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二度目の話

過大評価

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 お義兄様とのダンスを終えたすぐ後だった。

 チクチクと痛いくらいに、色々な所から視線を向けられていることに気付いてしまった私。
 チラッと周りの様子を窺うと、沢山の御令嬢方が、お義兄様に熱い視線を送っている。

 お義兄様はマニー国でも認められるくらいにカッコいいってことなのね。
 自慢のお義兄様だから嬉しく思うけど…。
 何だろう?このモヤッとした感じは。


「コールマン様。ご機嫌よう。」

 そんな時、お義兄様の知り合いらしき、色気のある令嬢に話しかけられる。

「君か…。」

「そちらはコールマン様のご友人の方でしょうか?
 …クスッ!
 とても可愛らしい方ですわね。ぜひ紹介して頂きたいわ。」

 私がちんちくりんだからってバカにしているのね。
 この何となく棘のある言い方と、私を値踏みするかのような目を向けるこの御令嬢は、お義兄様を狙っているってことかしら。

 ハァー。これはよく一度目の人生で、王太子殿下の婚約者をしていた時に向けられていた目だわ。

 一度目の王妃教育で培った笑顔で応戦してやるわよ!

「ご機嫌よう。私はルーク・コールマンの義妹のアナスタシアと申します。
 義兄のご学友の方でしょうか?いつも義兄がお世話になっております。」

「ま、まあ!コールマン様の妹君でいらしたのね。
 失礼致しましたわ。
 ふふ!お二人が似ておりませんでしたので、気付きませんでしたわ。」

 婚約者がいないはずの留学生の連れていた令嬢だから、ただの友人だと思って敵意を向けてきたけど、義妹だと知って、慌ててご機嫌とりでもしようかって考えているのがバレバレよ!
 まさか留学生が、義妹と一緒にデビュタントに来ているとは思わないだろうからね。

「アナ。そんな挨拶は必要ない。
 こちらの御令嬢は、アカデミーは一緒かもしれないが、クラスは違うと思うし、私の友人ではない。
 いつも一方的に話しかけてくる、ただの迷惑な令嬢という認識の人物だ。」

 お、お義兄様…、結構キツいこと言うわよね。

「コールマン様、そんな言い方ひどいですわ!」

 ……私もそう思います。

 こんな異国のパーティーで、騒ぎは起こしたくないのに、お義兄様はどうする気なのよ!

 その時、鈴の鳴るような声が聞こえる。

「バルツァー伯爵令嬢、見苦しいわよ。」

 声の方に目をやると、そこには第三王子殿下を連れたアンゲラー公爵令嬢がいたのであった。

「あ、アンゲラー公爵令嬢。
 私はただ…」

「知り合いでもないのに、馴れ馴れしくアカデミーでコールマン様に付き纏っていたかと思えば、このような場でコールマン様の溺愛する義妹君にまで絡むなんて、恥を知りなさい。
 貴女の軽率な行動が、我が国の信用問題に関わってくるのです。
 コールマン様の義妹君は、アーヴル国の王太子殿下の婚約者候補の最有力と言われる方ですのよ。
 …そうよね?」

 はあ?婚約者候補の最有力?
 そんなの聞いてないけど!
 
 アンゲラー公爵令嬢は、隣にいた王子殿下に話を振る。

「その通りだ。コールマン侯爵令嬢が我が国に留学してくる前に、アーヴル国の王太子殿下から長過ぎる文が届いて、大切な婚約者候補だからよろしく頼むと書いてあったのだ。」

 王子殿下はさり気なく長過ぎる文だと言っている…。

 王太子殿下は手紙に何を書いたのよ!帰国したら、本人に聞き出さないと気が済まないわね。

「コールマン侯爵令嬢は成績優秀で人柄も素晴らしい方だ。
 我が国に友好的である彼女が次期アーブル国の国母になってくれたら、我が国にとってこれ以上に喜ばしいことはないであろう。」

 こんな場で、王子殿下のよく通る声で、そんな事言わないでー!
 期間限定の婚約者候補なのにー!

 死神と関わりたくなかったから、留学しましたなんて、口が裂けても言えないじゃないの!

 王子殿下の期待を確実に裏切る私は、留学を終えたら二度とこの地を踏めなくなるのね…
 うっ…、マニー国が好きなのに残念だわ。
 


「バルツァー伯爵令嬢。そう言うことだから、コールマン侯爵令息と令嬢への態度については気をつけることね。」

「二人に何かあれば、我が国とアーブル国との外交問題に発展する。それを忘れないでくれ!」

 凛としたアンゲラー公爵令嬢と、第三王子とは思えないくらいに迫力のある王子殿下の二人に、ここまで言われてしまったバルツァー伯爵令嬢は、血色が悪くなってしまっていた。

「も…、申し訳ありませんでした。」

 しおらしく私達に謝罪をするバルツァー伯爵令嬢。

「謝罪を受け入れますわ。
 私、マニー国に留学出来たことをとても幸せに感じておりますし、毎日楽しく学ばせて頂いてますの。
 この国の方々とも仲良くさせて頂けたら、とても嬉しく思いますわ。
 ですから、これからも義兄妹共々、どうぞよろしくお願い致します。」

 私は遠い異国の地で、絶対に問題を起こしたくないという強い考えのもと、バルツァー伯爵令嬢の謝罪には、当たり障りなく、無難に返したつもりだったのだが…


 ヒソヒソ…


「まあ、何て慈悲深いのでしょう!」

「あんな失礼な態度を取られたにも関わらず、優しく微笑んでいらっしゃるわ!」

「やはり、次期アーブル国の国母に相応しいお方なのね。素敵な御令嬢だわ!」


 えっ?そこまで言うの?
 やめてー!過大評価しないでー!




「コールマン侯爵令嬢、せっかくだから、私と一曲踊って頂けないか?」

 …くっ!

「王子殿下、喜んで…。」

〝目立たず・騒がず・出しゃばらず〟のスタンスで留学生活を送ることに決めていたのに…

 終わったわ…
 


 
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