異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

文字の大きさ
上 下
51 / 106
連載

聖騎士の友達

しおりを挟む
 腹黒疑惑のストークス様にエスコートされながら歩いていると、やたら視線を感じる。
 行き交う聖騎士や神官見習い、一般人の女性など、みんながこっちを見ている気がして、萎縮しそうになる。


「ストークス様……、さっきから視線が痛いような気がするのですが。」

「ここは私の職場で、顔見知りが多いからだろうな。
 気にしなくて大丈夫だ。」

「……分かりました。」


 そんな風に言われても、小心者である私は、ストークス様のように堂々と出来ないんだけど。
 この方、令嬢に人気の侯爵令息だと聞いていたけど、やっぱり一緒にいると目立つんだね。


「エルヴィス!」


 誰かが声を掛けて来た。
 あっ……!確かこの人は、ストークス様と一緒にレストランに来てくれていた聖騎士だな。


「……何だ?」

「そんな嫌そうな顔するなよ。
 デートの邪魔をしてやろうとは思ってないから、大丈夫だぞ。」


 うわー…。私達ってデートしているように見えてる?そんな甘い雰囲気は出してないけど。


「ウォルト!わざとらしく声を掛けて来た時点で、邪魔をしに来たのだと思われても仕方ないぞ。」

「私は、親友の最愛の人に挨拶に来ただけだ。
 リーゼ嬢、私はエルヴィスの友人のウォルト・リンドバーグだ。
 よろしく。」


 はあ?最愛の人って……。


「リンドバーグ様。こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。」


 なぜか、体が勝手にカーテシーをしていた。
 自分では忘れているようでも、体が覚えているようだった。


「リーゼ嬢はどこの家門の出身だろうか?
 前から思っていたが、君はどう見ても貴族の出身だよな?
 今はベネディクト神官様が君の後見人になっていると聞いたが、高位の貴族として育ってきたような雰囲気がある。
 君の出自を聞くなんて、嫌な質問に感じるかもしれないが、エルヴィスは私の親友だから、親友の大切な人のことは、私も知っておきたいと思っているんだ。」


 リンドバーグ様は、オバちゃんのように容赦なく、根掘り葉掘り聞いてくる人のようだ。
 でも、この人の表情や視線からは、悪意や値踏みされているというような嫌な感じはしなかった。
 裏表のない、ハッキリした人ってことなのかもしれない。
 きっと親友が、身分の違う変な女に誑かされていないかを心配して、こうやって聞いてきたのだろうと思う。

 聞かれた側としては気分のいいものではないけど、ストークス様を心配して聞いてくれているのだから、友人思いのいい人なのかもしれない。


「ウォルト!リーゼに何てことを聞くんだ。」


 ストークス様が友達の言動を注意してくれているようだ。


「ストークス様、何の問題もありませんわ。
 リンドバーグ様は、親友であるストークス様を心配して聞いているのでしょう。」

「ああ。その通りだ。」

「私は他国の没落した伯爵家の出身です。
 ベネディクト神官様は私の両親の古い友人で、この国で何の後ろ盾もない私を心配し、後見人になって下さったのです。
 そんな私は、ストークス様の友人の一人であって、最愛の人だとか大切な人だとか、言われるような立場ではありません。
 没落した貴族の娘なのですから、侯爵家のストークス様と釣り合わないことも理解しているつもりですわ。
 周りの方に、私達の関係を勘違いされないよう、二人でこうやって歩くようなことを今後は致しませんので、ご心配なく。」


 見た目は若い小娘でも、中身は元専業主婦のおばちゃんである私は冷静に答えてみた。

 しかし、二人の表情が一瞬にして険しくなる。

 うーん…。ハッキリ言い過ぎて、ちょっとキツかったかな?
 ズケズケと聞かれたから、こっちも負けずにハッキリと答えただけなんだけどなぁ。
 

「リーゼ嬢……。私の質問で気分を害したなら、謝罪をさせて欲しい。
 私は君を怒らせようとしたわけではないのだ。」


 リンドバーグ様は申し訳なさそうにしているように見える。でも私は、怒っているわけではないんだけど。


「いえ。謝罪は必要ありませんわ。
 大切な友人を心配して、私にそのようなことを聞いているのだと理解しておりますから。」


 だって、リンドバーグ様が私に聞いてきたことは、友達に彼氏が出来た時、彼氏はどこの出身で何の仕事をしている人なのかとか、どこの大学の人だとかを聞くようなものと一緒でしょ。


「理解してくれたことに感謝する。
 エルヴィスはいい奴だから、これからもよろしく頼むよ。
 それじゃ、邪魔者は失礼させてもらうよ。」


 そう言って、リンドバーグ様はサッと去って行ってしまった。


「……」

「………。」


 二人で取り残されたような感じがして、気まずい雰囲気になる私達。


「リーゼ……。
 私の友人がすまなかった。」


 弱々しい声で謝ってくるストークス様を見て、なぜか私が申し訳ない気持ちになってしまっていた。


「いえ。気にしないで下さい。
 友達思いの素晴らしい方だと思いましたわ。
 友は宝と言いますから、これからも友情を大切にして下さいませ。」

「リーゼ……。ありがとう。
 君はこんな時でも笑いかけてくれるのだな。
 ウォルトが図々しく話しかけてきて、君に探りを入れるようなことを聞いて、私は少し腹が立ったが、根はいい奴なんだ。
 君がそんなウォルトを分かってくれて、嬉しく思う。
 私は益々君に惹かれてしまったよ。」

「……はい?」


 私、分かりやすくハッキリと、ストークス様とは友達で、今後は二人で歩いたりしないことや、侯爵家のストークス様と私が釣り合わないことを話したよね?
 それなのに、この人は全く気にしてないの?
 
 騎士って仕事柄、メンタルも相当強いのかな……


「リーゼ。私は……、こんな気持ちは初めてなんだよ。
 だからリーゼが何を言っても、簡単には諦めるつもりはない。
 君は身分を気にしているようだが、そんなのは何とでも出来るから、私は気にしていない。
 だから……、覚悟して欲しい。」

「……」

 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。