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二度目の話

エピローグ

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 お義兄様からの突然の告白やキスは、私にとって嬉しいことではあったものの、あまりにも衝撃的過ぎて、今の自分の置かれた状況をきちんと理解するまで、少し固まってしまっていた。

 お義兄様は私を愛していると言って…、何度もキスをしてきた…
 
 時間差で、例えようもない程の恥ずかしさが私を襲ってくる。

 顔が熱いわ……。
 恥ずかし過ぎて、お義兄様が見れない…


「アナ…、黙ってしまっているが、そんなに私からキスをされたのは嫌だったか?
 ここまでしないと、アナは私の気持ちを信じてくれないだろうし、私を異性として意識してくれないだろう?」

「…お義兄様は、学生時代に秘密の恋人がいましたよね?
 学園の校舎裏で一緒に過ごすくらい仲の良い方が。」

 私は思い切って、ずっと気になっていたお義兄様の秘密の恋人のことを聞いてみることにした。

「学園の校舎裏…?顔も名前も知らない令嬢に呼び出されて、ストレスを感じたという記憶しかない場所だが。」

 え…?恋人と過ごす為に校舎裏に行っていたのではなくて、告白で呼び出されて行っていただけ?
 
「何で学園の令嬢達は、何かにつけて校舎裏に呼び出すのだろうな?苦痛でしかなかった。
 アナが私のバイオリンを聴きに学園の発表会に来てくれた時にも、私の友人を使って呼び出されたな。
 迷惑だった記憶しか残っていない。」

 お義兄様が心底嫌そうに話している…
 私の勘違いだったの?

「でもお義兄様は、マニー国で真剣にアクセサリーを選んでいましたわよね?
 あれは、恋人に贈り物を選んでいたのでは?」

「ハァー…。
 あの時はアナのデビュタント前だったのだから、宝石店に行けば、真剣になるだろう?
 マニー国はブルーダイヤの産出国だから、質のいいブルーダイヤでアナのデビュタントに着けるネックレスを作りたかったんだ。」

 そういえば、デビュタントのネックレスは、ブルーダイヤだった…

「マニー国では、美しすぎるアンゲラー公爵令嬢とお義兄様は仲良さそうにしていましたし、お義兄様はあんなタイプの方がお好きなのかと思っていました。」

「アンゲラー公爵令嬢は、今だから言えるが、令嬢と言うよりは令息みたいな人だぞ。
 友人としては付き合いやすい人だと思う。ただの学友でしかない。」


 え……、あんなに悩んでいたのに、全て私の思い込みだったの…


「ハァー…。
 アナは前からよく私の恋を応援しているとか言っていて、私はその度に傷付いていたのだが、そういうことだったのか。
 何度も言うが、私はずっとアナだけが好きだった。
 今すぐには無理でも、私を一人の男として見てくれないか?
 愛しているんだ。」

 気づくとお義兄様は、私の手を両手で握っていた。

 何をやるにしても余裕だったお義兄様が、必死な顔をしている。

「お義兄様を信じてもいいのでしょうか?」

「信じて欲しいと思っている。
 アナ…、頼む!愛しているんだ。」


 素直に嬉しかった…。


「ふふっ…。
 鋭いはずのお義兄様が気付いていなかったようですが…、私もお義兄様が好きです。
 一人の男性として愛していますわ。」

「アナ…!それは本当か?
 その言葉は、もう取り消せないぞ。」

「はい。お義兄様こそ、私を愛していると言ったことを取り消さないで下さい。」

「嬉しい…。
 私はアナを幸せにすると約束する。」

 


 私の気持ちを伝えた後のお義兄様は、行動が早かった。
 すぐに両親に私と婚約したいことを頼んでくれたのだ。
 ブレア公爵令息のことで、気持ちが沈んでいた両親は、お義兄様がやはり一番だと言い出して、すんなりと婚約を認めてくれたのだ。
 気づくとお義兄様と私は正式な婚約者になっていた。
 有能なお義兄様は、こんな時の仕事も早いようだ。


 そして今、お義兄様は婚約式で着る私のドレスやアクセサリー選びに夢中な様子。
 そんなお義兄様に両親が若干引いていた…。

 お義兄様は、私が卒業したらすぐにでも結婚したいと考えているようで、婚約式を終えたら、すぐに結婚式の計画を立てるつもりでいるらしい。
 お義兄様がこんなに強引だとは思わなかった。


 お義兄様との婚約は友人達も祝福してくれる。


「やはりアナは、お義兄様とそうなるだろうって思っていたわよ。」

「私もよ。だってアナは、お義兄様の話ばかりで他の令息のことなんて見向きもしないんだもの。
 あのミルズ先生の誘惑にも負けないくらい、一途だったわよね!」
 
 友人達は全てお見通しだったようだ。

「アナ、良かったわね。
 親友のアナを取られたような気持ちになって寂しい気がするけど、私はアナの幸せを祈っているわ。」

「チェルシー、ありがとう。
 チェルシーも王太子殿下の婚約者候補として、お茶会をしているのでしょ?
 私はチェルシーなら王太子殿下に相応しいと思っているの。
 殿下と仲良くね!」

「アナったら、まだ決まってないのに、プレッシャーをかけるのはやめてちょうだい。」

 少し前に、王太子殿下にチェルシーを勧めたら、チェルシーは新たな婚約者候補に選ばれてしまったらしい。
 本人は初めは嫌がっていたが、殿下のお人柄に惹かれつつあるようで、最近ではお茶会で王太子殿下にお会いすることを楽しみにしているようだ。
 優秀なチェルシーならきっと、王太子殿下を支えることが出来ると思っている。

 そしてブレア様だが、あの方は今、マニー国で学んでいると聞いた。
 お茶会でブレア様のお母様である公爵夫人にお会いする機会があり教えてもらえたことだが、夢中になって研究しているから、しばらくは帰国しないだろうとのことだ。
 公爵夫人からは、ブレア様のことはいいから、幸せになりなさいと言われてしまった。息子も貴女の幸せを望んでいるからと…。
 
 ブレア公爵夫人の目を見てふと思ったことがある。
 もしかしたら、公爵夫人も記憶があるのかもしれない。
 私を見る目が優しいし、社交の場で会った時の私への態度が親しみを感じずにはいられないのだ。

 いつかブレア様が帰国した時に、貴方のお陰で私は幸せになれたということをお伝えしたいと思っている。



 私がかつて愛した人達が幸せになれますように…



「アナ。明日は婚約式を迎えるが、やっぱり嫌だなんて言わないよな?」

「お義兄様、私はそんなこと言いませんわ。」

「アナ、悪いな…。もしそんなことを言っても、もう離してやれないんだ。」

「分かっていますわ。
 お義兄様から逃げようとしても、すぐに捕まってお説教されそうなので、私は無理に逃げるようなことはしません。」

「ふっ…。アナは私をよく分かっているようだ。」

「お義兄様をずっと見てきましたからね。
 一度目の時からずっと…。」

「アナ…、私は君と婚約出来ると思っていなかったから、本当に嬉しいんだ。
 ずっと一緒にいような。」

「はい。」

 私も、あのお義兄様とこんな関係になるだなんて思っていなかった。
 一度目の時のお義兄様と私は仲良くはなかったから、こんな風に微笑み合うことはなかったし、お義兄様は常に無表情で近寄り難い人だった。
 あの時の私が、お義兄様の本当の優しさに気付いたのは、自分の死の直前だった…。


 今世ではお義兄様と一緒に絶対に幸せになるの!

 最強のお義兄様が私の婚約者になってくれたのだから、絶対に長生きしてやるんだから!


 明日の婚約式を前に、一人で気合を入れる私だった。

 


 終わり


 

 これで完結になります。
 最後まで読んで下さった方に感謝いたします。
 ありがとうございました。
 
 

 
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