99 / 102
二度目の話
閑話 義兄 ルーク
しおりを挟む
暗殺に関わっていた隣国王女とフロスト侯爵家の断罪を済ませた後、アナはすぐに王太子殿下の婚約者候補を辞退する。
そのタイミングで今度は、ブレア公爵家からまた婚約の申込みがくるのであった。
そして、今まで頑なにブレア公爵令息を避けていたアナが、ブレア公爵家のお茶会に行くと言う。
やはり、アナはあの男に未練があるのかもしれない……
茶会から帰って来たアナの様子がおかしいことに気付いた私は、すぐにアナから話を聞くことにした。
まさかあの男まで記憶持ちだったとは……
アナを助ける為に、ずっと暗殺者組織を監視していたとか、アナを守る為に公爵家の影に護衛をさせていたとか……
ブレア公爵令息はアナを愛している。
そして、アナもあの男を……
ブレア公爵令息は、アナを死なせてしまったことをずっと後悔していたのだろう。
ずっとアナだけを愛していたに違いない。
そんな男に、私は勝てるはずはないのだ。
大切なアナの幸せのために、私は黙って身を引くべきなのかもしれない。
無力感に苛まれる日々を送っていた私だったが、突然、体調を崩してしまうのであった。
体力に自信があったのに、いつまでたっても良くならず、日に日に弱っていく。
アナは、そんな私を毎日看病してくれていた。
まだよく分からない病で、アナに感染する危険もあるのに、私のために側にいてくれたのだ。
やはり私はアナを愛している。病は辛いが、アナが私の側に居てくれることが嬉しくて仕方がない。
私はこのまま死んでもいいかもしれない……
どれくらい臥せっていたのだろうか?
私はまだ生きているようだ。
もうすぐ死ぬのかと思っていたのに、体が楽になった気がする。
「ルーク……、咳き込みがなくなって、良く眠れるようになったわね。
薬が効いているのね。
……っ! ……良かったわ。」
義母が枕元で涙を流していた。
「……薬が、……あったのですか?」
「ブレア公爵令息が、公爵家で開発したという薬をくれたのよ。
アナが元気がないことを知った令息が、ルークが病であることを聞いて、公爵家の薬師まで連れて来てくれたの。」
ブレア公爵家の薬は良く効き、私は少しずつ体力が回復していった。
「ブレア公爵令息は、平民でこの病に苦しんでいる人達にも薬を無償で配ってあげたみたいよ。
本当に素晴らしい方だわ。」
義母はブレア公爵令息を褒めちぎっている。
私もあの男を認めるしかなかった。
アナを一途に愛し、ずっと守ってくれていただけでなく、私の命まで助けてくれたのだ。
アナもきっとあの男となら幸せになれるだろう。
今は辛いが、アナの幸せは私の幸せなのだと思うことにした。
体調が戻った私は、久しぶりに学生時代の友人達と会うことになる。
「ルーク。コールマン嬢は、王太子殿下の婚約者候補を辞退したらしいな。
ルークと婚約するのか?」
「いや。私達は婚約はしない。」
「……は? もしかして、あのくだらない噂話は本当なのか?」
「……噂話? どんな噂だ?」
友人達が教えてくれた噂話は酷いものだった。
それは、アナが貴族学園のミルズ先生と恋仲だという噂話なのだが、令嬢に大人気のミルズ先生はアナをいつも側に置き、放課後も係の仕事だと言って二人で過ごしているというものだった。
ミルズ先生との身分違いの恋を貫く為に、王太子殿下の婚約者候補を辞退したアナを、下位貴族の令嬢達が中心になって応援しているとか……
「バカバカしい。そんな噂話は全て嘘だ。
あのミルズとか言う教師は、幼い頃のアナを見下していて、余りに酷い態度だったから家庭教師を断ったことがある。
アナがあんな男に惹かれるはずはない。」
「それが……、その教師は今は令嬢達から大人気らしいぞ。
優しくて面倒見がいいらしい。少し年上で大人っぽくてカッコいいと評判だと聞いた。
まあ、コールマン嬢はしっかりしてそうだから、身分違いの恋に溺れるはずはないよな。」
「ああ。うちのアナはおっちょこちょいだが、バカではないからな。」
そんな噂話など、私は全く信じていなかったのだが……
後日、アナとブレア公爵令息の縁談を私は認めたいということを話したら、アナがそのことを全く嬉しそうにしていないことに気が付いてしまった。
アナはブレア公爵令息に未練があるのではなかったのか?
もしかして……、あの噂話は本当だったのか?
アナは学園で暗殺者に襲われそうになった時に、あの教師に助けてもらっていた。
あの時、放課後に先生と生徒二人きりで歩いているなんて不自然だと思ったことを覚えている。
確か……少し前に、ティアニー侯爵令息がアナを侮辱する噂話を流した時にも、あの教師が助けてくれたと言っていた。
自分を助けてくれる人物に惹かれるのは仕方がないことだし、アナは可愛いから、あの教師がアナを好きになるのも納得だ……
私はブレア公爵令息だから身を引こうと決めたのに、あの教師だけは認められない!!
その時の私は、自分の気持ちがアナに届かないことへの苛立ちと、あの教師への嫉妬でおかしくなっていたのだと思う。
「私はブレア公爵令息なら認めるが、ミルズ先生は認めることは出来ない。」
私はアナに強い口調で怒りをあらわにしていた気がする。
可愛いアナに対して、こんなにも冷たい態度で話をする自分にハッとした時には遅かった。
アナは失望したとでも言うような目で私を見ると、認めて貰えなくて結構ですと言って部屋を出て行ってしまったのだ。
その日からアナから避けられる日々が続く。
顔を合わせることがあっても目すら合わせてもらえなくなってしまった。
学園から帰ってくるのも遅くなり、一緒にお茶を飲むことも出来なくなってしまったのだ。
喪失感が私を襲ってくる……
後日、あの学園での噂話を内密に調査することにした。
調査結果を聞いた私は愕然としてしまう。
あの噂話は、あの教師を慕う下位貴族の令嬢達が勝手に思い込んでいただけで、アナもあの教師も普通の先生と生徒の関係だというものだった。
教科係も、成績優秀で自分に全く興味を持たないアナなら大丈夫だろうとあの教師が判断して、アナに依頼することにしたらしい。
しかし、この噂話を聞いたアナはすぐに教科係を辞めたようだった。
余裕のなかった私は、噂話の真相を確かめることなくアナを一方的に責めてしまい、アナからの信頼を失ってしまったようだ……
強い後悔に苛まれる。
しかし、アナがブレア公爵令息との縁談を望まないのなら、私はまだ諦めたくなかった。
そのタイミングで今度は、ブレア公爵家からまた婚約の申込みがくるのであった。
そして、今まで頑なにブレア公爵令息を避けていたアナが、ブレア公爵家のお茶会に行くと言う。
やはり、アナはあの男に未練があるのかもしれない……
茶会から帰って来たアナの様子がおかしいことに気付いた私は、すぐにアナから話を聞くことにした。
まさかあの男まで記憶持ちだったとは……
アナを助ける為に、ずっと暗殺者組織を監視していたとか、アナを守る為に公爵家の影に護衛をさせていたとか……
ブレア公爵令息はアナを愛している。
そして、アナもあの男を……
ブレア公爵令息は、アナを死なせてしまったことをずっと後悔していたのだろう。
ずっとアナだけを愛していたに違いない。
そんな男に、私は勝てるはずはないのだ。
大切なアナの幸せのために、私は黙って身を引くべきなのかもしれない。
無力感に苛まれる日々を送っていた私だったが、突然、体調を崩してしまうのであった。
体力に自信があったのに、いつまでたっても良くならず、日に日に弱っていく。
アナは、そんな私を毎日看病してくれていた。
まだよく分からない病で、アナに感染する危険もあるのに、私のために側にいてくれたのだ。
やはり私はアナを愛している。病は辛いが、アナが私の側に居てくれることが嬉しくて仕方がない。
私はこのまま死んでもいいかもしれない……
どれくらい臥せっていたのだろうか?
私はまだ生きているようだ。
もうすぐ死ぬのかと思っていたのに、体が楽になった気がする。
「ルーク……、咳き込みがなくなって、良く眠れるようになったわね。
薬が効いているのね。
……っ! ……良かったわ。」
義母が枕元で涙を流していた。
「……薬が、……あったのですか?」
「ブレア公爵令息が、公爵家で開発したという薬をくれたのよ。
アナが元気がないことを知った令息が、ルークが病であることを聞いて、公爵家の薬師まで連れて来てくれたの。」
ブレア公爵家の薬は良く効き、私は少しずつ体力が回復していった。
「ブレア公爵令息は、平民でこの病に苦しんでいる人達にも薬を無償で配ってあげたみたいよ。
本当に素晴らしい方だわ。」
義母はブレア公爵令息を褒めちぎっている。
私もあの男を認めるしかなかった。
アナを一途に愛し、ずっと守ってくれていただけでなく、私の命まで助けてくれたのだ。
アナもきっとあの男となら幸せになれるだろう。
今は辛いが、アナの幸せは私の幸せなのだと思うことにした。
体調が戻った私は、久しぶりに学生時代の友人達と会うことになる。
「ルーク。コールマン嬢は、王太子殿下の婚約者候補を辞退したらしいな。
ルークと婚約するのか?」
「いや。私達は婚約はしない。」
「……は? もしかして、あのくだらない噂話は本当なのか?」
「……噂話? どんな噂だ?」
友人達が教えてくれた噂話は酷いものだった。
それは、アナが貴族学園のミルズ先生と恋仲だという噂話なのだが、令嬢に大人気のミルズ先生はアナをいつも側に置き、放課後も係の仕事だと言って二人で過ごしているというものだった。
ミルズ先生との身分違いの恋を貫く為に、王太子殿下の婚約者候補を辞退したアナを、下位貴族の令嬢達が中心になって応援しているとか……
「バカバカしい。そんな噂話は全て嘘だ。
あのミルズとか言う教師は、幼い頃のアナを見下していて、余りに酷い態度だったから家庭教師を断ったことがある。
アナがあんな男に惹かれるはずはない。」
「それが……、その教師は今は令嬢達から大人気らしいぞ。
優しくて面倒見がいいらしい。少し年上で大人っぽくてカッコいいと評判だと聞いた。
まあ、コールマン嬢はしっかりしてそうだから、身分違いの恋に溺れるはずはないよな。」
「ああ。うちのアナはおっちょこちょいだが、バカではないからな。」
そんな噂話など、私は全く信じていなかったのだが……
後日、アナとブレア公爵令息の縁談を私は認めたいということを話したら、アナがそのことを全く嬉しそうにしていないことに気が付いてしまった。
アナはブレア公爵令息に未練があるのではなかったのか?
もしかして……、あの噂話は本当だったのか?
アナは学園で暗殺者に襲われそうになった時に、あの教師に助けてもらっていた。
あの時、放課後に先生と生徒二人きりで歩いているなんて不自然だと思ったことを覚えている。
確か……少し前に、ティアニー侯爵令息がアナを侮辱する噂話を流した時にも、あの教師が助けてくれたと言っていた。
自分を助けてくれる人物に惹かれるのは仕方がないことだし、アナは可愛いから、あの教師がアナを好きになるのも納得だ……
私はブレア公爵令息だから身を引こうと決めたのに、あの教師だけは認められない!!
その時の私は、自分の気持ちがアナに届かないことへの苛立ちと、あの教師への嫉妬でおかしくなっていたのだと思う。
「私はブレア公爵令息なら認めるが、ミルズ先生は認めることは出来ない。」
私はアナに強い口調で怒りをあらわにしていた気がする。
可愛いアナに対して、こんなにも冷たい態度で話をする自分にハッとした時には遅かった。
アナは失望したとでも言うような目で私を見ると、認めて貰えなくて結構ですと言って部屋を出て行ってしまったのだ。
その日からアナから避けられる日々が続く。
顔を合わせることがあっても目すら合わせてもらえなくなってしまった。
学園から帰ってくるのも遅くなり、一緒にお茶を飲むことも出来なくなってしまったのだ。
喪失感が私を襲ってくる……
後日、あの学園での噂話を内密に調査することにした。
調査結果を聞いた私は愕然としてしまう。
あの噂話は、あの教師を慕う下位貴族の令嬢達が勝手に思い込んでいただけで、アナもあの教師も普通の先生と生徒の関係だというものだった。
教科係も、成績優秀で自分に全く興味を持たないアナなら大丈夫だろうとあの教師が判断して、アナに依頼することにしたらしい。
しかし、この噂話を聞いたアナはすぐに教科係を辞めたようだった。
余裕のなかった私は、噂話の真相を確かめることなくアナを一方的に責めてしまい、アナからの信頼を失ってしまったようだ……
強い後悔に苛まれる。
しかし、アナがブレア公爵令息との縁談を望まないのなら、私はまだ諦めたくなかった。
128
お気に入りに追加
8,335
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる