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聖騎士の友達

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 腹黒疑惑のストークス様にエスコートされながら歩いていると、やたら視線を感じる。
 行き交う聖騎士や神官見習い、一般人の女性など、みんながこっちを見ている気がして、萎縮しそうになる。


「ストークス様……、さっきから視線が痛いような気がするのですが。」

「ここは私の職場で、顔見知りが多いからだろうな。
 気にしなくて大丈夫だ。」

「……分かりました。」


 そんな風に言われても、小心者である私は、ストークス様のように堂々と出来ないんだけど。
 この方、令嬢に人気の侯爵令息だと聞いていたけど、やっぱり一緒にいると目立つんだね。


「エルヴィス!」


 誰かが声を掛けて来た。
 あっ……!確かこの人は、ストークス様と一緒にレストランに来てくれていた聖騎士だな。


「……何だ?」

「そんな嫌そうな顔するなよ。
 デートの邪魔をしてやろうとは思ってないから、大丈夫だぞ。」


 うわー…。私達ってデートしているように見えてる?そんな甘い雰囲気は出してないけど。


「ウォルト!わざとらしく声を掛けて来た時点で、邪魔をしに来たのだと思われても仕方ないぞ。」

「私は、親友の最愛の人に挨拶に来ただけだ。
 リーゼ嬢、私はエルヴィスの友人のウォルト・リンドバーグだ。
 よろしく。」


 はあ?最愛の人って……。


「リンドバーグ様。こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。」


 なぜか、体が勝手にカーテシーをしていた。
 自分では忘れているようでも、体が覚えているようだった。


「リーゼ嬢はどこの家門の出身だろうか?
 前から思っていたが、君はどう見ても貴族の出身だよな?
 今はベネディクト神官様が君の後見人になっていると聞いたが、高位の貴族として育ってきたような雰囲気がある。
 君の出自を聞くなんて、嫌な質問に感じるかもしれないが、エルヴィスは私の親友だから、親友の大切な人のことは、私も知っておきたいと思っているんだ。」


 リンドバーグ様は、オバちゃんのように容赦なく、根掘り葉掘り聞いてくる人のようだ。
 でも、この人の表情や視線からは、悪意や値踏みされているというような嫌な感じはしなかった。
 裏表のない、ハッキリした人ってことなのかもしれない。
 きっと親友が、身分の違う変な女に誑かされていないかを心配して、こうやって聞いてきたのだろうと思う。

 聞かれた側としては気分のいいものではないけど、ストークス様を心配して聞いてくれているのだから、友人思いのいい人なのかもしれない。


「ウォルト!リーゼに何てことを聞くんだ。」


 ストークス様が友達の言動を注意してくれているようだ。


「ストークス様、何の問題もありませんわ。
 リンドバーグ様は、親友であるストークス様を心配して聞いているのでしょう。」

「ああ。その通りだ。」

「私は他国の没落した伯爵家の出身です。
 ベネディクト神官様は私の両親の古い友人で、この国で何の後ろ盾もない私を心配し、後見人になって下さったのです。
 そんな私は、ストークス様の友人の一人であって、最愛の人だとか大切な人だとか、言われるような立場ではありません。
 没落した貴族の娘なのですから、侯爵家のストークス様と釣り合わないことも理解しているつもりですわ。
 周りの方に、私達の関係を勘違いされないよう、二人でこうやって歩くようなことを今後は致しませんので、ご心配なく。」


 見た目は若い小娘でも、中身は元専業主婦のおばちゃんである私は冷静に答えてみた。

 しかし、二人の表情が一瞬にして険しくなる。

 うーん…。ハッキリ言い過ぎて、ちょっとキツかったかな?
 ズケズケと聞かれたから、こっちも負けずにハッキリと答えただけなんだけどなぁ。
 

「リーゼ嬢……。私の質問で気分を害したなら、謝罪をさせて欲しい。
 私は君を怒らせようとしたわけではないのだ。」


 リンドバーグ様は申し訳なさそうにしているように見える。でも私は、怒っているわけではないんだけど。


「いえ。謝罪は必要ありませんわ。
 大切な友人を心配して、私にそのようなことを聞いているのだと理解しておりますから。」


 だって、リンドバーグ様が私に聞いてきたことは、友達に彼氏が出来た時、彼氏はどこの出身で何の仕事をしている人なのかとか、どこの大学の人だとかを聞くようなものと一緒でしょ。


「理解してくれたことに感謝する。
 エルヴィスはいい奴だから、これからもよろしく頼むよ。
 それじゃ、邪魔者は失礼させてもらうよ。」


 そう言って、リンドバーグ様はサッと去って行ってしまった。


「……」

「………。」


 二人で取り残されたような感じがして、気まずい雰囲気になる私達。


「リーゼ……。
 私の友人がすまなかった。」


 弱々しい声で謝ってくるストークス様を見て、なぜか私が申し訳ない気持ちになってしまっていた。


「いえ。気にしないで下さい。
 友達思いの素晴らしい方だと思いましたわ。
 友は宝と言いますから、これからも友情を大切にして下さいませ。」

「リーゼ……。ありがとう。
 君はこんな時でも笑いかけてくれるのだな。
 ウォルトが図々しく話しかけてきて、君に探りを入れるようなことを聞いて、私は少し腹が立ったが、根はいい奴なんだ。
 君がそんなウォルトを分かってくれて、嬉しく思う。
 私は益々君に惹かれてしまったよ。」

「……はい?」


 私、分かりやすくハッキリと、ストークス様とは友達で、今後は二人で歩いたりしないことや、侯爵家のストークス様と私が釣り合わないことを話したよね?
 それなのに、この人は全く気にしてないの?
 
 騎士って仕事柄、メンタルも相当強いのかな……


「リーゼ。私は……、こんな気持ちは初めてなんだよ。
 だからリーゼが何を言っても、簡単には諦めるつもりはない。
 君は身分を気にしているようだが、そんなのは何とでも出来るから、私は気にしていない。
 だから……、覚悟して欲しい。」

「……」

 

 
 
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