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閑話 義兄
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ある日、父の王宮の執務室に呼び出された私は、驚くべきことを伝えられる。
それは、行方不明になっていた私の従兄妹が見つかったので、うちの侯爵家の娘として迎えたいという話であった。
父の妹が嫁いだステール伯爵家が数年前に没落し、私の従兄妹になる令嬢が行方不明になっていたことや、その従兄妹が行方不明になる前に、父が養子縁組を済ませていて、うちの侯爵家に籍があることは知っていたのだが……
「父上…。その平民の女は、本当に私の従兄妹なのでしょうか?
父上と同じ色を持ち、従兄妹と同じ年齢だという理由だけで、本人だと判断したのではないのですか?」
「疑い深いお前のことだから、そう言うだろうと思っていたが、あの令嬢は間違いなく私の姪だ。
王弟殿下が偶然見つけて下さったので、会いに行ってきたのだが、昔のアンジェラにそっくりで、言葉遣いや所作は平民とは思えなかったし、アンジェラやステール伯爵のことも知っていた。姪のエリーゼで間違いない。」
「そう言えば確か…、王弟殿下が平民に恋人がいると噂になっていましたが、もしかしてその女のことでは?
殿下を誑かすような、尻軽の女が従兄妹になるなんて、ハァー…。
我が家門の恥にならないように、父上と母上で厳しく躾けて下さいよ。」
「オスカー!会う前から、そのように決めつけるものではない。
エリーゼは、王女殿下をお助けしたことが評価されて、国王陛下や王妃殿下からも認められているのだ。」
「…助ける?相手が王女殿下なら、命懸けでお助けするのは、当然のことだと思いますが。
では仕事がありますので、私はそろそろ戻らせてもらいます。」
父のため息が聞こえたような気がしたが、仕事が忙しい私は、すぐに職場に戻ることにした。
正直なところ、私は令嬢が嫌いだったので、急に従兄妹が見つかったと言われても、歓迎出来るような気持ちにはならなかったのだ。
どうせ義理の兄になる私に対して、気持ち悪いくらいに媚びてくるに決まっている。
養女という立場が弱いことを理解して、次期当主である私に気に入ってもらえるようにと、計算高く行動するだろう。
まだ顔すら合わせていないが、すでに私は不愉快な気持ちになっていた。
私は、筆頭侯爵家の跡取りという立場であったので、私の婚約者の座を狙って、昔から令嬢達からしつこく言い寄られたりすることが多かったと思う。
私に興味があるのではなく、私の肩書きと身分だけを見て擦り寄ってくる令嬢が多く、社交の場ではうんざりする事が多かった。
臭い香水をプンプンさせて、派手に着飾り、男に媚を売る令嬢ばかりを見てきた私は、気がつくと令嬢と関わるのが大嫌いな男になっていた。
そして王弟殿下だが、見目麗しい殿下を狙う令嬢も沢山いたのに、殿下もそんな令嬢達の本心を見抜いていたのか、全く相手にしていなかったように思う。
その殿下を落とすなんて、平民暮らしをしていた私の従兄妹は、男慣れした尻軽に違いない。
気を付けなければ…。
父から従兄妹の話を聞いた後、しばらくしてから、私はまた父の王宮の執務室に呼び出される。
「……は?裁判って、その女は何をやらかしたのです?」
「エリーゼは何も悪くない!被害者だ。
エリーゼを王弟殿下の恋人だと勘違いした、オルダー伯爵令嬢が、エリーゼを利用してやろうと攫って、伯爵家の離れに監禁し、暴行までしたのだ。
王弟殿下は怒り狂い、オルダー伯爵家に騎士団を引き連れて乗り込み、伯爵や令嬢、子息を拘束し、エリーゼを救出して来たのだ。」
「あのオルダー伯爵令嬢ならやりかねないですね。
その女…、ではなくエリーゼですか?彼女も、身の程を弁えずに、殿下に近付いたりするから痛い目をみるのですよ。
今回のことに懲りて、これからは己の身の振り方を考えてくれればいいのですがね。」
自分では当たり前のことを口にしていたつもりであったのだが、そんな私に父は、冷ややかな視線を向けているのが分かった。
「エリーゼは殿下とは何の関係もないと言っていた。
それよりも殿下の方がエリーゼに思いを寄せているかのように見える。
オスカー。エリーゼはお前の義妹になるのだから、義兄として相応しい振る舞いをするようにしろ。
これは私からの命令だ。」
父がここまで言うほどの人物なのか?
殿下の方が、エリーゼに夢中になっているなんて信じられない。
「ええ。家庭不和は家門の評判を落としますからね。
私なりに気を付けるようにします。」
その後、またしばらくして、裁判の日を迎える。
裁判前に、控室で待つ私の前に両親と一緒に現れたのは、父と同じピンクブロンドの髪にエメラルドのような緑色の目をした令嬢だった。
なるほど…。この美しい容姿で、あの殿下を誑かしたのだな。
母から私を紹介された義妹は、早速私に挨拶してくる。
「オスカーだ。君の話は父から聞いている。
見目好しで、王弟殿下に気に入られたからと、貴族社会を侮っていると痛い目に遭うだろうから、気を付けた方がいいだろう。
うちの家門に泥を塗るようなことをしたら、すぐに出て行ってもらうから、そのことを肝に銘じるようにな。」
何事も始めが肝心だと思った私は、初対面の義妹に対して、突き放すような言葉を投げかけていた。
それは、行方不明になっていた私の従兄妹が見つかったので、うちの侯爵家の娘として迎えたいという話であった。
父の妹が嫁いだステール伯爵家が数年前に没落し、私の従兄妹になる令嬢が行方不明になっていたことや、その従兄妹が行方不明になる前に、父が養子縁組を済ませていて、うちの侯爵家に籍があることは知っていたのだが……
「父上…。その平民の女は、本当に私の従兄妹なのでしょうか?
父上と同じ色を持ち、従兄妹と同じ年齢だという理由だけで、本人だと判断したのではないのですか?」
「疑い深いお前のことだから、そう言うだろうと思っていたが、あの令嬢は間違いなく私の姪だ。
王弟殿下が偶然見つけて下さったので、会いに行ってきたのだが、昔のアンジェラにそっくりで、言葉遣いや所作は平民とは思えなかったし、アンジェラやステール伯爵のことも知っていた。姪のエリーゼで間違いない。」
「そう言えば確か…、王弟殿下が平民に恋人がいると噂になっていましたが、もしかしてその女のことでは?
殿下を誑かすような、尻軽の女が従兄妹になるなんて、ハァー…。
我が家門の恥にならないように、父上と母上で厳しく躾けて下さいよ。」
「オスカー!会う前から、そのように決めつけるものではない。
エリーゼは、王女殿下をお助けしたことが評価されて、国王陛下や王妃殿下からも認められているのだ。」
「…助ける?相手が王女殿下なら、命懸けでお助けするのは、当然のことだと思いますが。
では仕事がありますので、私はそろそろ戻らせてもらいます。」
父のため息が聞こえたような気がしたが、仕事が忙しい私は、すぐに職場に戻ることにした。
正直なところ、私は令嬢が嫌いだったので、急に従兄妹が見つかったと言われても、歓迎出来るような気持ちにはならなかったのだ。
どうせ義理の兄になる私に対して、気持ち悪いくらいに媚びてくるに決まっている。
養女という立場が弱いことを理解して、次期当主である私に気に入ってもらえるようにと、計算高く行動するだろう。
まだ顔すら合わせていないが、すでに私は不愉快な気持ちになっていた。
私は、筆頭侯爵家の跡取りという立場であったので、私の婚約者の座を狙って、昔から令嬢達からしつこく言い寄られたりすることが多かったと思う。
私に興味があるのではなく、私の肩書きと身分だけを見て擦り寄ってくる令嬢が多く、社交の場ではうんざりする事が多かった。
臭い香水をプンプンさせて、派手に着飾り、男に媚を売る令嬢ばかりを見てきた私は、気がつくと令嬢と関わるのが大嫌いな男になっていた。
そして王弟殿下だが、見目麗しい殿下を狙う令嬢も沢山いたのに、殿下もそんな令嬢達の本心を見抜いていたのか、全く相手にしていなかったように思う。
その殿下を落とすなんて、平民暮らしをしていた私の従兄妹は、男慣れした尻軽に違いない。
気を付けなければ…。
父から従兄妹の話を聞いた後、しばらくしてから、私はまた父の王宮の執務室に呼び出される。
「……は?裁判って、その女は何をやらかしたのです?」
「エリーゼは何も悪くない!被害者だ。
エリーゼを王弟殿下の恋人だと勘違いした、オルダー伯爵令嬢が、エリーゼを利用してやろうと攫って、伯爵家の離れに監禁し、暴行までしたのだ。
王弟殿下は怒り狂い、オルダー伯爵家に騎士団を引き連れて乗り込み、伯爵や令嬢、子息を拘束し、エリーゼを救出して来たのだ。」
「あのオルダー伯爵令嬢ならやりかねないですね。
その女…、ではなくエリーゼですか?彼女も、身の程を弁えずに、殿下に近付いたりするから痛い目をみるのですよ。
今回のことに懲りて、これからは己の身の振り方を考えてくれればいいのですがね。」
自分では当たり前のことを口にしていたつもりであったのだが、そんな私に父は、冷ややかな視線を向けているのが分かった。
「エリーゼは殿下とは何の関係もないと言っていた。
それよりも殿下の方がエリーゼに思いを寄せているかのように見える。
オスカー。エリーゼはお前の義妹になるのだから、義兄として相応しい振る舞いをするようにしろ。
これは私からの命令だ。」
父がここまで言うほどの人物なのか?
殿下の方が、エリーゼに夢中になっているなんて信じられない。
「ええ。家庭不和は家門の評判を落としますからね。
私なりに気を付けるようにします。」
その後、またしばらくして、裁判の日を迎える。
裁判前に、控室で待つ私の前に両親と一緒に現れたのは、父と同じピンクブロンドの髪にエメラルドのような緑色の目をした令嬢だった。
なるほど…。この美しい容姿で、あの殿下を誑かしたのだな。
母から私を紹介された義妹は、早速私に挨拶してくる。
「オスカーだ。君の話は父から聞いている。
見目好しで、王弟殿下に気に入られたからと、貴族社会を侮っていると痛い目に遭うだろうから、気を付けた方がいいだろう。
うちの家門に泥を塗るようなことをしたら、すぐに出て行ってもらうから、そのことを肝に銘じるようにな。」
何事も始めが肝心だと思った私は、初対面の義妹に対して、突き放すような言葉を投げかけていた。
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