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閑話 王弟アルベルト
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リーゼに会えた夜会の後日、クリスティーナが刺客に襲われそうになる事件が起こった。
王宮内にある王族専用の場所で、侍女や騎士達と遊んでいる時に、不審な人物に襲われそうになったところを、異変に気付いた騎士が駆けつけ、難を逃れたらしい。
しかしクリスティーナは、恐怖から深く傷付き、食事も拒否して部屋に籠ってしまうのであった。
クリスティーナを狙ったのは、恐らくラリーア国の者に違いない。
刺客に逃げられてしまったので証拠はないが、それ以外には考えられなかった。国外にいるクリスティーナを、今更狙うだなんて、怒りで震えそうになる。
クリスティーナは、〝お姉様に会いたい。お姉様と二人であのお家に帰りたい。ここは怖い人が来るから嫌だ。港町が楽しかった。〟などと口にして、落ち込んでしまい、そんなクリスティーナを見て、陛下や王妃殿下が苦しそうにしている。
そんな日々を過ごしていたある日、ついに陛下は苦渋の決断をした。
リーゼに王宮に来てもらい、クリスティーナの側にいてもらえないかを、クリフォード侯爵家に頼んでみようと言うのだ。
私は反対だった。クリスティーナの側にいるということは、何かあれば一緒にいる者も危険に晒されることになるからだ。
しかし、リーゼはすぐに王宮に来てくれることになる。
「アル。クリフォード侯爵は、令嬢を王宮に寄越すことをかなり渋っていたから、私は断られることを予想していたのだ。しかし、令嬢は迷わずに王宮行きを決めてくれたらしい。
クリスティーナは、心から令嬢に愛されているようだ。
令嬢のクリスティーナへの思いは、親と同じ無償の愛だ。
大切なクリフォード侯爵家の御令嬢に何かあっては大変だから、お前の方で護衛騎士を付けてやってくれないか?」
「陛下。私もそのつもりでおりました。
リーゼには、近衛騎士副団長で、能力・人柄共に厚い信頼を寄せるメイナード卿に依頼します。」
「……メイナード卿は、副団長で多忙なはずだが?」
「こんな時は、経験のあるメイナード卿が適任なのです。
いざという時に、現場で上手く指揮を取ってくれるでしょう。」
「そうか……。まあ、いいだろう。
お前のことだから、たとえ能力があっても、若い独身の騎士を令嬢の側に置くのは嫌なのだろう?」
「…………はい。」
実の兄には、私の意図はバレていたようだ。
リーゼはメイナード卿を護衛騎士として紹介すると、驚くほどに喜んでくれた。
メイナード卿が、素晴らしい騎士だと理解して喜んでくれたに違いない。
若い騎士よりも、ベテランの騎士の方が安心出来るのだから当然だろう。
いつ刺客がくるのかという不安はあるものの、リーゼが王宮に来てくれたことで、クリスティーナは安心したようだ。
元気になって、食欲が戻ったクリスティーナを見た陛下や王妃殿下は、とても安堵していた。
しかし、リーゼが王宮に来た翌日の夕食時……
「叔父さま。お姉様は、今日から夕食はお姉様の家族と一緒に食べるんですって。
さっき、お姉様と一緒に食事をするためにと、お姉様のお兄さんが迎えに来たわよ。」
「アルベルト、残念だったわね。
貴方のことだから、エリーゼと一緒に夕食を食べたいからと、急いで執務を済ませて来たのでしょう?
実はクリフォード侯爵家から手紙が届いて、家族がエリーゼを心配しているから、夕食くらいは一緒に過ごさせて欲しいと頼まれてしまったのよ。
流石にそれは断れなかったわ。」
「そうでしたか……。クリフォード侯爵家からしたら、心配するのは当然でしょうね。」
「……ぷっ、くっ、くっ!
叔父上、残念でしたね。」
甥のエドワードが吹き出しているが、アイツの本性が極悪人なのは知っている。
何が〝残念でしたね〟だ?楽しんでいるクセに。
しかし、あのクリフォード卿が、わざわざリーゼと夕食を食べるために、迎えに来たなんて信じられない。
義兄という立場のクリフォード卿を何故か警戒してしまう。
更に後日、マクファーデン公爵家の配下の、レストン子爵家の令息が、メイナード卿が不在の夜間にリーゼに近付こうとしていたと報告がある。
やはりあの女は、予想通りに自分の手先を送り込んで来たようだ。
レストン子爵令息には、メイナード卿と私から、必要以上にリーゼに近づくなと、他の若い近衛騎士の前で見せしめとして注意してやることにした。
「レストン卿は、マクファーデン公爵令嬢に恋慕しているのかと思っていたよ。
マクファーデン公爵令嬢とクリフォード侯爵令嬢は、かなり違うタイプだと思うのだが、レストン卿の女性の好みの範囲は随分と広いようだ。」
「私の帰った後に、お前が夜勤の警備担当という立場でありながら、何の用もないのに、図々しく令嬢に話しかけていたという報告があった。
その気の緩みが、刺客に忍び込まれる隙を与えるのだ。
女あさりは、別の所でやれ!!」
「……も、申し訳ありませんでした。」
「もしレストン卿に、クリフォード侯爵令嬢に近付けと命令した者がいたとしたら、王弟である私が直接話をつけてやるから、その者をすぐに呼んで来い。
まさか……、マクファーデン公爵令嬢ではないよな?」
「ち、違います。わ、私が全て悪いのです。」
「分かればいい!他の者達も、勤務中に気を緩めるな!」
「「はい!」」
恐ろしい上官と評判のメイナード卿に睨まれて、レストン卿は一瞬で顔色を悪くしていた。
レストン卿は、殿下の圧のある笑顔の方が恐ろしいですよと言っていたが、そんなことはない。
それから少しして、リーゼが王宮の生活に慣れて来た頃だったと思う。
最悪の事態が起きてしまうのである。
王宮内にある王族専用の場所で、侍女や騎士達と遊んでいる時に、不審な人物に襲われそうになったところを、異変に気付いた騎士が駆けつけ、難を逃れたらしい。
しかしクリスティーナは、恐怖から深く傷付き、食事も拒否して部屋に籠ってしまうのであった。
クリスティーナを狙ったのは、恐らくラリーア国の者に違いない。
刺客に逃げられてしまったので証拠はないが、それ以外には考えられなかった。国外にいるクリスティーナを、今更狙うだなんて、怒りで震えそうになる。
クリスティーナは、〝お姉様に会いたい。お姉様と二人であのお家に帰りたい。ここは怖い人が来るから嫌だ。港町が楽しかった。〟などと口にして、落ち込んでしまい、そんなクリスティーナを見て、陛下や王妃殿下が苦しそうにしている。
そんな日々を過ごしていたある日、ついに陛下は苦渋の決断をした。
リーゼに王宮に来てもらい、クリスティーナの側にいてもらえないかを、クリフォード侯爵家に頼んでみようと言うのだ。
私は反対だった。クリスティーナの側にいるということは、何かあれば一緒にいる者も危険に晒されることになるからだ。
しかし、リーゼはすぐに王宮に来てくれることになる。
「アル。クリフォード侯爵は、令嬢を王宮に寄越すことをかなり渋っていたから、私は断られることを予想していたのだ。しかし、令嬢は迷わずに王宮行きを決めてくれたらしい。
クリスティーナは、心から令嬢に愛されているようだ。
令嬢のクリスティーナへの思いは、親と同じ無償の愛だ。
大切なクリフォード侯爵家の御令嬢に何かあっては大変だから、お前の方で護衛騎士を付けてやってくれないか?」
「陛下。私もそのつもりでおりました。
リーゼには、近衛騎士副団長で、能力・人柄共に厚い信頼を寄せるメイナード卿に依頼します。」
「……メイナード卿は、副団長で多忙なはずだが?」
「こんな時は、経験のあるメイナード卿が適任なのです。
いざという時に、現場で上手く指揮を取ってくれるでしょう。」
「そうか……。まあ、いいだろう。
お前のことだから、たとえ能力があっても、若い独身の騎士を令嬢の側に置くのは嫌なのだろう?」
「…………はい。」
実の兄には、私の意図はバレていたようだ。
リーゼはメイナード卿を護衛騎士として紹介すると、驚くほどに喜んでくれた。
メイナード卿が、素晴らしい騎士だと理解して喜んでくれたに違いない。
若い騎士よりも、ベテランの騎士の方が安心出来るのだから当然だろう。
いつ刺客がくるのかという不安はあるものの、リーゼが王宮に来てくれたことで、クリスティーナは安心したようだ。
元気になって、食欲が戻ったクリスティーナを見た陛下や王妃殿下は、とても安堵していた。
しかし、リーゼが王宮に来た翌日の夕食時……
「叔父さま。お姉様は、今日から夕食はお姉様の家族と一緒に食べるんですって。
さっき、お姉様と一緒に食事をするためにと、お姉様のお兄さんが迎えに来たわよ。」
「アルベルト、残念だったわね。
貴方のことだから、エリーゼと一緒に夕食を食べたいからと、急いで執務を済ませて来たのでしょう?
実はクリフォード侯爵家から手紙が届いて、家族がエリーゼを心配しているから、夕食くらいは一緒に過ごさせて欲しいと頼まれてしまったのよ。
流石にそれは断れなかったわ。」
「そうでしたか……。クリフォード侯爵家からしたら、心配するのは当然でしょうね。」
「……ぷっ、くっ、くっ!
叔父上、残念でしたね。」
甥のエドワードが吹き出しているが、アイツの本性が極悪人なのは知っている。
何が〝残念でしたね〟だ?楽しんでいるクセに。
しかし、あのクリフォード卿が、わざわざリーゼと夕食を食べるために、迎えに来たなんて信じられない。
義兄という立場のクリフォード卿を何故か警戒してしまう。
更に後日、マクファーデン公爵家の配下の、レストン子爵家の令息が、メイナード卿が不在の夜間にリーゼに近付こうとしていたと報告がある。
やはりあの女は、予想通りに自分の手先を送り込んで来たようだ。
レストン子爵令息には、メイナード卿と私から、必要以上にリーゼに近づくなと、他の若い近衛騎士の前で見せしめとして注意してやることにした。
「レストン卿は、マクファーデン公爵令嬢に恋慕しているのかと思っていたよ。
マクファーデン公爵令嬢とクリフォード侯爵令嬢は、かなり違うタイプだと思うのだが、レストン卿の女性の好みの範囲は随分と広いようだ。」
「私の帰った後に、お前が夜勤の警備担当という立場でありながら、何の用もないのに、図々しく令嬢に話しかけていたという報告があった。
その気の緩みが、刺客に忍び込まれる隙を与えるのだ。
女あさりは、別の所でやれ!!」
「……も、申し訳ありませんでした。」
「もしレストン卿に、クリフォード侯爵令嬢に近付けと命令した者がいたとしたら、王弟である私が直接話をつけてやるから、その者をすぐに呼んで来い。
まさか……、マクファーデン公爵令嬢ではないよな?」
「ち、違います。わ、私が全て悪いのです。」
「分かればいい!他の者達も、勤務中に気を緩めるな!」
「「はい!」」
恐ろしい上官と評判のメイナード卿に睨まれて、レストン卿は一瞬で顔色を悪くしていた。
レストン卿は、殿下の圧のある笑顔の方が恐ろしいですよと言っていたが、そんなことはない。
それから少しして、リーゼが王宮の生活に慣れて来た頃だったと思う。
最悪の事態が起きてしまうのである。
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