巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません

せいめ

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二度目の話

閑話 ブレア公爵令息

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 王宮での茶会でシアに再会した後、私は両親に頼んで公爵家でも茶会を開いてもらうことになった。

 両親には、シアが私の愛する妻だったということを打ち明けてあったので、喜んで協力してくれたのだ。

 茶会では、シアの好きな物を沢山用意していた私だったが、残念なことにシアはどのお菓子にも触れなかった。紅茶に口をつけることすらしなかったのだ。

 そして、我が公爵家自慢のダリアの咲く庭園を案内したいと誘ってみるが、辛いことを思い出すからと断られてしまった。

 記憶持ちは、コールマン侯爵令息ではなくシアなのか…?
 分からない…。でも、シアには何となく警戒されているような気がするし、義兄のコールマン侯爵令息はシアにベッタリで、なかなか彼女に近付くことが出来なかった。

 シアとは、殿下が婚約を打診する前に仲良くなっておきたかったのに、なかなか上手くいかず、私は苦しむことになる。


 そんなある日、父から衝撃的なことを伝えられる。


「アル。コールマン侯爵令嬢が貴族学園に入学する前に、マニー国に留学するらしい。
 優秀な彼女に、家庭教師協会長が留学を勧めたらしいのだ。」

 令嬢で留学?外交官の家門でもないのに…
 どうして…?
 私はシアが学園に入学してくることを楽しみにしていたのに。

「少し早いけど、アナちゃんに婚約を申し込んではどうかしら?
 アナちゃんのことは、どうやら王妃殿下も気に入っているらしいのよ。
 家柄もいいし可愛いもの。それにあそこまで優秀だと聞けば、王家だって欲しいと思ってもおかしくはないわ。
 彼女を取り込めば、優秀だと有名な義兄の子息の力も得られるのだから。」

 両親は彼女のことに関して、とても協力的だから有り難いと思う。

「分かりました!よろしくお願いします。」

 王妃殿下だけではないはずだ。きっと王太子殿下もシアのことを…


 しかし、焦り過ぎてしまったのが良くなかったのかもしれない。
 コールマン侯爵家からは婚約の申込みを断られてしまったのだ。
 更にそのすぐ後には、彼女が王太子殿下の婚約者候補の一人に選ばれてしまう。

 殿下は、あの隣国の悪女にシアが狙われないように、婚約者候補の中の一人ということにしたのだろう。
 殿下の婚約者候補の一人にしておけば、その間は他の縁談は受けられないから、シアを奪われる心配もない。
 
 でも私は、彼女が誰かと結婚するまでは諦めるつもりはなかった。


 そして、シアは留学に旅立つ。


 彼女のいない学園生活は、私にとって無意味な時間でしかなかった。
 そんな私が学園生活で一番面倒だったのは、婚約者のいない私に付き纏う令嬢達だ。
 学生でいるうちに婚約者を決めておきたい令嬢が、私の婚約者になることを狙っているようで、媚びて言い寄ってくる。迷惑以外の何でもない。

 そんな令嬢達に冷たくあしらう日々を送っていたら、あっという間に卒業を迎えていた。


 私の卒業の後、シアが留学から帰国したと知らされる。
 留学では優秀な成績を収め、マニー国の王子殿下からも認められたとか…。
 大国の王族から認められたなどとなれば、当然のように噂になる。

〝コールマン侯爵令嬢は、王太子殿下の婚約者に内定しているのではないか?〟

〝大国の王族と友好関係にあるコールマン侯爵令嬢を、国王陛下と王妃殿下が王太子殿下の妃に望んでいるらしい。〟

 そんな噂話が流れてしまったら、またシアはあの女達に命を狙われてしまう。
 彼女をあの時のようにさせたくない私は、公爵家の影の中でも、一番の手練れの者に彼女の護衛を命じることにした。

 王太子殿下はあの隣国の悪女とフロスト卿を監視しているようだが、フロスト侯爵家と繋がりのある暗殺者組織のことは詳しくは知らないはず…。だから、そっちは私が監視しなくてはならない。

 しかしあの隣国の悪女は、よほど焦っているのか、貴族学園内に暗殺者を送り込んでいた。

 貴族学園は王立で国王陛下が理事長を務めている。もし暗殺者を貴族学園内に送り込んだことが国王陛下にバレたら、宣戦布告と捉えられても仕方がないのに、あの女がここまで愚かだとは思っていなかった。

 学園内に潜伏していた暗殺者は、帰りが遅くなるシアを弓矢で狙ったらしい。ギリギリの所でうちの影が気付き、暗殺者の手元が狂ったお陰で矢は彼女には当たらなかったようだ。

 シアが無事で良かった…。
 
 きっとあの隣国の悪女は、すぐに次の暗殺者を送るはずだ。そろそろ私も本格的に動き出すことにしよう。

 私は街の食堂で働いていた元メイド長に命令をだす。
 客の一人に毒を盛れと。

 長い間、暗殺者組織を監視し続けていた甲斐があり、私を殺した手練れの暗殺者の偽名と外見の特徴はすでに把握していた。
 そのお陰でメイド長には、毒を盛る対象者について的確に伝えることが出来たと思う。

 使用する毒物についてだが、公爵家で新たに開発した毒で、数時間後に眠くなり、自然死のように見える毒の為、毒殺されたと気付きにくい毒である。
 その暗殺者が毒で倒れても、仲間達はハッキリと毒を盛られたとは分からないはず…。

 そして毒殺は成功する。

 元メイド長は、成功報酬欲しさに完璧な仕事をしてくれたのだ。
 元々、客の一人であった暗殺者とは仲良くしていたようだし、毒を盛っても狼狽えず、自然に振る舞うことが出来る元メイド長は、暗殺者組織から疑われることなく、今でも普通に食堂で働いている。
 こんな女だから、あの時にシアに毒を盛っていたことに気付けなかったのだと思う。

 元メイド長はまだ使えそうだから、しばらくはここに置いておくことにした。

 その後、私は暗殺者組織に所属している暗殺者を、一人ずつ目立たずに始末していくように影に命じる。
 
 暗殺者組織も主要メンバーが居なくなりつつあるから、簡単に壊滅させることが出来るはず。
 王太子殿下かコールマン侯爵家が組織の存在に気付いたとしても、もう大丈夫だろう。

 それから数日後、コールマン侯爵家の騎士達によって、暗殺者組織は壊滅させられたようだ。

 暗殺依頼主の証拠を手に入れたコールマン侯爵家と王太子殿下は、無事に隣国の悪女とフロスト卿の断罪に成功したらしい。

 これでシアは、今後は暗殺者に狙われることはないはず…


 それから少しして、ある噂話が社交界に流れる。

 〝コールマン侯爵令嬢が王太子殿下の婚約者候補を辞退した。〟

 あんなに仲が良かったはずの殿下の婚約者候補を辞退するなんて、シアは記憶持ちではなかったのか?
 あの時のシアは殿下と深く愛し合っていたし、泣く泣く別れたのだ。
 もしその時の記憶があるならば、隣国王女という障壁がなくなった今、婚約者候補を辞退するなんて考えられない。


 しかし、彼女の記憶があっても無くても、私はシアを諦められなかった…。


 そんな私は両親に頼み、またコールマン侯爵家に婚約の申込みをすることにした。
 
 

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