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記憶が戻りました

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 パチっと目覚めた私は、知らない部屋にいるようだった。
 そして、あの香水が臭い令嬢に殴られたショックからか、私の記憶が戻っていることに気づく。


「……エリーゼ?大丈夫か?」


 目覚めた私の目に入ってきたのは、偏屈の義兄が私を見て慌てている姿。

 あの偏屈がこんな顔をするなんて……。

 鉄仮面のような男だと思っていたのに、こんな人間らしい表情が出来るんだね。
 ふふっ……。こんなに慌てた偏屈の姿を、あのお義母様に見せたいくらいだわ。


「お義兄様……」


 目覚めたばかりの私は、声が出しにくく、弱々しい喋り方になっていた。


「エリーゼ……。私を義兄と呼ぶということは……、記憶が戻ったのか?」

「……はい。」


 忘れていたはずの数年分の記憶が戻った私は、目覚めたばかりであるにも関わらず、頭の中はスッキリしていた。

 私、頭ぶつけてばかりでこの先大丈夫かなぁ?
 少ししてから後遺症とかでないよね……?
 少し不安になるなぁ。

 自分の頭のことが心配になる私とは反対に、義兄は安堵の表情を浮かべて私を見つめている。


「良かった……。本当に良かった……。」


 へ、偏屈が……、涙目になってる!
 この人の涙腺も機能するんだ……。
 それに〝良かった〟だなんて、ポジティブな言葉を私に言うなんて初めてだよね?

 それくらい私のことを心配してくれたのかな……

 
「エリーゼが、訳の分からない貴族の女に殴られ、倒れて病院に運ばれたと聞き、慌てて駆けつけた。
 だが、なかなかエリーゼの意識が戻らないから、流石に焦っていた。
 それに、エリーゼの友人だと名乗る侯爵令息が、謝罪をさせて欲しいと何度も病室に訪ねて来たんだ。
 それを見た殿下は激怒して追い返すし、修羅場だったんだぞ。」

「……申し訳ありませんでした。」


 ハァー。あの王弟殿下が、ストークス様を追い払ったってことなのね……
 修羅場って……。病院で騒ぎ立てたりとかしてないよね?


「こうやって無事に目覚めて、記憶が戻ったのだ。謝る必要はない。
 記憶喪失で私達のことなど知らないし、今の生活が楽しいから帰りたくないと言われたらどうしようかと、殿下と心配していたくらいだ。」


 うっ……。鋭いわ。


「これからは、義兄の私がエリーゼを守るから大丈夫だ。もうこんな思いはさせない。」


 この偏屈はどうしちゃったの?
 しばらく会わないうちに、別人のようになってない?


「……ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。
 お義兄様はお忙しいでしょうから、今まで通りで大丈夫ですわ。
 私はお義兄様の迷惑にならないように、気を付けてひっそりと生活しますから。
 あっ……!こんな遠くまで迎えに来てもらって、すでに迷惑を掛けてしまいましたね。」


 悪い人ではないし、頭が良くて頼りになる義兄かもしれないけど、偏屈な性格の人と親しくすると、非常に疲れそうだから、今までのように、時々顔を合わせるくらいの距離感で付き合いたいの。


「私達は家族なのだから、迷惑だとか言って気にする必要はないんだ。」

「……あ、ありがとうございます。
 ところで、王女殿下は無事なのでしょうか?
 元気にされてますか?」


 記憶が戻った私は、ティーナが無事に逃げることが出来たのかが気になっていた。


「無事だ。王女殿下は、港町の住民にすぐに保護されて、宿屋の女将の所で、王宮からの迎えが来るのを待っていたようだ。
 エリーゼが行方不明だということは、王女殿下には知らせずに、怪我をしたから領地で療養しているということにしていた。
 そしたら王女殿下は、エリーゼに会いたいと手紙を沢山書いて下さったんだ。」

「……無事だったのですね。」


 あの時の私は、必死になってティーナを逃したつもりだった。
 ティーナはしっかりした良い子だから、私の言いつけを守って、ちゃんと逃げたんだね……。
 あー、良かった!


「それでだな……、王女殿下を命懸けで守ったエリーゼの功績が認められて、うちは侯爵家から公爵家に陞爵した。」

「……はい?」

「エリーゼは公爵令嬢になったということだ。
 それで、エリーゼと王女殿下を攫ったラリーア国の間者だが、マクファーデン公爵令嬢とレストン子爵令息が共謀していたことが分かってな……。二人は国外追放されて、二つの家門は取り潰しになった。
 だから、エリーゼが帰国してもあの女狐はもういないから安心しろ。」


 爵位が上がったことは驚きだけど、あの二人が国外追放されていたなんて……


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