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お得意様

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 ウォーターピッチャーを持って、6番テーブルの方に向かうと、聖騎士が2人いるのが見えた。

 ええと……。この前、私がシミ抜きをしてあげた騎士様は、ブラウンの髪の騎士様ではなくて、確かホワイトブロンドの短髪の方の騎士様だった……よね?


「仕事中に呼び出して悪いな。」


 私が来たことに気付いた騎士様が、すぐに声を掛けてくれた。
 先に声を掛けてくれたから助かった。
 私の予想通り、ホワイトブロンドの短髪の方の騎士様で間違いないらしい。

 その騎士様をよく見ると、令嬢に人気のありそうな綺麗な顔をしている。
 薄い茶色の瞳は、優しそうな印象で、こういう人がタイプだという人は沢山いるだろう。


「騎士様。本日はご来店ありがとうございます。
 先日のジュースのシミは大丈夫でしたか?」

「ああ。君のお陰で大丈夫だったよ。
 どうしても君にお礼を伝えたかったんだ。
 ありがとう。」


 この聖騎士は、クレームを言いに来た訳ではないようだ。
 良かったわ……。


「それは良かったですわ。素敵な騎士服に、シミができなくて安心致しました。
 よろしければ、お水のお代わりをお淹れ致します。」

「ああ……、ありがとう。」


 グレイクのアドバイス通りに、レモン水を持って来て良かったと思う。
 無理に話すこともないから、適当にレモン水のお代わりを淹れて……


「どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
 失礼致します。」


 私は席を離れようとするが……


「あっ……!君の名前を教えてもらえるか?」

「……リーゼと申します。」

「そうか、リーゼか……。」


 もういいよね?私、まだ昼休みだし。

 あれ……?一緒にいる別の聖騎士が、何だかニヤニヤして見ているような。
 何か嫌な感じだな。早くここを離れたいかも。

 あっ、前にキャサリンに教えてもらった方法を試してみよう。


「騎士様、よろしければパンのお代わりをお持ちしましょうか?」

「……ああ。頂くよ。ありがとう。」

「少々お待ち下さいませ。」


 ふふっ……。
 このレストランのランチコースは、パンのお代わりが自由なんだよね。
 レストランで焼いている、フワフワの美味しい白パンは、お客様から好評らしくて、お代わりする人が沢山いるんだよ。
 騎士様も沢山おかわりしていってねー!

 私は、グレイクにパンのお代わりを6番テーブルに運んで欲しいとお願いして、休憩室に戻ることにした。
 グレイクは、パンのお代わりと聞いて、何かを悟ったような顔をしていたと思う。


「リーゼ。予想はしていたけど、俺がお代わりのパンを持って行ったら、聖騎士が分かりやすくガッカリしていたぞ。」

「うっ……。ごめん!
 グレイク目当てのお客様で、しつこくされそうな時があったら、私が助けるから許して!」

「それは分かってるよ。
 あまり特定の客と親しくするのは良くないからな。
 また何かあれば言えよ。」

「ありがとう!」


 この職を失いたくない私は、特定の客と仲良くするつもりは全くなかったので、グレイクが助けてくれるのは有り難かった。


 しかし、その騎士様は週に1~2回は来てくれるようになる。


「いらっしゃいませ。本日もご来店ありがとうございます。」

「リーゼ。今日のおすすめは何だろうか?」

「本日は、ランチコースのBがおすすめでございます。
 柔らかい仔牛の肉のステーキに、旬のオレンジを使ったソースをおかけしたものがメインのお料理になります。」

「美味しそうだな。私はそれにする。」

「私もランチのBにするよ。」

「ランチコースのBをお二つですね。ありがとうございます。
 少々お待ち下さいませ。」


 当たり障りなく接客をする私。


「いつもリーゼを呼ぶあの聖騎士様は、侯爵家の方らしいわよ。
 オーナーが、侯爵家の方がお得意様になってくれたことを喜んでいたわ。
 すごい方がリーゼのお得意様になってくれて良かったじゃない。」

「このレストランにしょっちゅう来るから、お金持ちだとは予想していたけど、侯爵家の方なのね。
 そんな方と揉めたりしたら恐ろしいから、ますます気を使うわ。
 それよりも、キャサリン達の方が沢山のお得意様がいるじゃないの。
 上手く接客していて凄いと思うわ。」

「だってリーゼより長く働いているんだもの、当然よ。
 お客様と付き合う人も時々いるみたいだけど、その時は、そのお客様と結婚を考えてもいいって思えるくらいに、真面目な交際をする覚悟がないと付き合えないわね。」

「確かにそうね……。お客様と付き合って、揉めたくないもの。覚悟は必要よね。
 私は今の生活を維持することに精一杯だから、そういうことに興味はないけどね。」

「リーゼはまだ若いのに、そんなに寂しいことを言わないでよ。」


 頼れる親族もいない、遠い異国の地で一人で生きているのだから、今は恋愛よりもお金を貯める方を優先したい。
 この先の人生、何があるか分からないから、お金は沢山必要よね。
 しかも私の中身は若くないから、普通の若い子のように、今更恋がしたいなんて思わないし。


 ここで働いている美女達は、根が凄く真面目な子ばかりで、一緒に働いていて不快なことは全くなかった。
 慣れる前は、みんな綺麗で仕事も完璧だから近寄り難かったのだが、実は真面目で普通にいい人達だったのだ。
 
 反対にイケメンの従業員達は、表向きは真面目で親切そうだけど、裏では女の子を取っ替え引っ替えしているらしい。
 モテる男はこれだから嫌だよね。
 美女達はそれを知っているからか、同僚であるイケメン達と恋仲になる子はいないようだった。


 仕事にも慣れて、楽しく毎日を過ごしていた私だったが、ある日、オーナーに個人的に呼び出されるのである。
 
 

 
 
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