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神官からの接触

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 オーナーさんに個人的に呼ばれることは初めてのことだったので、何を言われるのか分からない私は、少しだけ緊張していた。


「リーゼ、急に呼び出して悪かったな。
 そんな硬い表情をしないで欲しい。私は君に説教をしようだとか、文句を言うために呼び出したわけではないのだからな。」

「そうでしたか。少し安心しました。」


 リストラの話じゃなくて良かった……


「実はある高貴な方が、リーゼのことを私に色々聞いてきたのだ。
 あまりにも高貴な方だし、その方にリーゼの事情を話すことは問題ないと判断した私は、リーゼが人身売買の被害者で、他国から逃げて来たことを話したのだ。
 勝手に君のことを話してしまって、申し訳なく思っている。」

「高貴な方に聞かれてしまったら、嘘は付けませんから仕方がないことかと思いますわ。
 ところで、その高貴な方とは?」

「理解してくれて感謝する。
 その高貴な方とは、我が国の次期神官長候補だと言われている、すごい神官様なのだ。
 この前、パーティーでうちの店を利用して下さった時にリーゼを見たと言っていた。」


 もしかして……、あの時の綺麗な金髪のイケオジ風の神官?


「あの……、その神官様は……、私のことを怒ったりしていませんでしたか?
 その……、はしたないとか言っていたりとか。」

「真面目に働いていて、好感が持てたと言っていたが。
 リーゼの話を聞いて、あの神官様が沈痛な面持ちをしていたようにも見えたな。
 なぜ、はしたないなんて言われると思ったんだ?」

「実は、神官様にお飲み物をお出しする際に、間違えて手が触れてしまいまして……。
 神官様がとても驚いたような表情をしていましたので、もしかして神官様は、異性に触れてはいけない決まりでもあるのかと思ったのです。」

「リーゼ……。我が国の神官様は、結婚が許されているくらいだから、異性に触れてはいけない決まりなどない。
 間違えて手が触れてしまうことなど、いくらでもある。リーゼは真面目過ぎるな。気にしなくていいぞ。」

「あ……、そうでしたか。それなら安心しました。」


 手が触れた時にあんな顔をされたら、誰だって気にするから!


「それでだが、その神官様がリーゼと話がしたいと言っている。」

「えっ!私と何を話すのでしょうか?」

「私もそこまでのことは聞いていない。
 大事な話がしたいと言っていたし、私達の立場では断ることは出来ないんだ。」

「……ですよね。分かっておりますわ。」


 オーナーさんから話を聞いた翌日、私は神官様がいるという神殿に来ていた。

 信仰心も何もない私は、この国の神殿に来るのは初めてのことだったが、神殿の敷地があまりにも広く、世界史の資料集に載ってそうな、立派な建物が沢山あって、驚きの連続だった。

 広い敷地内を、お上りさんのようにキョロキョロしながら歩いていると、後ろから声を掛けられる。


「……リーゼ!」


 振り向くと、レストランの常連さんになっていたあの聖騎士が、息を切らせて走って来た。
 神殿の敷地内に聖騎士団はあるらしく、さっきから、聖騎士がチラホラ歩いているのは気付いていたけど、まさか顔見知りに会うとは思わなかった。


「騎士様、ご機嫌よう。」

「やはりリーゼだったのか。いつものメイド姿とは違う服装だから、一瞬分からなかった。」


 今日は仕事が休みなので、私は神官様との面接を意識した、白の清楚なワンピースを着ている。
 

「今日は仕事はお休みなので、私服なのです。
 騎士様は今日もお仕事でしょうか?」

「……ああ。それより、リーゼは神殿に用事でもあるのか?」


 聞かれると思ったよ……。
 私がここを歩いているのは、明らかに不自然だものね。


「……ええ。ちょっとお呼び出しを受けまして、三番館の受け付けまで来るようにと言われているのです。」

「三番館に呼び出し……?
 私が案内しよう。こっちだ。」


 えっ?私に差し伸べられた、騎士様のその手は、もしかして……


「リーゼ……?私にエスコートさせてくれ。」


 はあ?平民の私に、エスコートなんて必要ないし!


「騎士様……、平民の私にそのような気遣いは不要ですわ。」

「レディを案内するのに、エスコートは必要だ。
 ほら……」

「……よ、よろしくお願い致します。」

 断れない雰囲気になってしまい、エスコートしてもらうことになってしまった。

 ハァー…。エスコートって、相手との距離が近いから、慣れていない人にエスコートされると、本当に気を使うよね。
 あの偏屈のエスコートとか……
 
 んっ?私、エスコートなんてされた経験あったっけ?
 〝偏屈〟って……?

 そんなことを考えていると、三番館の建物に着いたようだ。


「リーゼ、あそこが三番館の受け付けになっている。」

「騎士様。お仕事中にありがとうございました。」

「気にしないでくれ。」

「はい。それでは失礼致します。」


 受け付けに名前を伝えると、すぐに応接室のような、ソファーとテーブルのある部屋に案内される。

 待つこと数分、あのイケオジ風の神官が部屋に入って来たのであった。



 
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