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二度目の話

お義兄様が倒れた

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 家令からお義兄様が倒れたことを告げられて、動きの止まる私。
 お義兄様が倒れたことなんて、一度目の時の人生ではなかったはずなのに…

「…お義兄様は今はどうしているの?」

「スミス先生の診察を受けた後、今は部屋で休んでおられます。」

「スミス先生に診ていただいたのね。
 先生は何だと言っていたの?」

「それが…、はっきりしないようでして。
 風邪に似た病気ではないかと…」

「風邪で倒れるほど、そこまでお義兄様は無理をしていたの?
 いつも一緒にいたのに、全く気付かなかったわ…」

 近くでいつもお義兄様を見ていたはずの私は、何も気付けなかった…。これでは一度目のハンナの病気の時と一緒じゃないの。

 ああ、自分のおっちょこちょいに苛つく!

「いえ、お嬢様。ルーク様は午前中はお元気でした。
 午後になって急に体調不良を訴え始めたのです。
 幼い子供が風邪で発熱して、急に具合が悪くなるかのような…。」

「スミス先生は、風邪だと診断されたのね?」

「スミス先生は風邪だと断定はしておりませんでした。
 どうやら、王都の平民に同じような症状を訴える者がいるらしいのです。
 スミス先生からは、男性の患者が多いらしいから、男性に感染しやすい病かもしれないので、男の使用人や旦那様は接触はしない方がいいだろうと指示を受けております。」

「そう…。私は一応女の子だから、接触して大丈夫ね。
 私がお義兄様の看病をするわ。」


 お義兄様の部屋に行くと、すでにお義兄様は目覚めていた。


「お義兄様、大丈夫ですか?
 倒れられたと聞いて…心配になってしまいました。」

「…心配掛けたな。
 体の怠さはあるが、しばらく寝ていれば治るだろう。
 私は大丈夫だから、アナは勉強を優先するんだ。」

 お義兄様が寝込む姿を初めて見たかもしれない。
 いつもとは違い、弱々しく話すお義兄様を見て、私の方が具合が悪くなりそうだ。

 しかし…、自分が具合が悪くて寝込んでいるのに、私の勉強の方を気にするお義兄様。
 どんだけストイックなのよ!

「勉強はいつも通りにやりますが、今はお義兄様の側に居たいのです。
 いつも私に何かあると、お義兄様は私の看病をして下さったではないですか。
 今回は私がお義兄様の看病をしたいのですわ。」

「そんな風に言われたら、嬉しくなってしまう…
 アナに看病してもらえるなんて、私は幸せ者だ。」

 こんな時でもお義兄様のシスコンはブレないようだ…

「だがアナ…、私はまだ病名がハッキリしていないのだ。
 スミス先生は、男の患者が多いと言っていたようだが、女性が絶対に感染しないとは言っていなかった。もしかしたら、アナに私の病が感染してしまう可能性がある。だから私の側には居ない方がいい。
 接触は最低限にしよう。今日はもうアナの顔を見れたから、私は大丈夫だ。
 早く自分の部屋に戻りなさい。」

 お義兄様はいつだって物事を冷静に判断する方なのよね…
 私がここにいることで、お義兄様に気を遣わせてしまっているのかもしれない。

「分かりました…。でも、食事やお茶は私に運ばせて下さい。
 私がお義兄様の顔を見たいのですわ。」

「嬉しいが…、少しだけだ。私はアナが大切で言っているのだ。それは分かってくれ。」

「はい。少しだけで、我慢しますわ。」


 その日は、お義兄様とそんな会話のやり取りをするくらいのことは出来たのに、翌日からお義兄様は日に日に弱っていった。
 初めは発熱と怠さだけだったのが、咳や喉の痛みが酷いようで、夜間は眠れないようだし、食欲も落ちてしまったのだ。


 その後、お義兄様の診察を終えたスミス先生から話を聞けたのだが、王都の平民男性に同じような症状を訴える者が何人かいるらしいと話していた。

「ルーク様は、外出した時に感染したのかもしれないですね。
 しかし、色々な薬を使っているのですが、どの薬も効果が今一つなのです。
 他に何かいい治療法がないかを調べてはいるのですが…。」

「そうですか…。
 スミス先生、お義兄様をよろしくお願い致します。」

「ええ。知り合いの医師達にも相談してみます。
 お嬢様もお体に気をつけて。」


 ふと気付いてしまった…


 今世の私はお義兄様と仲が良いので、学園が休みの日に二人で外出する機会が多いのだ。
 先週も具合が悪くなる三日前くらいに、二人で美味しいケーキのお店にお茶をしに行ったばかり…。

 もしかして、その時に感染した?

 一度目の人生では、お義兄様と出掛けるなんてなかったから、あの時にはこんなことが起きなかっただけ…?

 私のせいだわ…

 
 
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