れないとか言って、プレゼントを持ってきてくれたのだ。
 それを見た義兄が、せっかく殿下が用意してくれたのだから断るのは失礼だと言いだしたこともあり、私は深く考えずに受け取ることにしたのだが、流石に毎日プレゼントを持ってお見舞いに来るだなんて、考えてもいなかった……。


「王弟殿下……。うちのエリーゼを懇意にしていただいて感謝しておりますが、殿下からの過分なお心遣いに、私達は恐縮しております。」

「クリフォード卿。そんなことは気にするなと言いたいところだが、リーゼは明日退院だから、確かに荷物になってしまうよな。
 すまなかった。入院中のプレゼントはこれで最後にする。」

「王弟殿下。入院中は色々ありがとうございました。
 私は明日、やっと退院出来ますわ。」

「ああ。本当に良かったな。
 ところで、あの伯爵令嬢の件だが、本当に慰謝料を貰うだけでいいのか?
 しかも、その慰謝料を全額孤児院に寄付するだなんて、貴族として素晴らしいことではあるが、リーゼには何も残らないんだぞ?
 それにこの国の貴族達は、あの令嬢は罪人として、修道院送りにされるものだと思っているようだった。」


 あの後私は、おじ様と殿下に必死に頼み込んで、私に暴力を振るった伯爵令嬢に慰謝料を請求するということで、なんとか話をまとめてもらうことに成功したのだ。


「何かの勘違いから、一度殴られただけですので、私はもう大丈夫です。
 それがきっかけで私の記憶が戻ったようですし、伯爵令嬢からは、丁寧な謝罪の手紙を頂きました。
 慰謝料は、孤児院にいる可愛い子供達のために使ってもらうのが一番だと思っておりますし、私には、入院中に殿下が贈って下さった、大量のプレゼントがありますから、他には何も望みませんわ。」

「……そ、そうか。そんな風に言われたら、嬉しくなってしまうな。
 では退院したら、私からリーゼに退院祝いも贈らせてくれ。」


 ……もう何も要らないのに。
 ストップ無駄遣いだよ。


「殿下。これ以上物が増えたら、船に積み込むのが大変ですので、贈り物は今は控えて頂きたく思います。」


 サラッと断る義兄は、流石だと思ってしまった。
 やっぱり偏屈は最強だなぁ。


「そうだな……。では帰国してからにしよう。」

「……」

「……」


 そして私は、翌日に退院を迎える。

 退院した私は、義兄に付き添われて孤児院に行くことにした。
 実は私の入院中に子供達は、沢山の手紙や絵を描いてくれ、それを院長先生が届けてくれたのだが、入院中、何もすることのなかった私にとって、子供達からの手紙は、唯一の楽しみであり癒しになっていたのだ。
 私は、そんな子供達や院長先生達に、退院の報告とお礼を伝えたいと思っていた。


「あっ、リーゼ姉ちゃんだ!」

「本当だ!リーゼお姉ちゃん、退院したの?」


 私が来たことに気付いた子供達が、元気に駆け寄って来る。


「みんな、お手紙を書いてくれてありがとう。
 そのお陰で、元気になって退院することが出来たわよ。」

「良かったねぇ。」

「リーゼお姉ちゃん。退院おめでとう!」


 ハァー。やっぱり子供達からは、元気がもらえるなぁ。


「リーゼお姉ちゃん。実はね、リーゼお姉ちゃんが怖いお嬢様に虐められて倒れた時にね……、院長先生がすっごい怒って怖かったのよ。」

「俺も見たぞ。院長先生が貴族のお嬢を怒鳴りつけていて、すげー怖かった。
 滅多に怒らないから、余計に怖かったな。」

「あたしも、院長先生があそこまで怒ったのは、初めて見たなぁ。」


 穏やかで声を荒げることなどなさそうな、優しいおじさんって感じの院長先生だったけど、やはりキレると怖いのね。


「あはは……。院長先生はこの孤児院のボスなのだから、普段は優しくてもいざという時は怖いに決まっているじゃない。」


 孤児院に顔を出した後、義兄はおじ様の邸まで私を送ってくれた。
 私は来週帰国することに決まったのだが、帰国するまではおじ様の邸に滞在してよいということになったのだ。


「エリーゼ。この国にいるのは、あと僅かだ。
 船旅は体力を消耗するから、今のうちに体調を整えておくように。
 一人でフラフラと出歩くなよ。」

「分かっておりますわ。
 お義兄様、入院中は大変お世話になりました。」

「世話はしてない。義兄として当たり前のことをしただけだ。
 では、来週迎えに来るからな。」

「はい。よろしくお願い致します。」


 そして義兄は、滞在先の王宮に戻って行った。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。