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毒母の元カレ?

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 イケオジ風の神官は、緊張で顔が引き攣っている私を見て、ソファーに座るようにと優しく声を掛けてくれる。

 うーん……?神官からは私に対しての怒りとかは感じないけど、こういう人って感情を全く表に出さないから、何を考えているのか分からないなぁ。


「今日は、呼び出しに応じてくれたことに感謝している。
 君のことは、君の働いている店のオーナーから色々と聞かせてもらった。」

「……はい。」

「君は人身売買されそうになり、着の身着のまま逃げて来たと聞いている。
 君は……、ステール伯爵家の御令嬢だな。ステール伯爵家で何があったのだ?」


 私……、詰んだかも。


 この神官は、没落した私の実家のステール伯爵家を知っているようだし、私の顔を見て気付いたってことは、あの毒親の知り合い?
 こんな遠い異国の地で、あの毒親の知り合いに会うなんて、自分の運の悪さを呪いたくなる。
 

「……神官様、何を話されているのでしょうか?
 私はただの平民です。人違いかと。」

「私は、人に触れると魔力が読める。
 生まれてきた赤子と父親の魔力を読んで、親子関係の有無を調べたり、魔力鑑定なんかは大得意だったりする。」


 そんな特殊能力持ちの神官だったのー?
 怖いから!!


「パーティーで初めて君を見た時、私の知る人にそっくりで驚いた。
 まるで、あの時の彼女が戻ってきたかのような衝撃だった。
 そして君に触れた時、その人と君がよく似た魔力であることに気付いてしまった。
 親子などの血縁関係にあるもの同士は、魔力がよく似ているのだよ。
 君は……、アンジェラの娘だな?」


 イケオジ風の神官が、真顔で私を追い詰めてくる。


 もしかして、この神官は毒母の元カレ?
 話を聞いていると、あの毒母と親しかったと言っているように聞こえるし……。

 毒母、神官にも手を出したのー?
 
 あの毒母の関係者なんて、信用出来ないし、何を考えているのか分からないから怖いんですけど!
 

「………」

「アンジェラも火と水の魔法が得意だった。
 ただ君は、アンジェラよりも魔力がかなり強いな。
 それに、他にも特殊な魔法が使えるようだ。」


 何この人?娘の私よりも、毒母のことに詳しくない?
 

「神官様は、私がここにいることを、あの母に知らせるのでしょうか?
 私をあの両親の元に戻そうとしているのですね……?」

「君は他国に売られそうになって、偶然この国に逃げて来たのだろう?
 君が国に帰りたいとか、両親の所に戻りたいと考えているなら、私は君が国に帰れるように力になりたいと思っただけだ。
 君が何を恐れているのか分からないが、そんなに怯えた目で私を見ないでくれ。」


 もしかして、不憫な私を助けたいと思ってくれているの?
 でも、この神官はあの毒母の元カレか、そこそこ親しくしていた人でしょ?
 私の本能が警戒せよと言っている……。


「神官様……。ご配慮ありがとうございます。
 しかし私は、今の生活が幸せなのです。国に帰りたいとは思っておりません。」

「今の生活が幸せ?君は貴族令嬢だろう?
 あんな人目に晒されるような仕事をして、私は君が苦労しているようにしか見えなかったが。
 国に帰れない事情でもあるのか?誰かに狙われているとか、人身売買をしている者達が君を探しているとか?」

「……。」

 ここまで私のことを心配するなんて、やっぱりこのイケオジ神官は、毒母と親しかった人物に違いない。
 親しくしていた人の娘が異国で困っているから、助けてやろうって考えたのかな?
 でも、大嫌いな毒親の知り合いとは関わらない方がいいに決まっている。
 この神官が、どこまで私の両親のことを知っているのか分からないけど、この際、はっきり言ってしまおうか?


「神官様……。私の実家は私が12歳の時に、事業が失敗して没落しました。
 その時に両親は、私を売ろうとしたので、私はすぐに逃げ出しました。
 両親はただの政略結婚だったようで、愛し合うような仲のよい夫婦ではありませんでした。
 そんな二人から生まれた私は、両親から愛された記憶はありませんし、神官様の知り合いである私の母は、私のことなど何とも思っていませんでした。会話をした記憶はほとんどありませんし、母はほとんど家にいませんでした。
 そんな両親の元に、私が帰りたいはずはないのです。」

「なっ……、何だって?」


 あの毒母の本性を、このイケオジ神官は知らなかったようで、私から真実を知らされて、愕然としているようだ。
 性格は腐ったように悪かったけど、黙っていれば綺麗な毒母だったから、イメージが崩れちゃったかな。


 毒母ー!本性をバラしちゃってごめんね。


「私がこの国に来たのは、私が船に倒れていたところを、偶然、親切な方に保護していただき、この国で仕事を紹介してもらえたことがきっかけです。
 船で倒れて頭を打ったことが原因なのか、私はここ数年の記憶が抜けてしまっていて、自分に何があって船で倒れていたのかは分かりません。
 私を保護してくれた人の話だと、人身売買で他国に連れて行かれそうになったのではとのことでした。
 あの両親が、逃げ出した私を見つけて、他国に売ろうとしたのではないかと私は考えています。
 ですから……、私は両親のいる国には帰りたいとは思っておりません。」

「………」


 私の話を聞いて、今度はイケオジ神官が絶句してしまったのだった。


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