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二度目の話

閑話 義兄 ルーク

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 暗殺に関わっていた隣国王女とフロスト侯爵家の断罪を済ませた後、アナはすぐに王太子殿下の婚約者候補を辞退する。
 そのタイミングで今度は、ブレア公爵家からまた婚約の申込みがくるのであった。

 そして、今まで頑なにブレア公爵令息を避けていたアナが、ブレア公爵家のお茶会に行くと言う。
 やはり、アナはあの男に未練があるのかもしれない……

 茶会から帰って来たアナの様子がおかしいことに気付いた私は、すぐにアナから話を聞くことにした。

 まさかあの男まで記憶持ちだったとは……
 アナを助ける為に、ずっと暗殺者組織を監視していたとか、アナを守る為に公爵家の影に護衛をさせていたとか……

 ブレア公爵令息はアナを愛している。
 そして、アナもあの男を……

 ブレア公爵令息は、アナを死なせてしまったことをずっと後悔していたのだろう。
 ずっとアナだけを愛していたに違いない。
 そんな男に、私は勝てるはずはないのだ。


 大切なアナの幸せのために、私は黙って身を引くべきなのかもしれない。


 無力感に苛まれる日々を送っていた私だったが、突然、体調を崩してしまうのであった。


 体力に自信があったのに、いつまでたっても良くならず、日に日に弱っていく。
 アナは、そんな私を毎日看病してくれていた。
 まだよく分からない病で、アナに感染する危険もあるのに、私のために側にいてくれたのだ。

 やはり私はアナを愛している。病は辛いが、アナが私の側に居てくれることが嬉しくて仕方がない。

 私はこのまま死んでもいいかもしれない……


 どれくらい臥せっていたのだろうか?

 私はまだ生きているようだ。
 もうすぐ死ぬのかと思っていたのに、体が楽になった気がする。


「ルーク……、咳き込みがなくなって、良く眠れるようになったわね。
 薬が効いているのね。
 ……っ! ……良かったわ。」

 義母が枕元で涙を流していた。

「……薬が、……あったのですか?」

「ブレア公爵令息が、公爵家で開発したという薬をくれたのよ。
 アナが元気がないことを知った令息が、ルークが病であることを聞いて、公爵家の薬師まで連れて来てくれたの。」

 ブレア公爵家の薬は良く効き、私は少しずつ体力が回復していった。

「ブレア公爵令息は、平民でこの病に苦しんでいる人達にも薬を無償で配ってあげたみたいよ。
 本当に素晴らしい方だわ。」

 義母はブレア公爵令息を褒めちぎっている。
 私もあの男を認めるしかなかった。

 アナを一途に愛し、ずっと守ってくれていただけでなく、私の命まで助けてくれたのだ。
 アナもきっとあの男となら幸せになれるだろう。
 今は辛いが、アナの幸せは私の幸せなのだと思うことにした。


 体調が戻った私は、久しぶりに学生時代の友人達と会うことになる。


「ルーク。コールマン嬢は、王太子殿下の婚約者候補を辞退したらしいな。
 ルークと婚約するのか?」

「いや。私達は婚約はしない。」

「……は? もしかして、あのくだらない噂話は本当なのか?」

「……噂話? どんな噂だ?」

 友人達が教えてくれた噂話は酷いものだった。

 それは、アナが貴族学園のミルズ先生と恋仲だという噂話なのだが、令嬢に大人気のミルズ先生はアナをいつも側に置き、放課後も係の仕事だと言って二人で過ごしているというものだった。
 ミルズ先生との身分違いの恋を貫く為に、王太子殿下の婚約者候補を辞退したアナを、下位貴族の令嬢達が中心になって応援しているとか……

「バカバカしい。そんな噂話は全て嘘だ。
 あのミルズとか言う教師は、幼い頃のアナを見下していて、余りに酷い態度だったから家庭教師を断ったことがある。
 アナがあんな男に惹かれるはずはない。」

「それが……、その教師は今は令嬢達から大人気らしいぞ。
 優しくて面倒見がいいらしい。少し年上で大人っぽくてカッコいいと評判だと聞いた。
 まあ、コールマン嬢はしっかりしてそうだから、身分違いの恋に溺れるはずはないよな。」

「ああ。うちのアナはおっちょこちょいだが、バカではないからな。」


 そんな噂話など、私は全く信じていなかったのだが……


 後日、アナとブレア公爵令息の縁談を私は認めたいということを話したら、アナがそのことを全く嬉しそうにしていないことに気が付いてしまった。
 
 アナはブレア公爵令息に未練があるのではなかったのか?

 もしかして……、あの噂話は本当だったのか?

 アナは学園で暗殺者に襲われそうになった時に、あの教師に助けてもらっていた。
 あの時、放課後に先生と生徒二人きりで歩いているなんて不自然だと思ったことを覚えている。
 確か……少し前に、ティアニー侯爵令息がアナを侮辱する噂話を流した時にも、あの教師が助けてくれたと言っていた。
 自分を助けてくれる人物に惹かれるのは仕方がないことだし、アナは可愛いから、あの教師がアナを好きになるのも納得だ……

 私はブレア公爵令息だから身を引こうと決めたのに、あの教師だけは認められない!!

 
 その時の私は、自分の気持ちがアナに届かないことへの苛立ちと、あの教師への嫉妬でおかしくなっていたのだと思う。


「私はブレア公爵令息なら認めるが、ミルズ先生は認めることは出来ない。」


 私はアナに強い口調で怒りをあらわにしていた気がする。
 可愛いアナに対して、こんなにも冷たい態度で話をする自分にハッとした時には遅かった。

 アナは失望したとでも言うような目で私を見ると、認めて貰えなくて結構ですと言って部屋を出て行ってしまったのだ。

 その日からアナから避けられる日々が続く。
 顔を合わせることがあっても目すら合わせてもらえなくなってしまった。

 学園から帰ってくるのも遅くなり、一緒にお茶を飲むことも出来なくなってしまったのだ。


 喪失感が私を襲ってくる……
 

 後日、あの学園での噂話を内密に調査することにした。
 調査結果を聞いた私は愕然としてしまう。
 あの噂話は、あの教師を慕う下位貴族の令嬢達が勝手に思い込んでいただけで、アナもあの教師も普通の先生と生徒の関係だというものだった。
 教科係も、成績優秀で自分に全く興味を持たないアナなら大丈夫だろうとあの教師が判断して、アナに依頼することにしたらしい。
 しかし、この噂話を聞いたアナはすぐに教科係を辞めたようだった。
 
 余裕のなかった私は、噂話の真相を確かめることなくアナを一方的に責めてしまい、アナからの信頼を失ってしまったようだ……

 強い後悔に苛まれる。

 しかし、アナがブレア公爵令息との縁談を望まないのなら、私はまだ諦めたくなかった。

 

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