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二度目の話

閑話 私が死んだ後 8

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 王太子殿下side


「殿下、私は急ぎでフロスト侯爵家に婚約破棄の手続きをしたいと思いますので、今日のところはこれで失礼させて頂きます。」

 オーデン伯爵は早くこの場から逃げたいらしいが…

「伯爵、残念だったな。娘の婚約の話だけでなく、自分達の派閥が推す者が王妃になれなくなった上に、未来の宰相候補は出世の道を閉ざされてしまったようだ。
 伯爵の派閥の長も、嫡男が王家の婚約を壊したのだから、私と隣国王家それぞれに多額の慰謝料を払わなくてはいけなくなる。
 もしかしたら、没落するかもしれないな。」

「そ、それは…」

「同じ派閥の伯爵達も今後は難しい立場になるだろうが、伯爵の素晴らしい手腕で乗り切ってくれ。」

「ま、待って下さい。私達は…」

「何か話がしたいなら、そこの王宮騎士団長が全て聞いてくれるそうだ。
 ああ、ブレア公爵!公爵の元妻が私の婚約者だった頃によく暗殺者に襲われていたのは覚えているよな?
 もしかしたらオーデン伯爵が詳しく知っているかもしれないから、一緒に立ち会って話を聞いてもいいぞ。
 あのデイジー元王女が暗殺者を雇っていたらしいが、デイジー元王女と伯爵の派閥の者達は、前からの知り合いだったらしいからな。」

 伯爵は蒼白の顔になっていた。

「殿下、このような場に私を呼んで下さって、ありがとうございます。
 私も王宮騎士団長と行動を共にし、オーデン伯爵の話を聞かせてもらい、今後の成り行きを見守りたいと思っております。」

 アルマンの光を失った目は、新しい獲物を睨みつけていた。

 アナが亡くなり二年近く経つが、未だに全身黒の服装のアルマン。
 あの頃、私の婚約者であったアナが、暗殺者に襲われたと報告を聞くたびに、私の横にいたアルマンが怒りで震えていたことに私は気付いていた。
 きっとアルマンは、フロスト侯爵とその派閥を許さないだろう。今後アルマンが、どのように報復するのか楽しみでもある。


 私もアルマンと一緒で、心が壊れてしまっているのかもしれない…


 後日デイジー元王女は、自分はフロスト卿に襲われただけの被害者で、特別な関係ではないと得意の泣き真似をして訴えていたらしいが、その数日後に妊娠が発覚すると、何も言えなくなっていた。
 デイジー元王女とフロスト卿が飲んでいた避妊薬の中身が、実は精力剤だったと知らされた時の二人の反応は、なかなか面白いものであったと思う。

 デイジー元王女を溺愛していた隣国の前国王は、事故に見せかけて殺されたらしいし、今の国王は犬猿の仲であった異母兄で、祖国には全く頼れない状況なのだ。
 元々身持ちが悪く、異性関係にはだらしない王女だったが、溺愛される国王の娘として甘やかされて育ってきたらしい。

 コールマン侯爵は商人の伝手を頼って、まだ王太子だったデイジー元王女の異母兄に、非公式に接触することに成功したようだ。
 異母兄とその母の隣国王妃、王妃の実家である公爵家は、デイジー元王女の話を聞き、両国の同盟関係に亀裂が生じるのを恐れ、前から計画していた前国王とデイジー元王女の母である側妃の暗殺を決行することにしたらしい。

 そんなデイジー元王女はフロスト卿と結婚して、二人一緒に幽閉されることに決まる。隣国王家の血を引く元王女を、平民として自由に生活させるのはあまりに危険だと判断されたのだ。
 幽閉先からは、男女の怒鳴り合う声が聞こえてくるらしいが、二人が元気な証拠だから何の問題もないだろう。
 生まれてくる二人の子供は、隣国王家に引き取ってもらう予定でいる。

 フロスト侯爵家は多額の慰謝料を払いきれず没落。
 同じ派閥であった貴族達からは聞き取り調査をしている段階だが、もし罪に問えることがなかったとしても、今後は他の派閥からの風当たりが強くなるだろうし、ブレア公爵とコールマン侯爵からの報復に怯える日々を送ることになるのだから、十分に生き地獄だと思われる。







「コールマン侯爵のお陰で、あの悪女と裏切り者を始末できた。感謝する。」

 断罪後、私達は二人で祝杯をあげていた。

「私は、ただアナの無念を晴らしたかっただけです。」

「本当にすまない。私のせいだ…。
 アナは私のせいで不幸になったのだ。」

「殿下だけの責任ではありません。私もアナを守れなかったのですから。
 大切な義妹が愛した殿下を責めようとは思いません。もう謝罪はしないで下さい。」

「そのように言ってくれて助かる。」

 コールマン侯爵の表情は穏やかそうに見えたが、

「殿下、フロスト元侯爵やオーデン伯爵などは、私の好きにさせてもらってもよろしいですか?」

 やはり報復する気でいるようだ。

「バレなければ好きにして構わない。
 しかし、ブレア公爵も何かしたがるだろうな。」

「ブレア公爵閣下には、バーカー元子爵令嬢の生殺与奪権を譲ったのですがね…。」

「顔を合わせたくないと思うが、そのことは二人で決めてくれ。
 ところで……、コールマン侯爵はアナを愛していたのか?」

 私はずっと気になっていたことを、酒の勢いで聞いてしまった。

「そんなことは初めて聞かれました。
 私は…、よく分からないですね。でも…、愛していたのでしょうか。
 それがどういった愛なのかは分かりませんが…、コールマン侯爵家に養子として迎えられた時に、可愛い義妹ができたて嬉しかったことは覚えています。
 今更ですが、アナと仲の良かった殿下が羨ましいと感じたことは沢山ありましたよ。私はそこまで親しくなれませんでしたから…。」

 いつも無表情のコールマン侯爵は、アナのことを話す時だけは感情が分かりやすいのだ。

 
 きっと自覚していないだけ…


 もし私とアナが婚約する前に、コールマン侯爵が己の感情に気付いていたら、私はアナとは婚約は出来なかっただろう。
 この男がライバルだったらと考えるだけでゾッとする。
 だからと言って、私は簡単にアナを諦めたりはしなかっただろうが…。





 アナと初めて会った時、可愛らしい令嬢だと思った。
 私になど興味を持たず、茶会のお菓子を嬉しそうに食べる姿に、私だけでなく、どの令息も視線を向けていた。
 気づいたらアナばかりを目で追っていて、すぐにこれが恋なのだと気付いてしまった。


 アナは厳しい王妃教育も一生懸命やってくれた。
 少し抜けているところもあるが、真面目で努力家で、私にだけは自然に接してくれて、面白くて、泣き虫で…
 そんなアナを私は深く愛していた。


 私とアナの婚約が解消された後、彼女は私の側近であったアルマンとすぐに婚約することになり、私は胸が張り裂けそうであったが、その感情を何とか誤魔化して、アナの幸せのために静かに見守ろうとした。


 しかし、アナは幸せにはなれなかった。


 アルマンならアナを幸せにしてくれると信じていたのに…


 いや、私が全て悪い。
 側近や悪女に騙されていたことに気付かず、アナを手放すことしか出来なかった私が悪いのだ。








 悪女との結婚がなくなった私は、新たな婚約者を決める気にもなれず、ひたすら忙しい日々を送っていた。


 無理が祟ったのかもしれない。
 ある日私は、流行病で寝込んでしまう。





 どれくらい寝込んだのだろうか?





 目覚めた私は、自分が7歳の頃に戻っていた…

 



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