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閑話 義兄
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初対面である私に酷い態度を取られたら、王弟殿下を誑かした、醜い女の本性のようなものが出るのではないかと考えたのだが、エリーゼの反応は淡々としたものであった。
エリーゼは、何かを諦めたかのような表情に見えた。
元々、何も求めていなかったかのような、義兄の私になど、期待も興味も持っていないというような。
泣き真似でもして両親に助けを求めたり、同情を引くために、可哀相な自分のことをアピールでもするのかと思っていた私は、拍子抜けしてしまった程だ。
その後、裁判や国王陛下との食事会では、緊張しているのか、口数が少なく表情も硬かったように思う。
ずっと平民として暮らしてきて、このような場は慣れていないのだから、仕方がないのかもしれない。
そんな義妹に、初対面であのような態度を取ってしまい、何となく良心が痛むような気がしたが、気のせいだと思うことにした。
初めてお会いした王女殿下は、エリーゼを〝お姉様〟と呼び、食事会では隣の席に座り、エリーゼにべったりだった。エリーゼをとても慕っているのが分かる。
王女殿下を見つめるエリーゼの目は優しく、王女殿下を可愛がっているように見受けられた。
そしてあの王弟殿下が、ずっとエリーゼを目で追っていることにも気づいてしまった。
エリーゼの方は王女殿下だけを見ていて、王弟殿下が自分のことを見つめていることには、全く気付いていないようだ。
父の言う通り、王弟殿下の方がエリーゼに思いを寄せているようにしか見えなかった。
後日、時間がある時に、父の執務室を訪ね、エリーゼの話を詳しく聞く事が出来た。
「エリーゼは、行方不明になっていた王女殿下が赤子の頃に偶然見つけて保護し、それから王家が探し出して引き取りに来るまでずっと養育していたようだ。
オスカーは、王女殿下なら命懸けで助けるのは当然だと言ったが、エリーゼは保護した赤子が王女殿下だとは知らずに、善意で保護して、自分で働きながら王女殿下を育てたのだ。
貴族令嬢として育ったエリーゼが、平民として生活するだけでも大変なのに、働きながら子供を育てるなんて、並大抵の苦労ではなかっただろう。まだ10代の少女がだぞ?」
信じられない話だった……
「オスカーが嫌っている、濃い化粧をして、フラフラと男漁りをしているだけの、ただの貴族令嬢とエリーゼは違うのだ。
王女殿下を大切に育ててくれたエリーゼを、国王陛下と王妃殿下は気に入ってくれているようだし、王弟殿下に至ってはあんな感じだ。
何の事情も知らずに、エリーゼを毛嫌いするのは、お前の評価を下げるだろう…。
お前の父としても言わせてもらうが、エリーゼをぞんざいに扱うことは許さない。」
「……気を付けるようにします。」
「分かればいい。
実はエリーゼは、貴族としてではなく、ずっと平民として生活することを望んでいたようだ。
事件に巻き込まれた事がきっかけになって、うちに来たようなものだから、仲良くすることが出来なくても、義兄として義妹を見守るくらいのことはしてやって欲しい。
頼んだぞ、オスカー。」
「……はい。」
父から知らされた話は私にとって衝撃的すぎた。
今まで自分が見てきた女とは、あまりにも違い過ぎて、エリーゼにどのように接すればいいのかが分からない。
ただ……、今の私のままではいけないということだけは分かった。
王宮で文官として働いていると、色々な噂話を耳にする。
最近よく同僚達から聞かされるのは、王弟殿下とエリーゼが恋仲なのではないかという噂話だった。
王弟殿下が、オルダー伯爵家からリーゼを救出した時には、直接、殿下がエリーゼを抱き抱えて救出したとか、エリーゼが療養していた所に、殿下がよくお忍びで会いに行っていたとか、そんな話だ。
エリーゼは殿下に恋をしているようには見えなかったから、私は噂話を聞いても軽く否定するようにしていたのだが、噂話は一向に収まらない。
王家としても、こんな噂話がいつまでも続くようなら、普通なら火消しをしてもいいはずなのに、傍観しているのではないかと思ってしまう。
もしかして、最近社交をするようになったエリーゼが、殿下との関係を自慢して、噂を流しているのか?
女は二面性があるから、エリーゼだって、裏では何をしているか分からない。
まだあの女を信用出来ないと、この時の私は思っていた。
しかし、そんなエリーゼと一緒に夜会に参加すると、必死になって噂話を否定する彼女の姿があった。
そして…
「私にとっては、厄介な噂話としか思えませんわ。
令嬢達には目の敵にされますし、こんな噂話があったら、私の婚約者が見つからなくなってしまう可能性もあるので、ハッキリと噂話を否定していますのよ。
それにも関わらず、なかなか噂話が収まらないのも不思議ですが。」
エリーゼが心の底から、この噂話を嫌がっていることが伝わる言葉だった。
そう言えば、父はエリーゼが平民の生活を望んでいるということを話していた。
平民の生活を望むエリーゼが、殿下と親しくしたいと思うはずがないのだ。
やはりエリーゼは、私の大嫌いな貴族令嬢達とは違うということを認めなければならない。
初めて会った時から、酷い態度を取り続けた私だが、これからは家族として、この義妹を支えていきたいと感じた瞬間だった。
エリーゼは、何かを諦めたかのような表情に見えた。
元々、何も求めていなかったかのような、義兄の私になど、期待も興味も持っていないというような。
泣き真似でもして両親に助けを求めたり、同情を引くために、可哀相な自分のことをアピールでもするのかと思っていた私は、拍子抜けしてしまった程だ。
その後、裁判や国王陛下との食事会では、緊張しているのか、口数が少なく表情も硬かったように思う。
ずっと平民として暮らしてきて、このような場は慣れていないのだから、仕方がないのかもしれない。
そんな義妹に、初対面であのような態度を取ってしまい、何となく良心が痛むような気がしたが、気のせいだと思うことにした。
初めてお会いした王女殿下は、エリーゼを〝お姉様〟と呼び、食事会では隣の席に座り、エリーゼにべったりだった。エリーゼをとても慕っているのが分かる。
王女殿下を見つめるエリーゼの目は優しく、王女殿下を可愛がっているように見受けられた。
そしてあの王弟殿下が、ずっとエリーゼを目で追っていることにも気づいてしまった。
エリーゼの方は王女殿下だけを見ていて、王弟殿下が自分のことを見つめていることには、全く気付いていないようだ。
父の言う通り、王弟殿下の方がエリーゼに思いを寄せているようにしか見えなかった。
後日、時間がある時に、父の執務室を訪ね、エリーゼの話を詳しく聞く事が出来た。
「エリーゼは、行方不明になっていた王女殿下が赤子の頃に偶然見つけて保護し、それから王家が探し出して引き取りに来るまでずっと養育していたようだ。
オスカーは、王女殿下なら命懸けで助けるのは当然だと言ったが、エリーゼは保護した赤子が王女殿下だとは知らずに、善意で保護して、自分で働きながら王女殿下を育てたのだ。
貴族令嬢として育ったエリーゼが、平民として生活するだけでも大変なのに、働きながら子供を育てるなんて、並大抵の苦労ではなかっただろう。まだ10代の少女がだぞ?」
信じられない話だった……
「オスカーが嫌っている、濃い化粧をして、フラフラと男漁りをしているだけの、ただの貴族令嬢とエリーゼは違うのだ。
王女殿下を大切に育ててくれたエリーゼを、国王陛下と王妃殿下は気に入ってくれているようだし、王弟殿下に至ってはあんな感じだ。
何の事情も知らずに、エリーゼを毛嫌いするのは、お前の評価を下げるだろう…。
お前の父としても言わせてもらうが、エリーゼをぞんざいに扱うことは許さない。」
「……気を付けるようにします。」
「分かればいい。
実はエリーゼは、貴族としてではなく、ずっと平民として生活することを望んでいたようだ。
事件に巻き込まれた事がきっかけになって、うちに来たようなものだから、仲良くすることが出来なくても、義兄として義妹を見守るくらいのことはしてやって欲しい。
頼んだぞ、オスカー。」
「……はい。」
父から知らされた話は私にとって衝撃的すぎた。
今まで自分が見てきた女とは、あまりにも違い過ぎて、エリーゼにどのように接すればいいのかが分からない。
ただ……、今の私のままではいけないということだけは分かった。
王宮で文官として働いていると、色々な噂話を耳にする。
最近よく同僚達から聞かされるのは、王弟殿下とエリーゼが恋仲なのではないかという噂話だった。
王弟殿下が、オルダー伯爵家からリーゼを救出した時には、直接、殿下がエリーゼを抱き抱えて救出したとか、エリーゼが療養していた所に、殿下がよくお忍びで会いに行っていたとか、そんな話だ。
エリーゼは殿下に恋をしているようには見えなかったから、私は噂話を聞いても軽く否定するようにしていたのだが、噂話は一向に収まらない。
王家としても、こんな噂話がいつまでも続くようなら、普通なら火消しをしてもいいはずなのに、傍観しているのではないかと思ってしまう。
もしかして、最近社交をするようになったエリーゼが、殿下との関係を自慢して、噂を流しているのか?
女は二面性があるから、エリーゼだって、裏では何をしているか分からない。
まだあの女を信用出来ないと、この時の私は思っていた。
しかし、そんなエリーゼと一緒に夜会に参加すると、必死になって噂話を否定する彼女の姿があった。
そして…
「私にとっては、厄介な噂話としか思えませんわ。
令嬢達には目の敵にされますし、こんな噂話があったら、私の婚約者が見つからなくなってしまう可能性もあるので、ハッキリと噂話を否定していますのよ。
それにも関わらず、なかなか噂話が収まらないのも不思議ですが。」
エリーゼが心の底から、この噂話を嫌がっていることが伝わる言葉だった。
そう言えば、父はエリーゼが平民の生活を望んでいるということを話していた。
平民の生活を望むエリーゼが、殿下と親しくしたいと思うはずがないのだ。
やはりエリーゼは、私の大嫌いな貴族令嬢達とは違うということを認めなければならない。
初めて会った時から、酷い態度を取り続けた私だが、これからは家族として、この義妹を支えていきたいと感じた瞬間だった。
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