異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ

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こぼれたジュース

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「神官様……？」

　私の顔を見て、唖然とする神官に声を掛けたのは、私に飲み物を依頼してきた、聖騎士だった。

「……失礼。
　飲み物は、葡萄ジュースを頂けるかな？」

「畏まりました。」

　私がトレイの中から葡萄ジュースのグラスを手に取り、テーブルに置こうとしたその時、スッと神官の手が伸びてくる。神官は、ジュースを手渡して欲しいようだ。
　ジュースをこぼさないように、慎重に手渡しする私。
　
　手渡しする時にありがちな話だが、神官の手が私に一瞬だけ触れたような気がする。
　いくら私でも、相手がイケオジだからってわざと触れてないからね。事故よ、事故！
　それくらいは許してね……と、私は軽く考えていたのだが、その瞬間、神官が驚愕の表情になっていたのだ。

　えー！こういう聖職者って、もしかして、異性に触れてダメだとか決まりがあるの？

「も……、申し訳ありません。」

　怒られる前に、謝罪する私。

「……大丈夫だ。私こそ失礼した。」

　その瞬間、何故か動揺している神官が、グラスを落としてしまい、ジュースがこぼれる音がする。
　高級レストランにはカーペットが敷いてあるので、コップが割れなくて良かったのだけど、こぼれたジュースは近くに立っていた、先程の聖騎士のズボンの裾に飛び散ってしまっていたのだ。

　あー！白い騎士服に葡萄ジュースが……。

　ジュースをこぼしてしまったことに気付いて、すぐに駆けつけてくれたのは、イケメン従業員の中の一人の男の子だった。
　キャサリン達、美女メイドの皆さんは、他の騎士様達に捕まってしまって、身動きが取れない状態だったから、代わりに来てくれたのだと思う。

「お客様、大変申し訳ありませんでした。
　すぐに片付けさせて頂きます。」

　イケメンの男の子は、こぼしてしまったジュースを拭き取り、テキパキと片付けをしてくれていた。
　私の方は、聖騎士のズボンを何とかした方がいいってことよね？

「騎士様、ズボンの裾がジュースで汚れてしまいましたので、シミ抜きさせて頂けませんか？」

「裾だから目立たないし、これくらい小さい汚れは気にしないでくれ。」

　良かったー！この聖騎士は悪い人ではなさそうだ。

「そのままにしておくと、シミになってしまいますので、やらせてもらえませんか？
　すぐに終わりますので。」

「……ふっ。分かった。
　君がそれで安心するなら、頼もう。」

「あ、ありがとうございます。」

　聖騎士を別の部屋に案内し、椅子に座ってもらう。
　ズボンを履いたままで、シミ抜きをさせてもらうことにした。
　

「へぇー。そうやって他の布でシミを濡らしてから、押さえつけて、シミをとるのか！」

「はい。上から押さえることで、下の乾いた布にシミを移すような感じです。
　応急処置みたいなものなので、完璧ではないのですが、今やっておくと、後で洗濯する時に楽だと思いまして。」

　……こんなもんかなぁ？

「ありがとう。綺麗になったようだ。
　レディに跪かさせて、こんなことをさせてしまって申し訳ないな。」

「いえ。こちらこそ、パーティーをお楽しみのところを、お時間を取らせてしまいまして申し訳ありませんでした。」

「いや、気にしてない。
　ところで少し気になったのだが、神官様は君の知り合いなのか？」

　さっきの神官の様子は、この聖騎士から見ても変に見えていたようだ。
　痴女と思われたくなかった私は、間違えて手に触れてしまいましたとは言えなかった……。
　

「いえ。初対面ですわ。」

「……そうか。」

「はい。それでは私は下がらさせて頂きます。
　失礼致します。」

「……ああ。ありがとう。」
　

　ふぅー。クリーニング代を請求されなくて良かった。

　この日の出来事がきっかけで、イケメンの従業員達とも話が出来るくらいには、仲良くなれたから良かった。

　後日……

「リーゼ。パーティーでリーゼが染み抜きしてあげた聖騎士が来ていて、リーゼが勤務しているなら呼んでほしいって言ってるけど、どうする？」

　従業員用の休憩室で昼食を食べていると、パーティーでこぼれたジュースを片付けに来てくれた、イケメン従業員のグレイクから呼ばれる。
　

「えっ？あの騎士様って、このお店のお得意様だったの？
　もしかして、シミが落ちないって怒っていた？」

「プライベートでうちの店に来ていた記憶はないけど、今日はランチをしに来てくれているようだ。
　怒っているようには見えなかったけど……。
　あの聖騎士って、確か役職が付いている偉い人だよな？騎士服に着けていたバッチが平の騎士とは違かったぞ。」

「グレイク……、詳しいね。
　あの人、偉い騎士様なのかぁ。忙しかったから、あまり顔を見る暇はなかったけど、確かに落ち着いた雰囲気の人だったかもね。
　しょうがない……。お客様に呼ばれているなら、少しだけ行ってくるよ。」

「……頑張れよ。6番テーブルに同僚らしい騎士と一緒に座っている。
　他の客に、個人的に呼び出されたかのように見せないためにも、ウォーターピッチャーを持って行って、グラスにお代わりのレモン水を淹れてくるといいぞ。」

　他のお客様に、客と個人的に仲良くしていると思われないようにするためってことね。
　

「アドバイスありがとう。
　そのようにするわ。6番テーブルね。」

　
　

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