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縦ロールの人
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昨夜は遅くまでおじ様を待っていたが、おじ様は急な仕事で忙しいからと、邸に帰って来なかったらしい。
そして私は、今日も孤児院の手伝いに来ている。
変わったことと言えば、孤児院に行くのに、護衛が付いて馬車で送り迎えをしてもらうことになったということ。
邸から孤児院まで徒歩の距離で、治安もいいから必要ないと、邸の家令には話したのだが、旦那様(おじ様)からの命令ですと言われてしまったのだ。
孤児院では、子供達や職員のマダムは今までと変わらずに接してくれているが、院長先生は何となく私に気を遣っているようだった。
「リーゼ嬢がここを離れる前に、頼みたいことがあるんだ。」
離れる前……か。何だか寂しいな。
私は、この孤児院の子供達が可愛いし、職員のマダム達や院長先生も普通に好き。
この国も気に入っているから、無理に帰らなくてもいいと思っている。
それに、大好きなおじ様と離れるのも辛い。
女将さん達には会いたいけど、このまま、ここに居たいとも思ってしまう。
「院長先生。頼みたいこととは、何でしょうか?」
「リーゼ嬢が、魔法で作ってくれたコロッケのレシピを教えてくれないだろうか?
貴重なレシピなのは分かっているのだが、あのコロッケを売って、孤児院の運営資金を稼げないかと思ってね。」
「勿論ですわ!孤児院でコロッケ屋さんをやるんですね。
いいアイディアだと思います。」
「えっ……、いいのかい?
料理のレシピというものは、家宝と同じくらい大切なものだというのに。」
「家宝……?
コロッケは、庶民の料理ですわ。
家宝だとか言われるほど、気取った料理ではないのです。
みんなが美味しく食べてくれるなら、私は喜んでお教え致しますわ。」
「……ありがとう。
リーゼ嬢は、高貴な身分にも関わらず、この孤児院のために一生懸命働いてくれたし、子供達を沢山可愛がってくれた。
君には感謝しかないよ。本当なら、ずっとここにいて欲しいくらいだった。」
「院長先生。私にとってもここは、ずっと居たいと思えるほど、大好きな場所でしたわ。」
「本当にありがとう。子供達も職員も、みんな君が大好きだったよ。」
「ふふっ……。両思いで嬉しいですわ。」
コロッケのレシピを院長先生と職員に教えることになった私は、色々な食材を使ったコロッケを作ってみることにした。
商売が軌道に乗ったら、コロッケだけでなく、色々な揚げ物にもチャレンジして欲しいと思ったからだ。
「へぇー。コロッケはジャガイモだけでなく、カボチャでも美味しく出来るのね。」
「このコロッケは、コーンが入っていて、子供達が好きそうだわ。」
「私はこのチーズの入ったコロッケが好きよ。」
「ハムにパン粉をつけて揚げても、こんなに美味しいのね!」
早速、出来上がったコロッケを職員達に試食してもらっている。
「リーゼ嬢、コロッケは色々な食材に合うんだな。」
「はい。実はコロッケは、パンに挟んで食べても美味しいのです。昼時はコロッケパンにして売り出してもいいかもしれません。
原価は高くなってしまいますが、少し高級にしたいなら、細かくした肉に下味を付けたものを入れて、肉コロッケにしても美味しいですわ。」
「なるほど……、いいアイディアだ。
神殿で働く人達に売れるかもしれないな。」
「この国は温暖で、色々な野菜が収穫出来て、安く食材が手に入るので、色々な食材を使って試してみてもいいかもしれませんね。」
試食を終えて片付けをしていると、険しい表情をした職員に呼ばれる。
「リーゼさん、お客様が来ているわよ。」
「お客様ですか……?」
「ええ。派手な貴族らしきお嬢様が来ているの。
リーゼさんのお友達?」
「貴族のお嬢様に友人はいませんが。」
「……気をつけた方がいいかもしれないわね。
心配だから、私達は廊下で待機しているわ。」
「……はい。」
嫌な予感がする……
応接室に入ると、縦ロールに濃いピンクのドレスを着た派手な貴族令嬢と、その護衛騎士らしき人物がいた。
「貴女がエルと付き合っているっていう平民?」
ゴミを見るような目で、私を見つめる令嬢。
一目見て、面倒臭そうな人物だと悟った。
……うっ。香水くさっ!
「ねぇ。伯爵令嬢の私が聞いているのよ。
早く答えてちょうだい。」
「……付き合っておりませんわ。」
恐らくエルというのは、聖騎士のストークス様のことだろう。
やっぱり、貴族と関わると碌なことがない。
「あのエルが、孤児院で働いている女によく会いに来ているって聞いているのよ。
付き合っているんでしょ?」
「付き合っておりません。
ただの知り合いです。」
「私はエルの幼なじみで、いずれは婚約することになっているの。
エルはとてもモテるし、まだ若いから、婚約する前なら、多少の女遊びは許そうかと思ってはいたの。
でも、相手が平民女だって聞いたから、顔を見に来てやったわよ。」
「私はただの知り合いです。
ご令嬢とストークス様の幸せをお祈りしておりますわ。」
私は二人を邪魔する気はありませんよ……って、気持ちを伝えたつもりだった。
しかし……
「……貴女、私を馬鹿にしているの?
ずっと前から婚約を打診しているのに、私がエルに全く相手にされてないって知っていて、馬鹿にしているのね。」
えっ、逆ギレ? それとも被害妄想ですかー?
「エルは、どの女性にも興味を持たなかったから、待ってれば、きっと私と婚約してくれるはずだって思っていたのに……。
貴女には笑顔を向けて、〝リーゼ〟って呼び捨てで呼んでいるんですってね。
私には、笑顔なんて見せてくれないのに。
貴女が現れたせいで私は……
平民の分際で生意気なのよ!」
バシっ!……ドン!
急に頬に強い衝撃がきたせいで、私はよろけてしまい、壁に頭をぶつけてしまったようだ。
痛みを感じる前に、目の前が真っ暗になる。
「……リーゼさん! 誰か、院長先生を呼んで来て!」
「キャー、リーゼさん! しっかりして……」
職員の叫び声が聞こえた気がした……
そして私は、今日も孤児院の手伝いに来ている。
変わったことと言えば、孤児院に行くのに、護衛が付いて馬車で送り迎えをしてもらうことになったということ。
邸から孤児院まで徒歩の距離で、治安もいいから必要ないと、邸の家令には話したのだが、旦那様(おじ様)からの命令ですと言われてしまったのだ。
孤児院では、子供達や職員のマダムは今までと変わらずに接してくれているが、院長先生は何となく私に気を遣っているようだった。
「リーゼ嬢がここを離れる前に、頼みたいことがあるんだ。」
離れる前……か。何だか寂しいな。
私は、この孤児院の子供達が可愛いし、職員のマダム達や院長先生も普通に好き。
この国も気に入っているから、無理に帰らなくてもいいと思っている。
それに、大好きなおじ様と離れるのも辛い。
女将さん達には会いたいけど、このまま、ここに居たいとも思ってしまう。
「院長先生。頼みたいこととは、何でしょうか?」
「リーゼ嬢が、魔法で作ってくれたコロッケのレシピを教えてくれないだろうか?
貴重なレシピなのは分かっているのだが、あのコロッケを売って、孤児院の運営資金を稼げないかと思ってね。」
「勿論ですわ!孤児院でコロッケ屋さんをやるんですね。
いいアイディアだと思います。」
「えっ……、いいのかい?
料理のレシピというものは、家宝と同じくらい大切なものだというのに。」
「家宝……?
コロッケは、庶民の料理ですわ。
家宝だとか言われるほど、気取った料理ではないのです。
みんなが美味しく食べてくれるなら、私は喜んでお教え致しますわ。」
「……ありがとう。
リーゼ嬢は、高貴な身分にも関わらず、この孤児院のために一生懸命働いてくれたし、子供達を沢山可愛がってくれた。
君には感謝しかないよ。本当なら、ずっとここにいて欲しいくらいだった。」
「院長先生。私にとってもここは、ずっと居たいと思えるほど、大好きな場所でしたわ。」
「本当にありがとう。子供達も職員も、みんな君が大好きだったよ。」
「ふふっ……。両思いで嬉しいですわ。」
コロッケのレシピを院長先生と職員に教えることになった私は、色々な食材を使ったコロッケを作ってみることにした。
商売が軌道に乗ったら、コロッケだけでなく、色々な揚げ物にもチャレンジして欲しいと思ったからだ。
「へぇー。コロッケはジャガイモだけでなく、カボチャでも美味しく出来るのね。」
「このコロッケは、コーンが入っていて、子供達が好きそうだわ。」
「私はこのチーズの入ったコロッケが好きよ。」
「ハムにパン粉をつけて揚げても、こんなに美味しいのね!」
早速、出来上がったコロッケを職員達に試食してもらっている。
「リーゼ嬢、コロッケは色々な食材に合うんだな。」
「はい。実はコロッケは、パンに挟んで食べても美味しいのです。昼時はコロッケパンにして売り出してもいいかもしれません。
原価は高くなってしまいますが、少し高級にしたいなら、細かくした肉に下味を付けたものを入れて、肉コロッケにしても美味しいですわ。」
「なるほど……、いいアイディアだ。
神殿で働く人達に売れるかもしれないな。」
「この国は温暖で、色々な野菜が収穫出来て、安く食材が手に入るので、色々な食材を使って試してみてもいいかもしれませんね。」
試食を終えて片付けをしていると、険しい表情をした職員に呼ばれる。
「リーゼさん、お客様が来ているわよ。」
「お客様ですか……?」
「ええ。派手な貴族らしきお嬢様が来ているの。
リーゼさんのお友達?」
「貴族のお嬢様に友人はいませんが。」
「……気をつけた方がいいかもしれないわね。
心配だから、私達は廊下で待機しているわ。」
「……はい。」
嫌な予感がする……
応接室に入ると、縦ロールに濃いピンクのドレスを着た派手な貴族令嬢と、その護衛騎士らしき人物がいた。
「貴女がエルと付き合っているっていう平民?」
ゴミを見るような目で、私を見つめる令嬢。
一目見て、面倒臭そうな人物だと悟った。
……うっ。香水くさっ!
「ねぇ。伯爵令嬢の私が聞いているのよ。
早く答えてちょうだい。」
「……付き合っておりませんわ。」
恐らくエルというのは、聖騎士のストークス様のことだろう。
やっぱり、貴族と関わると碌なことがない。
「あのエルが、孤児院で働いている女によく会いに来ているって聞いているのよ。
付き合っているんでしょ?」
「付き合っておりません。
ただの知り合いです。」
「私はエルの幼なじみで、いずれは婚約することになっているの。
エルはとてもモテるし、まだ若いから、婚約する前なら、多少の女遊びは許そうかと思ってはいたの。
でも、相手が平民女だって聞いたから、顔を見に来てやったわよ。」
「私はただの知り合いです。
ご令嬢とストークス様の幸せをお祈りしておりますわ。」
私は二人を邪魔する気はありませんよ……って、気持ちを伝えたつもりだった。
しかし……
「……貴女、私を馬鹿にしているの?
ずっと前から婚約を打診しているのに、私がエルに全く相手にされてないって知っていて、馬鹿にしているのね。」
えっ、逆ギレ? それとも被害妄想ですかー?
「エルは、どの女性にも興味を持たなかったから、待ってれば、きっと私と婚約してくれるはずだって思っていたのに……。
貴女には笑顔を向けて、〝リーゼ〟って呼び捨てで呼んでいるんですってね。
私には、笑顔なんて見せてくれないのに。
貴女が現れたせいで私は……
平民の分際で生意気なのよ!」
バシっ!……ドン!
急に頬に強い衝撃がきたせいで、私はよろけてしまい、壁に頭をぶつけてしまったようだ。
痛みを感じる前に、目の前が真っ暗になる。
「……リーゼさん! 誰か、院長先生を呼んで来て!」
「キャー、リーゼさん! しっかりして……」
職員の叫び声が聞こえた気がした……
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